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【第33話:三人一緒に歩いて帰ろう】

「あれぇっ、秋月っち!? どうしたの? 一人?」

「前野さんはもう帰られたのですか?」


 横からかけられた声に振り向くと、驚いた顔をした浜風さんと京乃さんが立っていた。


「前野は地下鉄で帰ったよ。俺はJRなんだけどさ。事故で運転見合わせなんだって。だからここから歩いて帰ろうかと思って」

「えぇっ運転見合わせっ!? ……あたし達もJRなんだよ!」

「秋月さん、歩いて帰るって、近くなんですか?」

「うん。JRで一駅だから歩いて20分くらい」

「ああ、そうなんですね。私たちは二つめの駅です」


 二人はちょっとした買い物を済ませて、もう帰ろうと駅に向かうところだったらしい。

 よくよく訊くと二人は俺とはすぐ隣町の中学出身で、俺の家と彼女たちの家は同じ路線で隣の駅。歩いて15分くらいの距離だそうだ。


 神ヶ崎も同中おなちゅうで、TOP3美女と俺は、なんと隣町に住んでいることが判明した。


「じゃああたし達も、秋月っちと一緒に歩いて帰るよ」

「ちょい待て。俺んちは一駅だからいいものの、二人の家まで歩いたら40分くらいかかるよな」

「そうですね。でもいつ動くかわからない電車を待って遅くなるより、歩いて帰った方が私もいいと思います」


 確かにもうすぐ6時だ。学校帰りで制服のままだし、繁華街であまり遅くまでうろうろしてるのも良くない。


「わかった。じゃあ同じ方向だし、途中まで一緒に帰ろうか」

「はいっ、ぜひ!」


 なんだか嬉しそうな京乃さん。歩くのが好きなのかな?

 清楚で大人しいタイプに見えるけど、案外アクティブな人なのかもしれない。


「じゃあレッツゴー!」


 浜風さんが楽しそうなのはいつものことか。なんでも楽しめるってすごいな。

 これだけ可愛い女の子が、性格もすごく明るいんだから、そりゃ人気が高くて当たり前だ。


 そんなこんなで、三人一緒に歩き始めた。


「ねえ秋月っち」

「なに?」

「前野君は怪しんでなかった?」


 つまり俺と美女二人が元々深いかかわりがあるってことを、だ。


「大丈夫だ。浜風さんと京乃さんが上手く接してくれたおかげだよ」

「へへーん。どう? あたし成長したかな?」

「まあな」


 この前はいきなり俺を『秋月っち』って呼んで、イケメンABC達に怪しまれたからな。それから比べたら大成長だと言える。


「今日、たまたま出会って一緒にメイドカフェに行ったから、今後は大丈夫だね」

「今後は大丈夫って、なにが?」

「これからはクラスで秋月っちと親しくしても、不思議がられないでしょ。ああ、あの時に仲良くなったんだなって思うだけだし」

「はぁ?」


 つまりあれか。浜風さんは──


「一緒にメイドカフェに言ったことを、クラスで言いふらすつもりか?」

「言いふらすなんて人聞きが悪いよ秋月っち」

「違うのか? それは失礼した」

「クラスのみんなに聞こえるように、足立君たちに大きな声で話すだけだよ」

「それは言いふらすことと、なんら変わりがないよねっ!」


 この天真爛漫ガールは、なんと恐ろしいことを思いつくのだ。


「ええっ……いいじゃん。今日のことは前野君が知ってるんだし」

「よくない」

「なんで?」

「なんでって……」


 そんなの決まってる。


「俺みたいな平凡男子が、高嶺の花のTOP3美女と仲良くしてるってなったら、みんなの反感を買うからだ」

「反感なんて買わないよ」

「買うよ」

「みんなって誰よ?」

「みんなって、クラスの男子達だ。女子にも快く思わない人がいるかもしれない。もっと言えば、他のクラスの男子にも嫉妬されるかもしれない」

「そんなの考えすぎだよ」

「そうですよ秋月さん。考えすぎです」

「たまたま街中まちなかでクラスメイトに出会って、一緒にカフェに行って、それきっかけに教室でも親しく話すようになった。ただそれだけでしょ。別に付き合ってるわけじゃないんだから、嫉妬もないよ」


 いや。キミ達は自分の影響力の大きさに気づいていないだけだ。

 仲良くしたいのにできない男子も多いんだ。なのに仲良くしてる平凡男子がいたら、嫉妬の対象になるのは当然だろ。


 心の中でそんなことを考えていたら、俺が無言でいるのを見て、浜風さんがとんでもないことを口にした。


「ん~……なんならホントに付き合っちゃう?」

「な……なにを言ってるんだよっ! そんなことできるわけないだろ!!」

「あ、ごめん……冗談だよ。秋月っちがそんなに怒るなんて思わなかった」

「そうですよりんちゃん! そ、そんな冗談言っちゃダメです!」

「ありゃっ、めったに怒らないみやちゃんにまで怒られちゃった……マジごめん!!」


 浜風さんが思い切り頭を下げた。

 俺は別に怒ったわけじゃないのに申し訳ない。


「怒るってことは、もしかして秋月っち、か……彼女いる?」


 いるはずもないのに、そんなこと真剣な顔で訊かないでほしい。

 京乃さんまで、そんなにじっと見つめないでくれ。


「いやいや、彼女なんていないよ。それに怒ったわけじゃない。浜風さんの冗談にびっくりして大きな声が出ただけだ。俺の方こそごめん」


 浜風さんは軽い冗談のつもりだろうけど、それがどれだけ男子の心臓を直撃するのか、この美少女は無自覚すぎる。


「でも、やっぱりそういう冗談は良くないと私は思います」


 京乃さんって、ホントに真面目だ。冗談で付き合うとか、言っちゃダメってことなんだよな。


「もしも本気で秋月さんと付き合いたい女子がいるとしたら、その人にも失礼ですし」


 あ、いや。京乃さん、いったいなにを言ってんの?


「俺と付き合いたいなんて女子はいないから、そこは大丈夫だよ」

「あ、えっと……それはわからないじゃないですか」


 そんなの、いないってわかってる。でも京乃さんは気を遣って、俺がまるでモテる男子のように扱ってくれている。ホントにいい子だよなぁ。


「ありがとう京乃さん」

「あ……いえ。へ、変なことを言ってすみません」


 もし百歩譲って、俺を好きな女子が実際にいたとして、今の冗談を聞いてるわけじゃないから、なんら問題はないはずだ。なのに京乃さんって、ホント生真面目だな。


「いや。全然大丈夫だよ」

「ありがとうございます。それはそうとして秋月さん。今日偶然出会って一緒にカフェに行ったことをクラスで話すのは、私もいいと思いますよ。いえ、むしろ積極的に、クラスで話すべきです」

「積極的に話すべきだって?」

「はい」


 ──え? なんで?

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