【第18話:聞き回る】
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ひと通り注文の品を配膳し終わって、ようやくひと段落ついた。
「めっちゃ忙しかったねぇ~!」
「そうですね。お客様が多いのはありがたいけど大変です」
「なぜ突然お客さんが増えたのかしら?」
「それなんだけど、どうやらSNSで店の紹介がバズったみたいなんだ」
「えーっ、そうなんだっ!? どんなふうに紹介されてたの?」
「えっと……」
そこまで見てなかった。
スマホを取り出してSNSを開く。
あの投稿を探すが、なかなか見つからない。
「そうだな。三人が店内にいる写真が載ってて、確か『カフェに舞い降りた天使達』ってコメントされてた」
「マジっ!? 天使だって! やったじゃん!! ねえ、みやちゃん」
「そ、そうですね。わたしはちょっと恥ずかしいですけど……」
「ねえねえ秋月っち、あたし達の写真どうだった? 可愛いく写ってた!?」
「え? あ、ああ……まあまあかな」
実際にはものすごく可愛いかった。だけど恥ずかしくて、面と向かって可愛いだなんて言えない。
「まあまあ……かぁ」
ため息をついて、浜風さんの顔が曇った。
これだけの美人なのに、なぜ俺なんかの評価を気にするんだ?
ちょっと申し訳ない気がしてきた。
「いや……すごく可愛かったよ」
「マジ? やったぁ!!」
ガッツポーズする浜風さん。
俺なんかの評価で、こんなに嬉しそうな顔をするのはホント不思議だ。
平凡男子の評価なんてどうでもいいって思いそうなのに。
浜風鈴々って女の子が、そういうことで人を差別しない、いい人だってことだよな。
「あははーっ、ごめんね無理矢理言わして!」
「いや。本気でそう思ってる。さっきは恥ずかしくて言えなかっただけ」
「おおーっ、秋月っちの本気、いただきましたぁ〜!」
ダブルVサインって、浜風さんは大げさだな。
余計に恥ずかしくなるからやめてほしい。
恥ずかしさをごまかすために、またスマホでSNSを見た。
──あ、見つけた。これだ。
ようやくさっきの投稿を見つけた。
「これだよ」
「ええーっ、見せて見せてっ!」
「はい、どうぞ」
スマホを浜風さんに渡す。
「ふわっ……」
ちなみに今のは俺の声じゃなくて、浜風さんの声だ。
ちょっと手が触れたら変な声を上げた。
男子慣れしてるだろうに、そんなにびっくりしなくてもいいのに。
「ご、ごめん秋月っち」
「いや、こちらこそ」
「えっと、写真写真……おおぉっ!」
SNSの投稿写真を見て、浜風さんはにんまりと笑った。
「わあ、やっぱウエイトレスの制服が可愛いっ! ねえみやちゃん! ほら見て!」
「そ、そうですね……でもやっぱり恥ずかしいです」
顔を赤らめて、両手で頬を押さえる京乃さん。
指の間から俺をチラチラと見ている。清楚で可愛い。
「写真は可愛く写ってるし、コメントはあたしたちを絶賛だし、それでお客さんがたくさん来てくれたって、テンションあがるねぇ~!」
「そうですね」
「よっし、がんばろうよ、みやちゃん!!」
「はい、がんばりましょう!」
二人の美女は大喜びだ。
だけど素直に喜んでいいんだろうか。
SNSでこの写真がバズったってことは、色々とマズいかもしれない。
変な奴があれを見て、ストーカーみたいに付きまとうなんてことが起きたら大変だ。
そんな大きな事件にならなくても、同じ高校の者に見られたら、彼女達がこの店でバイトしてることがバレる。
するとここが俺の店だとわかるのも時間の問題だ。
それにトップ3美女のメイド服姿だなんて、好奇の目に晒されてしまって、彼女達が気の毒だ。
写真をアップしたのは誰なんだ。
あの写真は店内から撮られていた。つまりウチのお客ということは間違いない。
だけどそのアカウントの他の投稿を見ても、誰なのかを特定できるような書き込みはなかった。
どうしたらいい……?
その時客席から声がかかった。
「すみませーん、お冷くださぁい!」
「こっちは追加注文!」
「はぁーい、ただいま!!」
呼ばれた二つのテーブルに浜風さんと京乃さんが向かった。
残されたのは俺と神ヶ崎。
「ねえ秋月。まさかお客が増えて嬉しい~なんて能天気に喜んでるんじゃないでしょうね」
心配そうな目で他の二人の女子を見る神ヶ崎。
きっと俺と同じ心配をしているんだろう。
「そんなことは思ってない」
「身バレするようなSNSの投稿なんて危険だわ。責任取ってよね」
「なんで俺の責任なんだよ?」
俺から頼んでバイトに来てもらったわけじゃない。
写真を撮ったのもSNSにアップしたのも俺じゃない。
理不尽なことを言うヤツだな神ヶ崎。
「……そうね、ごめんなさい。あの二人が心配で、つい理不尽なことを言ってしまったわ」
あれっ? えらく素直に謝ったぞ。ちょっと驚いた。
「でも何とかして、これ以上あの投稿が拡散しないようにしたいわ」
「そうだな。それは俺と同じ意見だ」
「ねえ秋月。誰がその投稿をしたかわかってるの?」
「いや、まったく……投稿主を見つけ出すのは容易じゃない」
「だから何もできないってわけ?」
「いや。できることからやるしかない。来店客に一人ひとり訊いて回れば、あの投稿をした客を見つけられるかもしれない。せめて投稿を削除してもらおう」
「そうね。私も協力するわ」
「神ヶ崎が?」
「ええ。あの二人はお気楽だから、変に不安がらせるのはかわいそうだわ。まずは私たちだけで調べましょう」
「あ、ああ。わかった」
あの神ヶ崎があんなことを言うなんて驚いた。
わたしも協力するわなんて、最も言わなさそうなタイプだと思っていたのに。
もしかしたら俺は、神ヶ崎 涼香という人を誤解しているのだろうか。