【第16話:秋月さんは頼りになる】
◆◇◆<TOP3美女side>
「秋月っちと続けるって約束したし、もちろんカフェのバイト続けるよ」
鈴々はさも当然というように返した。
「へぇ、そうなの。足立君の誘いを断わるなんて意外ね」
「なんで?」
「鈴々、仲がいいから」
「足立君にそこまで義理はないし、それよりコンビニよりもカフェの方が楽しそうじゃん。制服も可愛いし」
「ですよね。制服がすごく可愛いなってわたしも思います。だからわたしもあのカフェの方がいいですね。ケーキも美味しそうだし」
雅は抹茶味のジェラートを手に、うなずきながら鈴々に同意を示した。
「そうそう! そのうちゴチになれるかもしれないし、イシシ」
「りんちゃん、よだれが出てますよ」
「えぇーっ!?」
慌てて手の甲で口を拭く鈴々。
「冗談ですよ」
「んもうっ、マジでよだれ駄々漏れかとビビったよ」
「だだ漏れって……」
鈴々は真顔になって、二人に向き直った。
「それはそうとして……だからもう足立君にはコンビニバイトの話、ちゃんと断わったよ」
「あらそう。悲しんでなかった?」
「まあ残念そうだったけどね。仕方ない」
「そうなの。まあ鈴々は秋月を秋月っちって呼んだりして、割とお気に入りみたいだしね」
「べ、別に、お気に入りとかないし」
「でもりんちゃん、彼にだいぶ助けられてましたよね」
「まあ確かに彼、学校じゃ大人しくて目立たないけど……学校で見るのと違って、頼りになるなぁとは思ったけどね」
なぜか遠くを見る鈴々。雄飛の言動を思い出しているだろうか。
「でも助けてもらってたのは、みやちゃんも同じじゃん」
「そうですね。秋月さんはホントに頼りになると思っていますよ」
「へえ、みやちゃんが男性をそこまで褒めるのは珍しいね」
「そうですか?」
「うん。まさか中学の頃から好きな人がいるって言ってたの、秋月っちだったりして」
「はうぅっ……な、なに言ってんでしゅか」
「あはは、冗談だよ。だって秋月っちって違う中学だし」
「そそ、そうですよ。悪い冗談はやめてください」
生真面目な雅はこういう類のからかいが苦手なのか、熟したトマトよりも真っ赤な顔なった。
「ところで涼香ちゃんは、バイトどうすんの?」
「もちろんカフェを続けるわよ。秋月にもそう約束したんだし」
「涼香ちゃんこそ意外だよね」
「なにが?」
「涼香ちゃんって、ほら……男子が苦手でしょ」
「ん……まあね。色々あったから」
「なのにクラスメイトの男子がいるお店のバイトを続けるなんて、びっくりだよ」
足立君なら普段みんなと一緒にいるからまだ免疫はあるけども、と鈴々が付け加える。
「別に。足立だからとか、秋月だからとかは関係ないわ」
「でもそう言えば、涼香ちゃん。今まで足立君たち以外の男子とはあんまり喋らなかったのに、秋月っちとはそこそこ喋れてるもんね」
感心したように言う鈴々。
雅も「確かにそうですよね」と大きくうなずく。
「それは……仕事だから話さざるを得ないからよ」
「それだけかなぁ?」
「鈴々はなにを言いたいのかしら?」
「秋月っちに、やけに突っかかるところもあるし」
「それは、私は真面目で一生懸命じゃない人は嫌いだからよ」
「秋月さんは真面目で一生懸命ですよ」
「さあ、どうかしら。それはまだ何とも言えないわ」
「逆に彼を気に入ってるから、突っかかってたりしてね」
「は? 親友でも言っていいことと悪いことがあるわよ鈴々」
「ふぁーい、ごめんちゃん」
「ふざけてるわね」
「全然ふざけてませぇーん」
「もう、仕方ないわね鈴々は」
言って凉香はうふふと楽しそうに笑う。
「秋月がどうかはともかく、仕事はがんばるわ。お金を稼がなきゃいけない事情もあるし」
涼香は少し眉間に皺を寄せて、悩ましげな表情をした。
「そうですね。がんばりましょう」
「だね!」
美女たちは、三者三様の想いで次回のバイトを頑張る決意をした。
──そして時は元に戻り、開店準備に忙しい『カフェドひなた』。
***
父は奥のキッチンで仕込みをしている。
俺と女子3人はフロアの掃除に精を出していた。
ふとガラス越しに外に目を向けた。
「なんじゃ、あれ!」
思わず素っ頓狂な声が出た。
俺の視線を追って女の子達も外に目を向ける。
「うっわ、何あれ!」
「す、すごいですね……」
まだ開店の5分前だというのに、外には既に客の行列ができていた。数えたら20人もいる。
今までこんな光景見たことがない。
一体何が起きたんだ?
「と、とにかく店を開けよう」
自動ドアの電源を入れて、ガラス扉を開ける。
お客さんがゾロゾロと列をなして店内に入って来た。
「いらっしゃいませ!」
単独客もいるし、2〜3人のグループ客もいる。
組数にして10数組。
あっという間に店内の席は半分が埋まってしまった。
よく見たら、男性客ばかりだ。
うーむ……カフェの店内が男一色。なかなか壮観な光景。
これはもしかして……
席に着いたお客さん達が、ほぼ全員ウェイトレス達を見ている。
チラチラ見る客、ガン見する者、メニューを見るふりしながら明らかに視線は女子に向いている人。
やっぱりトップ3美女達目当ての客か。
ヤバい。一気にこれだけの客が入ると回らないぞ。
「あ、秋月っち、大丈夫かな……」
「ふ……不安です……」
いつも元気はつらつな浜風さんも、さすがに青ざめている。
京乃さんは無言で少し震えている。
さすがに俺も、ちょっとヤバいかもと思った。