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【第2話:トップ3美女と偶然の関わり】

 昼休み。俺は学食売店へと急いでいた。

 もたもたしてたら、大好きな焼きそばパンが売り切れてしまう。

 焼きそばパンは、我が校屈指の人気商品なのである。


 教室を出て階段をダッシュで駆け下りた。そして早足で廊下を移動し、キュっと靴を鳴らして廊下の角を曲がった。


「あっ……」


 危うく他の生徒と正面衝突しかけた。相手は長身スリムな体型の女子。

 ぶつかるほどではないけど、俺の腕が相手の胸の辺りに軽く触れた。


「ご、ごめん!」


 謝る俺に冷たい視線を向けたのは、トップ3美女の一人、クールビューティの神ヶ崎(かみがさき) 涼香すずかだった。


 彼女は硬い表情のまま、何も言わずに立ち去った。

 うわっ、怒らせてしまったか。ヤベ。


 胸には触ってないよな……多分。

 いや、神ヶ崎からしたら、触られたと思っているのかもしれない。


 トップ3美女の一人にセクハラ認定されてしまうなんて最悪だ。

 そのうえ焼きそばパンまで買い逃したりしたら、落ち込んで今日はもう授業を受けるどころではない。


 ──ところだったのだが。幸いお目当てのパンは残っていて、買うことができた。


「よしよし」


 教室に戻るために渡り廊下を歩いていたら、校舎の裏庭に男女が向かい合って立っているのが目に入った。


京乃きょうのさん、大好きです! ぼ、僕と付き合ってください!」


 うっわ、告白してる!

 アニメや漫画じゃ定番のシーンだけど、リアルでこんなシーンを見るのは初めてだ。

 つい立ち止まって耳を傾けた。


 告白したのは真面目そうな男子。たぶん上級生だ。

 よっぽど勇気を振り絞ったのか、真っ赤な顔をしている。


 相手はなんとトップ3美女の一人、清楚美人の京乃きょうの みやび


 艶やかな黒髪美人。前髪パッツンの幼い顔つきが、守ってあげたくなると男子から大評判のロリ系美女。

 特に上級生からの人気が凄まじいらしい。


「ごめんなさい。お付き合いはできません」


 あぁぁ……フラれてしまったか。かわいそうに。

 でもやっぱりトップ3美女なんてハードルが高すぎるよ。

 よっぽどのモテ男じゃないと成功するのは無理だろう。


「京乃さんは好きな人がいるの?」

「あ、はい。います」


 ──え?


「わかった。じゃあ諦めるしかないな」


 告白した男子は真っ赤な顔のまま立ち去った。


 それにしても。

 京乃さんには好きな人がいるんだ。衝撃の事実を耳にしてしまった。

 相手はやっぱりイケメンABCの千葉君だろうか。


 彼女ほどの人気女子なら、告白したら相手は承諾するに違いない。きっと彼女の恋は成就するのだろうな。


 などとぼーっと考えていたら、突然京乃さんがこちらに振り向いて目が合った。


「ふわぁうっ……」


 彼女はそれまでまったく俺に気づいてなかったようで、目を丸くした。

 そしてみるみる熟したトマトのように真っ赤になっていく。


「あの……えっと……さっきのことは、け、決して誰にも言わないでほしいのですが」

「あ、ああ。もちろん誰にも言わないから安心してよ」

「はい。ありがとうございます」


 トップ3美女に好きな人がいたなんて、大スクープである。

 だけどそんなことをべらべらと話すほど俺はバカじゃない。約束どおり秘密は守る。


 それにしても今日はトップ3美女と縁がある日だ。

 もしかしたらもう一人の浜風はまかぜ 鈴々(りんりん)とも何か関わりが起こるのか?


 ──なんて思ったけれども。


 そういうことはなく一日が終わった。


 それから数日が経ったが、特に彼女たちとの絡みもなかった。


 週末を迎えた。いよいよ明日の日曜日は、新しいバイトの人が来る日だ。


 そう言えばどんな人なのか、親父から何も聞いていない。少しくらいプロフィールを聞いとけばよかったかな。


 いずれにしても──


『お客さんが笑顔になる美味しい食べ物と、楽しく癒される空間を提供したい』


 俺はこの理想を実現したい。だから仕事熱心な人だったらいいな。

 もしも不真面目なヤツだったら、すぐに辞めてもらおう。


 ──そしていよいよ、バイトが来る日を迎えた。


***


「うっわ、しまった!」


 ベッドの上で目覚めて時計を確認した瞬間に、口から後悔が飛び出した。


 日曜日。今日からバイトが来る。

 そんな日に寝坊してしまった


 どんな人がバイトに来るのか考えていたら寝つけなくて、眠りに落ちたのは明け方だった。


 『カフェ・ド・ひなた』の営業は午前11時から午後7時まで。

 開店準備もあるから、いつも30分前には店に出勤している。

 そして目が覚めてベッド上で呆然としている今は、午前10時20分。


 もう絶対に間に合わない。でも、できるだけ早く店に行かなきゃ。

 慌ててベッドから降りて身支度を始めた。


 カフェでの制服に着替える。

 白いシャツに黒のベスト、黒いクロスタイという、いかにもウエイターという服装で、キリっとした感じが気に入ってる。


 そして普段学校ではボサボサ頭だが、店に出る時はキチンと整髪料で整えてから家を出る。


 自転車を飛ばして10分。繁華街の外れにある茶色いレンガ調の建物に到着した。

 建物の横に自転車を停め、髪を整えてから、1階にある『café de HINATA』の看板がかかったお店に入る。


「おい、遅いぞ雄飛ゆうひ!」


 開店準備中の店内に入ると、いきなり父に叱られた。


「ごめん。寝坊しちまった」


 よく見ると父の目の前に、ウエイトレスの格好をした女子がこちらに背中を向けて立っていた。


 ──しかも三人も。

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