【第26話:女子達の密かな作戦会議①】
◆◇◆<TOP3美女side>
ファーストフード店に入り、カウンターでそれぞれが好きな飲み物を購入して、三人はテーブル席に着いた。
ストーカーに用心するため周りに注意を払うが、特に怪しい人物もいないし、大丈夫だ。
椅子に座るなり、涼香と雅を交互に見てから、鈴々がにやりと笑う。
「さて諸君。今後『カフェ・ド・ひなた』をどうしていくかの作戦会議をしようではないか。ふふふ」
邪悪に歪めた顔からは、鈴々が悪だくみを巡らせていることが伝わる。
果たして彼女はカフェ・ド・ひなたをどうしようとしているのか。
店を乗っ取り、我がものにしようとしているのか。
それとも何か悪い噂でも立てて、閉店に追い込もうとしているのか。
「なに鈴々。その芝居がかったセリフは?」
「そうですよ、りんちゃん。どうしたんですか?」
「あ~ん、せっかく雰囲気出してたのにぃ~っ!」
「なんの雰囲気ですか?」
「悪の組織」
何言ってんだか。
二人は呆れた表情を浮かべながらも、鈴々に対して『この子はもうっ』と憎めない気持ちを見せる。
「まあ冗談は縦に置いといて」
「置くなら横にしましょう」
「だね」
「鈴々。さっきから全然話が前に進まないのだけれども」
「ごめんごめん。じゃあ真面目に言います。みやちゃんと涼香ちゃんは、秋月っちの『理想の店』についてどう思う?」
雄飛の理想の店とは、『お客様が幸せになる美味しいスイーツと、楽しく癒される空間を提供したい。』という、母の願いを実現することだ。
「一見ありふれてるようだけど、私はいいと思いますよ。私もそういうお店が好きですし」
「なるほどね。じゃあ凉香ちゃんはどう?」
「ん……悪くないと思う」
「そっか」
「りんちゃんはどう思うのですか?」
「あたしはね…………めっちゃいいと思う! お客様が幸せになる美味しいスイーツって、ありふれてるようで、そうじゃない気がするし」
「ええぇぇ……じゃあ私は、すごく、めっちゃいいと思います」
「んじゃあね、あたしはとっても、すごく、めっちゃいいと思うよ」
「じゃ、じゃあ私は……」
「二人ともそれくらいにしときなさい。きりがないわ」
「だね。あはは」
「それにしても雅がそこまで張り合うなんて珍しいわね」
「あ、それな。あたしも思った。どうしたの?」
「あ、いえ……たまたまですよ」
と言いつつ、本当は何か心当たりがあるのか、黒髪美少女は少し気まずそうに目を伏せた。
「そっか。まあいいや。ところで秋月っちのお母さんって、いいこと言う人だね。理想のお店も素敵だし、あと『笑顔は翼』だっけ? 素敵な言葉だよね。あたしの想いとぴったし」
「りんちゃんは確かに、いつも明るくですもんね」
「そそ。笑ってると辛いことも薄れるし、元気になれるよ。ね、涼香ちゃん」
「そうね。わたしも『笑顔は翼』には感銘を受けたわ。いい言葉ね」
感情を素直に顔に出すのが苦手な涼香が、よっぽど感心したのかそんなことを言った。
「ところで秋月っちのお母さんって、どんな人だったんだろうね」
「私、中学の頃あのカフェにケーキを買いに行って、それはもう、とても綺麗な人が居たのを覚えています。それが秋月さんのお母様のはずです」
「へぇそーなんだ」
「トップ女優並みに綺麗でしたよ」
「そっかあ。そう言えば秋月っちもよく見たら、案外可愛い顔してるもんね」
「え? も、もしかしてりんちゃん、秋月さんのことを……?」
「そうなんだよねぇ……あたし、自分の想いに気づいちゃったんだ」
鈴々の衝撃発言に石のように固まる雅。
涼香も驚いて「ホントなの鈴々?」とつぶやく。
「うん。秋月っちって女装させたらきっと可愛いんだって気づいた」
雅がズコっと音が鳴りそうにずっこけて、椅子から滑り落ちそうになった。
「そ、そういうことですか。まあよかったです」
「なにが良かったの?」
「いえ、こっちの話です」
「そっか。でも秋月っちって、目立つタイプじゃないし、今まであんまり関わりがなかったから知らなかったけど……いいヤツだね。目立たないだけで、よく見たら爽やかな感じで、見た目も悪くないし」
「でしょ?」
我が意を得たりというように頬を緩ませる雅。
生真面目な彼女が男性をそんなふうに褒めるのは珍しいと、鈴々が目を丸くする。
「え? みやちゃんどうしたの?」
「あ、いえ……なんでもありません」
「なんか今日のみやちゃん、いつもと違うね」
「い、忙しかったので、疲れたのですよ」
「そっか。大丈夫?」
「帰ってゆっくり寝たら大丈夫ですよ。心配かけてごめんなさい」
「気にしなくていいよ〜」
言って鈴々は雅の肩を優しくぺしぺし叩いて励ます。
そして鈴々はふと真剣な顔になってつぶやいた。
「彼って仕事は一生懸命だし、あたしたちのために危険を考えないで動いてくれたし」
「そうですね」
「急に泣き出した時はびっくりしたけど、すごくピュアな人だなって思った。ちょっとキュッとしちゃたよ」
「え? りんちゃん、もしかして秋月さんのことを……?」
「あ……いやいや、そんなじゃないって。人としていいヤツだねって言いたいだけ」
「そうですか」
黒髪美少女はホッとしたように表情を緩ませる。
鈴々は少し気まずそうに、視線を雅からクール美人に移した。
「で、凉香ちゃんはどうよ?」
「なにが?」
涼香は怪訝そうに小首を傾げた。
「秋月っちのこと。どう思ってるの?」
「どどど、どう思ってるのって、どういう意味?」
鈴々から突然振られた質問が予想外すぎたのか、いつも冷静な凉香が珍しく慌てた。