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【第39話:バイト三日目】

<TOP3美女side>


「おおーっ、秋月っちも前野君も、歌上手いじゃんっ!」

「そうですよ、上手ですね!」


 足立の計らいや、鈴々や雅が中心になって盛り上げてくれたおかげで、雄飛と前野は、そのうちアウェイ感も徐々に薄れてきた。


 途中で雄飛は千葉とも雑談を交わし、交流を深めることができた。話してみると案外いいヤツだった。

 今回の件は彼がホントに前野に嫉妬して拗ねただけで、本当に雄飛達を見下していたわけではなかった。


 雄飛と鈴々たちは昨日一緒にカフェに行き、さらに今日は一緒にカラオケに行った。

 その事実があれば、クラス内で雄飛がTOP3美女と仲良くしても、なんら違和感がなくなった。まさに雅の思惑通りだ。


 女子達の作戦立案力と実践力には感心するしかない。

 それに周りに気を配り、全体を盛り上げようとする鈴々のコミュニケーション力にも雄飛は感心する。


「次は足立君、歌いなよっ!」

「おう、任せとけ!」


 足立が歌っている最中に、雄飛は鈴々とふと目が合った。

 にやりと笑ったハーフ美少女は「どう? あたしの作戦、イケてるでしょ?」と言わんばかりに、雄飛に向けてドヤ顔でサムズアップした。


(ちょ、待てよ。皆に怪訝に思われたらどうすんだよ?)


 冷や冷やする雄飛だが、今回は鈴々のおかげでうまくいったのは間違いない。

 うっかり者だと思っていた鈴々を見直した。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 向かい側に座る雄飛と鈴々は、なんとなくアイコンタクトでそんな会話を交わす。

 横に座る雅には、他の人が歌っている最中に、耳元で直接「ありがとう」と伝えた。


「ふわっ……どういたしまして」


 耳に雄飛の息がかかり、くすぐったそうに微笑む雅。顔を近づけたせいで、ふわりと甘い香りが漂う。


 そしてやや離れたところから遠めに見ていた涼香とも目が合った。


 どうやら彼女も、雄飛がみんなと馴染めるか心配してくれていたようだ。

 最初は不安そうな固い表情だったが、今は穏やかになっているのがそれを物語っている。


 三人とも、自分を心配してくれている。


「ありがたいな」


 雄飛は誰にも聞こえない小声で呟いた。



◆◇◆


 その日の夜。真面目な雅は帰宅して着替えるなり、机に向かって宿題をしていた。

 課題をひと通り終えて、ぐっと伸びをする。そしてベッドにボスンと頭から飛び込んだ。


「ふぅっ……疲れました」


 枕に顔を乗せてだらんとリラックスしたら、ふとカラオケに行ったことが頭に浮かんだ。

 自分にしては大胆なことをしてしまったものだ……と、今さらながらに恥ずかしくなる。


 それは雄飛が座ったシートのすぐ横が空いているのに気づいて、さりげなく隣に座ったこと。

 普段は自分から男子の近くに寄るなんてことは、もちろんしない雅である。

 だけどあの時は、まるで吸い寄せられるように、自然と雄飛の隣に座った。


 しかも結構距離が近すぎた。

 不器用な雅は、適度な距離を置くことに失敗したのである。


 そして事件は起きた。

 突然雄飛が顔を近づけて、話しかけてきた。


 ──え? ち、近いよね……?


 そう思う間もなく、雄飛の顔がどんどん近づいた。

 あまりに近い距離で心臓が破裂しそうな雅の耳に、雄飛は「ありがとう」と囁いた。と同時に、温かな吐息が雅の耳をくすぐった。


 それは最接近したドキドキと同時に──何と言ったらいいのか、背筋がゾクリとするくらい気持ちが良かった。正直に言うと少しエッチな気分になった。


「きゃっ……」


 生真面目な雅は、エッチな気分というワードが頭に浮かんだだけで、とてつもなく恥ずかしい。

 枕に顔をうずめて、自然とバタバタと激しく足を動かしてしまう。


「んもう……秋月さんの顔を恥ずかしくて見れなくなりそうです」


 誰に言うでもなく、真っ赤に熟した色になった雅は、しばらくの間悶絶していた。




◆◇◆<TOP3美女side>


 その週の日曜日がやって来た。TOP3美女たちにとって、『カフェドひなた』で3度目のバイトの日だ。


 お店への出勤のために最寄り駅で待ち合わせをして、3人で電車に乗る。


 今までの2回とちょっと異なる気持ちを抱えているのは鈴々(りんりん)

 他の二人には明かしていないが、雄飛への恋心を自覚した彼女は、彼に会うことに今までより何倍も胸が躍る。


 と同時に、不安もある。

 彼は自分のことをどう思っているのだろうか。


 涼香や雅は仕事でよく褒められるけど、自分は明るい性格を褒められることはあっても、仕事を褒められることはない。


 ──そりゃそうだよね。おっちょこちょいばっかしてるんだから。


 情けない。自分でも、それじゃだめだと思っている。


 お店の役に立ちたい。

 彼から、できる子だと思われたい。

 なにより、シンプルに彼に褒めてもらいたい。


 さらに、彼に可愛いと思ってもらいたいし、いい子だと思ってもらいたいし、なんなら大好きだと思ってもらいたい。


 なんと欲張りなことだろうかと、鈴々は自分でも呆れ果てる。

 だけど仕方ないよね。それが恋する乙女の気持ちっていうもんだ──とも思う。


「よぉーし、がんばろっと!」

「突然どうしたのですか、りんちゃん?」

「そうよ。電車の中で突然大きな声を出したら驚くじゃない」

「あ……ごめん」


 つい自分の世界に入り込んで、電車の中であることをすっかり忘れていた。


「まあ気合が入ってるのはいいことだけどもね。仕事熱心よね」

「そうですね。りんちゃんっぽくて、いいんじゃないでしょうか。とても仕事熱心です」


 温かい目で鈴々を見る親友二人。

 仕事熱心の理由が恋心だとは、まだ二人とも微塵も気づいていない。


「そっ、そっかなぁ、えへへ」


 雄飛のことで頭がいっぱいだなんて口に出せなくて、鈴々は笑ってごまかした。


 そして鈴々は心の中で誓う。


 ──よぉーし! 今日はノーミスで行くぞっ!!


 そしていい接客をして、秋月っちに褒めてもらうんだ。

 彼にいいところをたくさん見せて、あたしを好きになってもらうんだ!


 うん、そうだよ。今日は頑張るぞっ!!!!

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