【第15話:浜風さんと足立君の関係】
「あたしと足立君は、実はいとこ同士なんだ」
へぇ、びっくりした。
とてつもない秘密ってほどじゃないけど、意外だ。
「長年の付き合いだし、バイトを断わったところで、別に仲が悪くなったりしないよ」
「いとこ同士で恋人同士なのか?」
「だから違うって。確かに親せきとして仲はいいと思う。だけど付き合ってもいないし、異性として好きとかいう感情はお互いにない」
「そうなの?」
仲がいい親戚ってことは、もしかして俺のことも既に伝わってるのか。
「でもいくら仲が良くても、秋月っちが店長のカフェでバイト始めたことは内緒にしてるからね」
「そうなのか。なぜ?」
「だって秋月っちと約束したんだから当たり前でしょ!」
目がくりくりの美少女が笑顔でWブイサイン。
律儀だな浜風さん。
「でも足立と浜風さんがいとこだなんて初めて知ったよ」
「うん。だって学校では内緒にしてるもん。知ってるのは涼香ちゃんとみやちゃんだけ」
──あ。さっき神ヶ崎が『言っちゃっていいの?』って訊いたのはそのせいか。
「なんで内緒にしてるんだ?」
いとこ同士だなんて、別に隠すほどのことじゃないよな。
「足立君とは同中だったんだけどさ。イケメンでバスケ部キャプテンだったし、いとこだって知ったら『仲を取り持ってよ』って女の子がいて、困ったんだよね。断わって逆恨みされたこともあるし」
「そりゃ大変だ……」
「それは向こうも同じだったらしくて。たまたま同じ高校に進学したから、高校では内緒にしとこうってお互いに決めたんだよ」
イケメンと美少女ってのも何かと大変なんだな。
平凡男子の俺には予想もつかなかった。
「だけどみやちゃんと凉香ちゃんは仲良くなって、この子達なら大丈夫って思ったから教えた」
彼女たち三人は同じ中学の出身だけど、中学時代は顔見知り程度だったらしい。
高一で同じクラスになって、そこで仲良くなったのだと教えてくれた。
でも確かにこの二人なら、男子を紹介してくれなんて言わなさそうだ。
スペックが高いし、充分自力で恋人を作れる。
他には同じ中学からの進学者がいない。だから今のところ、二人がいとこだとバレずに済んでるらしい。
「でも俺に教えたら、誰かに言っちゃうかもしれないのにいいのかよ?」
「秋月っちはカフェの店長っていう、学校で知られたくない秘密をあたしも握ってるからね。ふふふ」
邪悪な笑みを浮かべる美少女。
なるほど。俺の情報が人質ってわけか。浜風さんって可愛い顔に似合わず、案外したたかなんだな。
「なんちゃって。ほんとは秋月っちなら信頼できるって感じたんだよ」
一転してにへらと笑いながら、そんなことを言う。
フェイントはズルい。ギャップが可愛い。
「そっ……そっか?」
悪ぶっただけで、やっぱりいい人だった。
「じゃあ浜風さんはウチのバイトを続けるということかな?」
「うん、もちろん!」
「あの……」
横から京乃さんが遠慮がちに口を挟んだ。
「もちろんわたしも続けますので、よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げると、黒髪がふわりと揺れた。相変わらず清楚で控えめだよな。
「うん。こちらこそよろしくお願いします」
えっと……神ヶ崎さんは……彼女だけは、今日で終わりなんだろうな。
──と思いつつ目を向ける。
「そろそろ開店準備しなきゃダメじゃないの?」
「あ、そうだね」
明確に言わないってことは、やっぱり辞めるつもりかな。
「そう睨まないでくれる?」
「いや、別に睨んでるわけじゃ……」
いかん。彼女の気持ちを考えていたら、つい睨んだみたいになってたか。
「とりあえず続けるから」
「あ……うん。よろしくお願いします」
とりあえず、か。
それでも続けるということには驚いた。
約一名、厳しめの人がいらっしゃるものの、要は全員続けるらしい。
コンビニよりもカフェの方がお洒落な感じがするからか。
それとも賄いで美味しいケーキを食べられそうだからか。
(そんな話はひと言もしていないが。)
本当の理由はわからないが、仲の良い友達の誘いよりもここのバイトを選んだ。
俺達──俺と親父と、そして母さんにとって、大切な『カフェドひなた』を選んでくれた。
それには素直に感謝しなきゃ。
「さあ、掃除を始めるわよ」
「はぁーい!」
「そうしましょう」
三人はそれぞれ手分けして、店内の掃除を始めた。
えっと……まるで神ヶ崎が店長みたいになってないか?
◆◇◆<TOP3美女side>
時はさかのぼり、二日前。金曜日の放課後。
トップ3美女たちは下校時にジェラートショップに寄り道をして、会話に花を咲かせていた。
「ところで鈴々はバイトどうするの?」
「どうするって?」
「だって足立君に誘われてたでしょ」
鈴々はオレンジ、涼香は紅茶味のジェラートを舐めながら話す。
「秋月っちと続けるって約束したし、もちろんカフェのバイト続けるよ」
鈴々はさも当然といったふうに返した。