【第37話:クラスで大ごとになる】
◆◇◆<TOP3美女side>
翌朝。鈴々はいつも通りに登校した。
席に座ると凉香や雅、そしてイケメン三人衆が集まってきて、雑談が始まる。
人を惹きつける人柄の良さも兼ね備えている証拠だろう。明るく天真爛漫な鈴々は、いつも皆の真ん中にいる。
大して中身のない会話であっても、仲間みんなでワイワイ騒ぐのは楽しい。
だけど今日は、自分や雅が雄飛と交流があることを、クラスの皆に知らしめるというミッションが課せられているのである。
さすがの鈴々も緊張を抑えられない。
教室の入り口の扉に度々、さりげなく視線を向ける。
雄飛がいつ登校してくるかと気もそぞろになる。
そして──とうとう教室に彼が入ってきた。
(来たっ!)
彼はいつも鈴々の席の横を通って、自分の席に着く。
雄飛の姿がどんどん近づいてくる。
それにつれて鈴々の心臓の鼓動がどんどん高まる。
リア充グループの横を通り過ぎようとした時、雄飛はチラと鈴々に視線を向けた。
ぱちと視線が合う。
鈴々の心臓が、ひときわ高く、ドクンと鼓動を打った。
(あ……今朝の秋月っち、とってもカッコいい)
そんな感情が一瞬で胸にあふれて、ついテンパってしまった。
「おおおあおお、おはよー秋月くん!」
「ふわぁっ!?」
不意に鈴々に話しかけられた雄飛は思わずのけぞった。
「あ、ごめん。ききき、昨日はありがと~! 楽しかったね!」
力が入りすぎて声が大きい。教室内の生徒達が一斉に振り向いた。
イケメン足立が不思議そうな顔をした。
「あれっ? どうしたの鈴々。昨日、秋月と何かあったのか?」
「あ、うん。昨日の放課後、一緒にカフェに行ったんだよ」
「へぇ、珍しいな」
「まあね」
──トップ3美女の一角、浜風 鈴々が、平凡男子の秋月と一緒にカフェに行っただと?
クラスのあちらこちらで、小さなどよめきが起きる。
「マジか?」
「浜風さんが秋月と? まさかデート?」
「んなことないだろ。なにか用事があったんじゃないか?」
それにしても秋月のヤツ、羨ましい。そんな空気が流れる。
そこに雅も追撃する。
「ありがとうございました秋月さん」
「あ、いや……こちらこそありがとう」
「ん? もしかして雅も一緒だったのか?」
「はい。私も一緒でしたよ」
──浜風さんだけでなくて、京乃さんまで秋月と一緒にカフェに行った!?
より一層クラスのざわめきが大きくなる。
そのざわめきを切り裂くように、イケメン足立の声が響く。
「へぇ、これまた珍しいな! なにかあったのか?」
「うふふ、何があったと思う? 足立君」
「いや、わからんな。どういう取り合わせだよ秋月?」
爽やかイケメンが楽しそうに白い歯を見せて、雄飛を見た。
男が見ても眩しいなコイツ、と雄飛は感心するが、クラスの皆に注目されたこんな場面でどう返事すればいいのかわからずに戸惑う。
「なに黙ってんだよ秋月。隠しごとすんのかよ?」
足立とは対照的に、少し機嫌悪そうな声を出したのはイケメンABCの一人、読者モデルをしている千葉だった。
雅に気がありそうな彼は、きっと雄飛が気に食わないのだろう。
「いや別に、隠しごとなんかじゃないよ。街中でたまたま会って、カフェに行くことになっただけだ」
「まさか秋月が、彼女たちを無理やり誘ったんじゃないだろうな?」
「無理やり誘ったりなんかしないよ」
「ホントか?」
千葉が不機嫌な視線を向ける。雄飛は明らかに嫉妬されている。
そこに前野が、突然近づいて来た。
「いや待たれよ千葉氏。誘ったのは秋月氏ではなく、僕だ」
誇らしげに胸を張る前野。
「えっと……お前、いったいなにを言ってんだ?」
雄飛以上に目立たないオタク男子の突然の発言に、理解が追いつかない千葉がきょとんとする。
「だから、秋月氏と僕が一緒にカフェに行こうとしたところに、浜風さんと京乃さんに偶然出会ったのだよ。だから僕がお二人に、一緒に行きませんかって誘った」
「は? 雅がお前の誘いに乗っただと?」
「ああ、そうだ」
「アホか。寝言は寝て言え。雅は今まで俺が何度かお茶に誘ったけど、まだウンと言ってもらってないんだぞ。なんでお前みたいなオタクの誘いに乗るんだよ。嘘をつくな」
雄飛は、自分のことはバカにされてもそんなに腹は立たない。
だけど何も悪くない前野が見下されてカチンときた。
「おい待てよ千葉。前野が言ったのは事実だよ。なのにそんなバカにした言い方はなんだよ」
「は? お前こそなに偉そうに言ってんだよ秋月。お前だって調子に乗ってんじゃんねえよ」
さらに千葉は小声でボソッと「この地味男子コンビがよ」とつぶやいた。
それが耳に届いて、普段は温厚な雄飛もさすがにキレた。
──その言いぐさは我慢できない! 謝れっ!!
雄飛が口を開け、そう叫びかけた瞬間。
横から意外な人物が怒りを含んだ声を上げた。
「千葉、調子に乗ってるのはあなたでしょ。いくらなんでも秋月と前野に失礼すぎるわ」
声の主は涼香だった。
不意打ちをくらった千葉から、それまでの偉そうな態度が崩れ去った。
「え? あ、いや……」
「二人に謝りなさいよ」
涼香は普段からクールで愛想がいい方ではないが、ここまで怒りを含んだ声を出すのを鈴々や雅でさえも聞いたことがなかった。