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【第34話:美少女達がバイトをする理由】

 今日一緒にカフェに行ったことを、積極的にクラスで話すべきだと京乃さんは言った。


「なぜそう思うの?」

「秋月さんと私たちは、実際には『カフェ・ド・ひなた』で深い関わりがあります。にも拘わらず、これから先ずっと関わりのないフリをするというのは、どう考えても無理があります。同じ教室にいるのだから、そのうち親しく接してしまうこともあるでしょう」


 言って、京乃さんは視線をチラリと浜風さんに向けた。


 なるほどおっしゃる通りですね。

 ついこの前も浜風さんは、うっかり秋月っち呼びをしたもんな。確かにリスクは大いにある。


「ですので秋月さんと私たちが今回のことで交流があることを、クラスで知らしめておいた方がいいのです」

「なるほど。確かにそれはわかる。でもさっきも言ったように、俺みたいな平凡男子が京乃さんや浜風さんのような高嶺の花と仲良くすると、嫉妬する男が本当にいるんだよ。足立や千葉みたいにイケメンが仲良くするのは、みんな認めるんだけどな」

「お言葉ですが秋月さん」

「はい……?」


 いつも穏やかで控えめな京乃さんが、突然強い口調になった。


「秋月さんは自分のことを、『平凡、平凡』と言いますけど、決して平凡じゃないですよ。カフェで店長として一生懸命なところとか、私たちスタッフを助けてくれるところとか、充分カッコいいです。足立さんや千葉さん達にも決して劣っていませんよ。イケてます」

「ありがとう。そんなこと言ってくれるのは京乃さんだけだ」


 気遣いができて、お世辞がちゃんと言える京乃さんだけだ。

 でもさすがにイケメンABCの面々にも劣ってないなんて、無理があり過ぎる。


 京乃さんも自分が無理やり言っている自覚があるのだろう。その証拠に顔が真っ赤だし、唇が震えている。

 生真面目な女子にここまで気を遣わせてしまって、ホントに申し訳ない。


「ちょっと待ってよ秋月っち。あたしだって言うからね。秋月っちはイケてるよ!」

「なにその、取って付けたようなお世辞は?」

「取って付けてなんかないし、お世辞じゃないし、前から思ってるし!」

「ああ、そうか。ありがとう」

「ああっ、なによその、気のない返事は。あたしの言いうことを信じてないでしょ?」


 TOP3美女の二人から俺がイケてるなんて言われても、気遣いからくるお世辞としか思えないよね。

 いや、待てよ……


「信じるよ。カフェの店長としての俺を認めてくれてるってことだよな」

「もちろん店長としての秋月っちは素敵だよ。でもそれだけじゃなくて、性格も含めて男子としていいと思うよ。見た目も爽やかだし」

「ああっ……それ私が言いたかったのに。りんちゃんのバカ……」


 蚊の鳴くような小さな声で京乃さんが何かを言った。

 だけどイマイチよく聞き取れなかった。


「ただしカフェの時みたいに、きっちり身だしなみ整えたらね」

「クラスのみんなにあんな姿を見せるのはハズいから嫌だ。それに朝はゆっくり寝ていたいから、身だしなみに時間を使いたくない」

「この頑固者!」

「頑固者で悪かったな」

「むうぅぅ……」


 しまった。浜風さんを怒らせてしまったか?


「まあとにかく秋月さん。総合的に考えて、やはり今日のことはクラスで言った方がいいと思います。私たちにお任せください」

「あ……うん。京乃さんがそう言うならわかったよ」

「はい。ありがとうとざいます」


 そこからしばらく無言が支配した。しんとした空間が気まずい。

 それに前から気になっていたことがあるので、つい口にしてしまった。


「あの……ところでさ。訊いていいかな?」

「なぁに?」

「二人はなぜバイトをしようと思ったんだ?」

「なるほど。秋月っちは浜風さんのことをもっと深く知りたいと。そういうことだね?」

「別にそうは言ってない」


 そもそも『二人は』と訊いたはずだ。

 浜風さんは聞き逃したのか? いつもどおりのうっかりか?


「わかってるけど、そんなはっきり否定しないでよ。こう見えても傷つくから」


 ──あ、冗談だったのか。

 申し訳ないことした。フォローしなきゃ。


「ごめん。ホントは浜風さんのことをもっと深く知りたいんだ。だけど恥ずかしくて、そうなんだと言えなかった」

「おほっ、そ、そうでしょ? そうだと思ったよ」

「うん。同じ職場で働く仲間として、やっぱり知っておいた方がいいもんな」

「そこか!」


 そこ以外、どこがあるって言うんだよ。


「まあ、いいや。あたしがバイトする理由はね……」


 急にキリリとした顔になった浜風さん。

 彼女が纏う真剣な空気に少し緊張した。

 どんな重大な秘密が明かされるのだろうか。


「お腹いっぱいケーキを食べるため」

「へ?」


 一瞬、このブロンドヘアのハーフ美少女が、いったい何を言ってるのかわからなかった。


「えっと……それは何かの例えかな? 人生を充実させたいとか」

「ううん、違うよ。お腹いっぱいケーキを食べたい。そのまんま」

「じゃあ食べればいいのでは? ケーキくらい小遣いで買えるでしょ」

「だって買いたい服もコスメもあるし、友達と遊びにも行くでしょ。そしたらケーキをお腹いっぱい食べるお金が足りないんだよね。パパやママにお願いしても、適量が大事って言って、たくさんは買ってくれないし」


 それはご両親が極めて正しい。


 浜風さんは単なる食いしん坊さんだった。

 ブロンドヘアのハーフ美少女という外見からは、それこそ思いも寄らないバイト理由だった。


 これ以上、このうっかり美少女を深掘りするべきではない。

 俺の野生の勘がそう言ったから、真面目な清楚美少女の方に目を向けた。


「えっと……じゃあ京乃さんは?」


 これまた変な理由じゃないよな……ちょっと不安になりながら、恐る恐る尋ねた。

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