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【第27話:女子達の密かな作戦会議②】

「秋月っちのこと。どう思ってるの?」

「どどど、どう思ってるのって、どういう意味?」


 鈴々(りんりん)から突然振られた質問が予想外すぎたのか、いつも冷静な凉香すずかが珍しく慌てた。


「男子が苦手な涼香ちゃんにしては、秋月っちを割と気に入ってる……ってあたしは睨んでるだけど」

「ん……どうかしらね」

「ほら。正直になりたまえ」


 横に座る鈴々が肘でわき腹をつんつんつついてくる。

 くすぐったくて仕方ない涼香は身体をねじって逃げながら答えた。


「まあ鈴々の言うとおりだと言っておくわ」

「でもやっぱり本人の前では、親しみを見せるのはできないの?」

「それは……難しいわね」


 過去のトラウマのせいで男子が苦手な涼香は、どうしても男子を前にすると緊張して素直に気持ちを表に出せない。逆に、ついきついことを言ってしまうらしい。


「じゃああたしが代わりに言ってあげるよ。涼香は秋月っちをまんざらでもなく思ってるって」

「そんなこと言ったら刺すから」

「ひぇぇぇぇっ、怖すぎるよ涼香ちゃん。なんで?」

「そんなこと言われたら、恥ずかしすぎてもうわたし、二度と秋月の顔を見れない」

「うーむ、それは困るなぁ」


 腕組みをして眉間に皺を寄せる鈴々。


「それはそうでしょ、りんちゃん。すずちゃんを困らせちゃだめです」

「だね。じゃあ言わないでおくよ」

「そうね。そうして」


 でもいつまでも彼に対して邪険な態度のままだと良くない。それはわかっている。

 いつかは、素直に接することができるようにならなきゃいけない。

 そう思う涼香であった。


「いずれにしても、秋月さんが目指す理想の店づくりに、すずちゃんが一番戦力になりますから、よろしくお願いします」

「あれ? なんでみやちゃんがお願いするの?」

「それは……私はぜひ秋月さんの理想の店づくりに協力したいんですけど、自分じゃ力になれそうもないので」

「そんなこと言ったらあたしの方こそ、戦力外確定だよ。でもあたしもぜひ秋月っちの理想を叶えたいと思ってる。がんばろーよ」

「そうよ。鈴々も雅も、少し経てばちゃんと接客がやれるようになるから」

「そうでしょうか」

「そうよ。私だって苦手なことはあるし……ほら、料理とか」


 恥ずかしそうに、言いにくそうにする涼香。

 雅は思い当たることがあって、はっと気づいた顔になった。


「もしかしてすずちゃん、キッチンの手伝いを頑なに拒否したのは、料理が苦手だからですか?」

「うん。あの時は恥ずかしくて言えなかったけど、実は料理が大の苦手なの。だから頼まれて焦ったわ」


 言って凉香は肩をすくめる。


「へぇ……勉強もスポーツもなんだって抜群にできるすずちゃんにも、苦手なものがあるのですね」

「それはあるわよ。雅は秋月の理想の店づくりに力になりたいんだったら、苦手だとかできないとか、そんなこと言ってる場合じゃないわよ」

「そうですね……やれるかな」

「逆に雅の方がすごいわよ。料理という得意分野もあるわけだし、他のこともすぐにやれるようになるわ」

「ありがとうすずちゃん。なんだか私、やれそうな気がしてきました」

「そう。よかった」

「とにかくがんばろーね。秋月っちやお母さんの理想の店にしたいし、それより何よりカフェのバイト楽しいし」

「そうね」「そうですね」


 雄飛の知らないところで、女子達は彼の夢を叶えるための結束力を高めている。

 そして彼のことをこんなに高く評価されていることなど、もちろん本人は知る由もない。


 モテた経験のない雄飛は、まさか自分のいない所で自分が女子の話題に上っていることさえ、想像すらしていないのであった。


◆◇◆


 TOP3美女の一人が帰宅後、湯船につかりながら密かに雄飛のことを考えていた。


 閉店後、彼がみんなに労いの言葉をかけなかったのは確かだ。

 だけどそれは多分彼に優しさが薄いということではなく、それ以上に理想と程遠い現状に、彼は自分を許せなかったのだという気がする。


 実際に彼は女子達がミスしたり大変な思いをした時には、嫌な顔一つせずにフォローしてくれる。

 SNSの写真の件では、自分の危険を気にしないでみんなのために行動してくれた。

 あんなに一生懸命で、いい意味でお人好しな男子は、今まで出会ったことがない。


 彼と深く関わるようになってまだ日は浅いけど、彼が見せる表情や行動に、つい気を取られている自分がいる。


 そして今日、彼がお母さんの理想を追って、理想の店を作りたいと思っていることを知って感動した。彼が流した涙はとてもきらめいて見えて、胸がきゅんとした。


 もしかして……


 いえ違う。やっぱりこれは恋っていうわけじゃない。

 ──そう思う。


 自分でもよくわからない感情を持て余すように彼女は口までお湯につかり、唇からぶくぶくと息を吐いた。

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