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【第31話:萌え萌えきゅん♡】

「お帰りないませぇご主人様ぁ〜」


 店に入ると、可愛いメイドさんが満面の笑みで迎えてくれた。

 前野がすぐに反応する。


「ふふふ、帰って来たぞ」

「あれ? 前野はここ来たことあるのか?」

「いや、初めてだ」

「なんだそれ」


 面白いヤツだな前野。嬉しそうだな前野。


 ここのメイド服はスカートが短くて、ちょっとエッチだ。

 親父が選んだウチの制服は、ロングでもなく程よい長さのスカートで、変に煽情的ではない。


 こうして見比べてみると『カフェ・ド・ひなた』のメイド服は、清楚さと可愛さの絶妙なバランスを保っている。

 改めて親父のチョイスは良かったのだと気づいた。

 単なるスケベ親父じゃなかったんだな。


「お帰りなさいませぇお嬢様ぁ〜!」

「うわーっ、お嬢様だって! 楽しぃーっ!」

「ほ、ホントですね」


 女性はお嬢様呼びなのか。初めて知ったぞ。

 テーブル席に案内されて、俺は前野と並んで座った。

 向かい側に浜風さんと京乃さんが座る。


「あ、秋月氏……」

「どうした?」

「トップ3美女と一緒にカフェに来るなんて、もしかして俺たち凄いな!」


 女子二人には聞こえないように、前野は顔を近づけて小声で話している。

 近すぎて彼の唾が飛んできてちょっと困る。


「イケメンABC以外でこんなふうに彼女達とお茶したのは、人類史上俺たちが初の栄誉でわ?」

「人類史上とか大げさかよ」

「それくらい価値のあることだ。だって相手はTOP3美女のうち二人が揃ってるんだぞ」

「あ、ああ。そうだったな」

「こんな美少女二人を真正面で拝めて、いいのだろうか……これは、まさにアリーナ席っ! 神様ありがとう。こんなの全男子の羨望の的だぞ」


 前野のセリフを聞くと、俺がカフェでTOP3美女全員と一緒にいることが、いかに恵まれているか改めて認識した。


 そういう意味では、前野にとって、わざわざメイドカフェに来る意味はなかったな。

 普通のカフェに行って美女を眺めていたらよかったんじゃないか。


「でも秋月氏。残念ながら美女たちと会話するなんて、恐れ多くて僕には無理だ。だから喋る担当は任せた」

「任せたって言われてもな……俺にも無理だ」

「そんなことなかろう。最近のキミはデキる男のような気がする。キミならTOP3美女とまともに話せるのではないか? モブ男代表として頑張れ」

「いや無理だって」


 もちろんカフェで一緒に働くようになった俺は、彼女たちと話すことはできる。

 だけどそんな姿を前野に見られるわけにはいかない。俺と彼女たちの関係を学校で知られると困るんだ。

 それと俺を勝手にモブ男代表にすんな。


 テーブルの向かい側で、男同士のそんな会話がされているとは思いもしない女子達は、きゃいきゃいと騒いでる。


「ねぇねぇ、みやちゃん。ここのメイド服、可愛いねぇ〜」

「そ、そうですね。でも私はここまでスカートが短いのは、着るのがちょっと恥ずかしいです」

「だね。でもあたしはこれくらいのも、脚が長く見えるし、可愛いからアリ寄りのアリかな」

「凄いですね、りんちゃん」


 そこに手にメニュー表を携えたメイドさんがやって来た。


「それでは当店のシステムをご説明しますね~」


 イメージ通りのメイド喫茶だった。メイドさんはずっとニコニコしていて可愛い。

 メニューにはケチャップ絵を描いてくれるオムライスもあるし、派手な色のパフェとかケーキもある。


 どのメニューも、高校生の財布には痛すぎる高価格だ。

 なんでメイド喫茶ってこんなに高いんだよ。


 俺は一番安いアイスコーヒーを注文した。

 前野はメイドさんがフリフリシェイクしてくれるドリンク。

 女子二人はメイドさんがお絵かきしてくれるカフェラテを注文した。


 メイド女子のサービス料が含まれてるからだろう、どれもみな高額だ。

 やはり手頃な価格で癒される空間を提供するのが、俺のやりたい店づくりだと改めて思った。


 しばらく待つと、注文した品が運ばれてきた。

 俺のアイスコーヒーはテーブルの上に置かれるだけだが、前野のドリンクは目の前でメイドさんがシェイクしてくれる。そしてグラスについだあと、例のおまじないをしてくれた。


「美味しくなぁ~れ! 萌え萌えきゅん♡」


 ヤバい。わざとらしいパフォーマンスだと思っていたが、予想以上に可愛い。

 メイドさんがとても楽しそうにしているからだ。こういうのもいいかも……


 ──いや、なに言ってんだ。


 やはりカフェのコンセプトは、『お客様が幸せになる美味しいスイーツと、楽しく癒される空間を提供したい。』だ。これに勝るものはないんだよ。


 続いて、女子達が注文したカフェラテが到着した。

 ここにメイドさんがラテアートを描いてくれる。


 京乃さんはウサギ。浜風さんは猫をリクエストした。

 メイドさんは慣れた手つきでイラストを描いてくれた。


「はいっ、できましたよ、お嬢様っ!!」

「ほぇぇっ、かわゆっ!」

「ですね。可愛いです」


 でも二人とも笑顔で、とても楽しそうだからよかったかな。


 メイドさんが他のテーブルに行ってしまったタイミングで、浜風さんが急にアニメ『カフェ萌え』の話題を振ってきた。


「ねぇ、みやちゃん。そう言えば今日は、秋月君と……前野君はアニメのグッズを買いに来たんだって。なんとかかんとかって言うアニメらしいんだけど知ってる?」

「なんとかかんとか、ではまったく何のことやら……」

「あ……そうだね、あはは」


 さすがうっかり大明神。勢いだけで会話してるな。


「秋月君、なんだっけ?」


 それ、俺に振るのやめてくれ。『俺はカフェで萌える』というラブコメ。通称『カフェ萌え』。

 俺がこの作品を好きだと言ったら、京乃さんはきっと俺を「メイドに萌えるエッチぃ男」だと勘違いするに違いない。だから言いたくない。


「いや、えっと、あの……それは」

「『俺はカフェで萌える』というラブコメ。通称『カフェ萌え』だ」


 なんで言うんだよ前野。

 京乃さんは目を見開いた。ああ、終わった。


 京乃さんは今まで、割と俺をうやまってくれていた。

 だけどこれからは、軽蔑の目で見られるに違いない。

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