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【第35話:彼からの評価を聞きたい鈴々】

 浜風さんみたいに変な理由じゃないよな。

 ちょっと不安になりつつ、京乃さんがバイトをする理由を尋ねた。


「私はですね。実は将来はパティシエになりたいという夢がありまして。そのために今からスイーツ作りの道具をたくさん買いたいのです」

「おおっ、そうなんだ。勉強熱心なんだな」

「いえ、勉強熱心というより、好きでやってみたいだけです。それにカフェでのバイトなら、ケーキ作りもお店の運営も学べるので、私にとっては一石四鳥なのです」


 京乃さんは目をキラキラと輝かせて、幸せそうに語ってくれた。

 なるほど。だから彼女は最初の時から、ここでのバイトをやりたがっていたのか。


「そこまで具体的に夢があって、しかもそこに向けて行動してるなんて、京乃さんってすごいね」

「ありがとうございます。でもそんな大したものじゃないです。秋月さんこそ、お母様の夢を継いで高校生でカフェの店長をしてるなんて、とても尊敬します」


 黒髪清楚美少女が、キラキラした眼を俺に向けた。

 俺のほうこそ、そんな大したもんじゃない。だからそんな憧れの眼で見られたら、恥ずかしくてたまらない。やめて!


「と、ところで神ヶ崎がバイトをする理由って、なんなんだろうね?」

「えっと、それは……あたし達が勝手に言うのもなんだから本人に訊いてよ。教えてくれるかどうかはわかんないけど」

「神秘のベールに包まれてるのか!?」


 訊いてはいけないことを訊いた気がして、冗談っぽく返した。

 だけど教えてもらえるかどうかわからない理由って、一体なんなんだ?


 ──気になる。


「あ、でも秋月っち。涼香ちゃんは『カフェ・ド・ひなた』のバイトは一生懸命やりたいと思ってるからね。大丈夫だよ」

「そうですよ。すずちゃんはこの仕事にやり甲斐を感じてるので、よろしくお願いしますね」


 二人して必死にフォローしてる。


 ──そう言えば思い出した。


 初めて彼女たちが『カフェ・ド・ひなた』に来た翌日。

 浜風さんがうっかり俺を『秋月っち』と呼んでしまったことについて、京乃さんと神ヶ崎が一生懸命フォローしてたっけ。


 この子たち、お互いがお互いをフォローしあって、仲がいい。こういう友達関係っていいよな。


 彼女達が容姿だけでなく、人間性も優れているんだってところをまた一つ知った。


「うん。神ヶ崎がみんなのこともお店のことも、一番考えてくれているのはわかってる。仕事も早くて正確だし、『カフェ・ド・ひなた』に無くてはならない戦力だよ。だからバイトする理由がなんであっても気にしない」

「おおーっ、秋月っちは涼香ちゃんを信頼してるんだね」

「お、おうっ。そんな意外そうな顔をしないでくれよ」


 俺と神ヶ崎は反発し合ってるように見えるだろうし、浜風さんがそう言うのもわかるけど。


「俺は神ヶ崎だけじゃなくて、みんなに感謝してる。京乃さんの料理の腕に感心したし、おかげで怒涛の忙しさを乗り切れた。京乃さんも無くてはならない戦力だよ」

「え……あ、ありがとうございます……う、嬉しいでしゅ……」


 うわ、京乃さんが爆発しそうなくらいに真っ赤になった。

 めちゃくちゃ恥ずかしい思いをさせてしまったようだ。ごめん。


「ねえ秋月っち。あたしは?」


 珍しく緊張した表情で、自分を指差し尋ねるハーフ美少女。

 仕事は頑張っているけど、まだまだミスも多い。仕事の戦力という意味では、正直言って改善してもらいたいところもまだまだある。だけど──


「天真爛漫で明るくて、ムードメーカーとしてとても助かってる。ありがとう」

「あ、うん。まあ仕事はもうちょっと頑張るよ……もしかして秋月っち、あたしみたいな調子のいい女子は嫌いかな?」

「え?」


 なぜ突然そんなふうに思ったんだろうか。

 そんなことを感じさせることを俺、言ったかな?


「だって、みやちゃんも涼香ちゃんも真面目で仕事もできるけど、あたしはおっちょこちょいで迷惑かけてるくせに能天気だからさ……秋月っちは、本音では迷惑に思ってるんじゃないかなって思ってるんだ」


──あ。あまり深く考えないタイプだと思っていたけど、そんなふうに気にしていたのか。


「何言ってんだよ。浜風さんは周りのみんなのために、意識して明るく振る舞っているんだよね」

「あ、いや……べ、別にそこまで大したもんじゃ……あるかな?」


 言って、えへへとブロンドヘアの頭を掻くハーフ美少女。仕草が可愛い。


 こんなに他人に気遣っている彼女に、悲しい思いをさせちゃいけない。

 でもどう言えばうまく伝わるんだろう。えっと……


「自分がつらい時でもみんなのために明るく振る舞うなんて、俺にはできない。それをがんばる浜風さんを、嫌いなはずないじゃないか。そういう人は好きだよ」


 浜風さんが、大きく美しい瞳で俺をじっと見つめている。

 しまった。好きだなんて言葉は、もちろん人としてという意味だけど、女子に対して言うべきじゃなかったかも。だけど今さら否定するのも変だし、どうしよう……


「ありがと秋月っち」

「あ、いや。どういたしまして」


 浜風さんは頬を朱に染めて、照れたようにブロンドの髪を指先でくるくるといじっている。

 その可愛らしい姿に目を奪われて、それ以上何も言えなかった。


 そうこうしているちに、俺の家の最寄り駅まで着いた。

 改札前の電光掲示板で電車が復旧していることがわかった。


「じゃあ、あたし達はここから電車乗るよ」

「秋月さん、今日はありがとうございました。ホント楽しかったです」

「こちらこそありがとう。二人とも気をつけて」

「はい」


 そこからの一駅、浜風さんと京乃さんは電車に乗って帰って行った。


 俺は改札で彼女たちを見送った後自宅に帰り、今日も夕食後に親父にコーヒーの淹れ方の特訓を受けた。

 なかなか奥が深いし、しかも親父がスパルタなもんで、コーヒーを淹れるだけでも大変だ。


 それにしても気になるのが京乃さんの言葉だ。


『カフェでのバイトとはまったく関係なく、秋月さんと私たちが交流があることを、クラスで知らしめておいた方がいいのです』


 そして京乃さんは、自分たちに任せてくれとも言っていた。

 いったいどうするつもりなんだろう。

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