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【第18話:聞き回る】

***


 ひと通り注文の品を配膳し終わって、ようやくひと段落ついた。


「めっちゃ忙しかったねぇ~!」

「そうですね。お客様が多いのはありがたいけど大変です」

「なぜ突然お客さんが増えたのかしら?」

「それなんだけど、どうやらSNSで店の紹介がバズったみたいなんだ」

「えーっ、そうなんだっ!? どんなふうに紹介されてたの?」

「えっと……」


 そこまで見てなかった。

 スマホを取り出してSNSを開く。


 あの投稿を探すが、なかなか見つからない。


「そうだな。三人が店内にいる写真が載ってて、確か『カフェに舞い降りた天使達』ってコメントされてた」

「マジっ!? 天使だって! やったじゃん!! ねえ、みやちゃん」

「そ、そうですね。わたしはちょっと恥ずかしいですけど……」

「ねえねえ秋月っち、あたし達の写真どうだった? 可愛いく写ってた!?」

「え? あ、ああ……まあまあかな」


 実際にはものすごく可愛いかった。だけど恥ずかしくて、面と向かって可愛いだなんて言えない。


「まあまあ……かぁ」


 ため息をついて、浜風さんの顔が曇った。

 これだけの美人なのに、なぜ俺なんかの評価を気にするんだ?


 ちょっと申し訳ない気がしてきた。


「いや……すごく可愛かったよ」

「マジ? やったぁ!!」


 ガッツポーズする浜風さん。

 俺なんかの評価で、こんなに嬉しそうな顔をするのはホント不思議だ。

 平凡男子の評価なんてどうでもいいって思いそうなのに。

 浜風鈴々って女の子が、そういうことで人を差別しない、いい人だってことだよな。


「あははーっ、ごめんね無理矢理言わして!」

「いや。本気でそう思ってる。さっきは恥ずかしくて言えなかっただけ」

「おおーっ、秋月っちの本気、いただきましたぁ〜!」


 ダブルVサインって、浜風さんは大げさだな。

 余計に恥ずかしくなるからやめてほしい。


 恥ずかしさをごまかすために、またスマホでSNSを見た。


 ──あ、見つけた。これだ。


 ようやくさっきの投稿を見つけた。


「これだよ」

「ええーっ、見せて見せてっ!」

「はい、どうぞ」


 スマホを浜風さんに渡す。


「ふわっ……」


 ちなみに今のは俺の声じゃなくて、浜風さんの声だ。

 ちょっと手が触れたら変な声を上げた。

 男子慣れしてるだろうに、そんなにびっくりしなくてもいいのに。


「ご、ごめん秋月っち」

「いや、こちらこそ」

「えっと、写真写真……おおぉっ!」


 SNSの投稿写真を見て、浜風さんはにんまりと笑った。


「わあ、やっぱウエイトレスの制服が可愛いっ! ねえみやちゃん! ほら見て!」

「そ、そうですね……でもやっぱり恥ずかしいです」


 顔を赤らめて、両手で頬を押さえる京乃さん。

 指の間から俺をチラチラと見ている。清楚で可愛い。


「写真は可愛く写ってるし、コメントはあたしたちを絶賛だし、それでお客さんがたくさん来てくれたって、テンションあがるねぇ~!」

「そうですね」

「よっし、がんばろうよ、みやちゃん!!」

「はい、がんばりましょう!」


 二人の美女は大喜びだ。

 だけど素直に喜んでいいんだろうか。


 SNSでこの写真がバズったってことは、色々とマズいかもしれない。

 変な奴があれを見て、ストーカーみたいに付きまとうなんてことが起きたら大変だ。


 そんな大きな事件にならなくても、同じ高校の者に見られたら、彼女達がこの店でバイトしてることがバレる。


 するとここが俺の店だとわかるのも時間の問題だ。


 それにトップ3美女のメイド服姿だなんて、好奇の目に晒されてしまって、彼女達が気の毒だ。


 写真をアップしたのは誰なんだ。

 あの写真は店内から撮られていた。つまりウチのお客ということは間違いない。


 だけどそのアカウントの他の投稿を見ても、誰なのかを特定できるような書き込みはなかった。

 どうしたらいい……?


 その時客席から声がかかった。


「すみませーん、おひやくださぁい!」

「こっちは追加注文!」

「はぁーい、ただいま!!」


 呼ばれた二つのテーブルに浜風さんと京乃さんが向かった。

 残されたのは俺と神ヶ崎。


「ねえ秋月。まさかお客が増えて嬉しい~なんて能天気に喜んでるんじゃないでしょうね」


 心配そうな目で他の二人の女子を見る神ヶ崎。

 きっと俺と同じ心配をしているんだろう。


「そんなことは思ってない」

「身バレするようなSNSの投稿なんて危険だわ。責任取ってよね」

「なんで俺の責任なんだよ?」


 俺から頼んでバイトに来てもらったわけじゃない。

 写真を撮ったのもSNSにアップしたのも俺じゃない。

 理不尽なことを言うヤツだな神ヶ崎。


「……そうね、ごめんなさい。あの二人が心配で、つい理不尽なことを言ってしまったわ」


 あれっ? えらく素直に謝ったぞ。ちょっと驚いた。


「でも何とかして、これ以上あの投稿が拡散しないようにしたいわ」

「そうだな。それは俺と同じ意見だ」

「ねえ秋月。誰がその投稿をしたかわかってるの?」

「いや、まったく……投稿主を見つけ出すのは容易じゃない」

「だから何もできないってわけ?」

「いや。できることからやるしかない。来店客に一人ひとり訊いて回れば、あの投稿をした客を見つけられるかもしれない。せめて投稿を削除してもらおう」

「そうね。私も協力するわ」

「神ヶ崎が?」

「ええ。あの二人はお気楽だから、変に不安がらせるのはかわいそうだわ。まずは私たちだけで調べましょう」

「あ、ああ。わかった」


 あの神ヶ崎があんなことを言うなんて驚いた。

 わたしも協力するわなんて、最も言わなさそうなタイプだと思っていたのに。


 もしかしたら俺は、神ヶ崎(かみがさき) 涼香すずかという人を誤解しているのだろうか。

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