【第41話:雄飛のコーヒーを美女三人が判定する】
俺が店内掃除をほぼ終えたタイミングで、着替えを終えたメイド服姿の美少女3人が現れた。
今日はもう一つ、彼女たちに言っておきたいことがある。
「今日は俺がコーヒーを淹れるよ」
その言葉に最初に反応したは、意外にも神ヶ崎だった。
「ホント? 大丈夫なの秋月? この前は、簡単じゃないって言ってたでしょ?」
「ああ、大丈夫だ。この一週間、毎日親父に特訓を受けたからな。もう大丈夫だって、親父のお墨付きが出た」
「そうなの?」
「へぇ、そーなんだ。じゃああたし達に飲ませてよ。ホントに大丈夫か、あたしが判定してあげるよ!」
嬉しそうなドヤ顔やめて。
ここでダメ出しされたら立ち直れない。
「なに固まってるの、秋月?」
「あ、いや……」
この三人には、毎回バイト終わりに親父がコーヒーを振る舞って、みんな美味しいって言って飲んでいた。
つまり彼女たちにダメ出しされるってことは、俺のコーヒーはお客様にお出しできないレベルだってことだ。
「わかった。淹れるよ」
これでもしも一人でもダメ出しをされたら、俺は店長を降りよう。
そう覚悟を決めて、彼女たちの判定を受けることにした。
俺は親父に事情を説明してキッチンに入り、コーヒーを淹れ始めた。
「ほぉほぉ、なかなか手つきがいいじゃん」
気がつくと美女3人が、キッチンの入り口から、顔だけ出して覗いていた。
浜風さんがこんな行動するのはわかるけど、京乃さんや、なんと神ヶ崎まで。
よっぽど俺の淹れるコーヒーが心配だってことか。
くそっ……悔しいじゃないか。
わかった。その不安を吹き飛ばしてやろうじゃないか。
「緊張するから覗かないで、客席で待っててくれ」
野次馬を追い払った。よし、落ち着こう。
まずは挽いたコーヒー豆にお湯を少量、丁寧に注いでじっくり蒸らす。
しばらく置いてから、今度は本格的にお湯を注ぐ。
丁寧に丁寧に。心を込めてコーヒーを淹れた。
***
「お待たせ」
メイド服のまま客席に座っている美少女3人。なんだか不思議な光景だが、圧巻のビジュアルである。
それぞれの前にコーヒーカップを置いた。
「うわぁ、いい香りだねっ!」
「そうですね!」
三人はカップを手に、ゆっくりとコーヒーを口に含む。
親父の指導通りにできたし、ベストは尽くした。
後は運命の判定を待つだけだ。
「うん、美味しいっ! すごいよ秋月っち!」
「うん、美味しいわ。すごいじゃない」
浜風さんと神ヶ崎の合格は出た。
いつも厳しい言葉が多い神ヶ崎に褒められると、やけに嬉しいやら恥ずかしいやら。
感情の持って行き場に困る。
たが……一番気になるのは、最も舌が確かな京乃さんの判定だ。
さすが彼女は、口に含んだコーヒーを他の二人よりもじっくりと味わっている。
眉間に皺を寄せた真剣な表情からは、美味しいのかどうか読み取れない。
うわ、ドキドキする。どうなんだろう?
「京乃さん。忖度もお世辞もなしの感想を頼むよ。不合格なら不合格って言ってほしい。だってこのコーヒーをお出しするお客様は、忖度もお世辞も関係ないんだから」
「秋月さん……わかりました。その真剣で誠実な姿勢にお応えして、私も真剣な感想を言います」
極めて真面目な顔つきな京乃さん。
俺はさっき、もしも一人でもダメ出しをされたら店長を降りようと覚悟を決めた。
覚悟を決めたはずなんだけど、いざ判定を言い渡されると思うと、心臓が破れそうに痛い。
じっと京乃さんの表情を見つめていたら、ふと彼女の表情が緩んだ。
そして俺に視線を向けて、満面の笑みを浮かべる。
「マスターの淹れるコーヒーとまったく同じ味がします。美味しいです。秋月さん凄いです。凄すぎです。尊敬しかありません」
うわ、絶賛だ。すごく嬉しい。
「あ、ありがとう」
正直言って、親父のスパルタには参った。
途中ではずっと『こんなのダメだ』『美味しくない』と言われ続けた。
一週間やそこらでは無理かと思ったんだが、ようやく昨夜に親父のOKが出た。
本当は2、3日前から既に大丈夫だったらしい。それをわざとダメ出しをして、さらにレベルアップさせたと親父が明かした。
その話を聞いた時に最初はムカついた。だけど、実際に俺のドリップの腕がさらに上達したのは間違いない。
より美味しいコーヒーのために妥協しない親父のポリシーに感服だ。
おかげで俺は店長を降りることなく、このコーヒーをお客様に提供するチャンスを得たのである。