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【第11話:トップ3美女と約束】

「え? 来るの?」

「来ちゃダメなの? わたしだけクビ?」

「あ、いや、そういうわけじゃなくて……」


 そんな人を殺すような鋭い視線を突き刺すのはやめてくれ。


「神ヶ崎はもう来たくないかと思って」

「そんなことはひと言も言ってないでしょ」


 確かに来たくないとは言ってない。だけど態度は嫌そうだった。

 彼女の考えていることがイマイチわからない。


 そんな俺の戸惑いをよそに、父はとても嬉しそうだ。


「じゃあ三人ともまた来週も来てくれるんだね」

「「「はい」」」

「よろしくね。お疲れ様」


 能天気な親父様よ。

 親なら俺の心配を少しは察しろ。


「それでは失礼します」


 三人は礼儀正しく頭を下げた。

 そんな姿を見ながら、俺はとある心配をしていた。


「あの……みんなにお願いがあるんだけど」

「なになになに? スリーサイズなら教えないよ!」

「だから訊かんって」


 浜風さんは巨乳だ。男子として興味がないと言えば嘘になる。

 だけど、だからと言って、面と向かってスリーサイズを訊くほど俺は勇者ではない。


「そうじゃなくて、三人のバイト先の店長が俺だってことは、学校では言わないでほしいんだ」

「なにそれ? 言いふらせよっていうフラグかなっ?」

「違うわい!」


 だから浜風さん。どうしたらそういう発想になるのか。

 この人、キチンと言っておかないとマジで言いふらしそうで怖い。


「冗談じゃなくて、本当に知られたくないんだ」

「なんでよ?」

「高校生でカフェの店長なんて、カッコつけてると思われるのが嫌だから」

「そんなこと、誰も思わないって!」


 浜風さんはそう言うが。


「ねえ涼香ちゃんもカッコつけてるとか思わないよね」

「いいえ。思うわ」


 即答だった。予想通りではあるがちょっと傷ついた。


「ほら。神ヶ崎さんと同じように思う人がクラスにもいるはずだ」

「確かに。いないとは言い切れませんね」


 京乃さんもそう思ったみたいだ。


「だからやっぱ内緒にしてほしい」

「じゃあ仕方ないねぇ。わかったよ」


 ようやく浜風さんも納得してくれた。

 三人には言えないが、心配事はカッコつけと思われることだけじゃない。


 彼女たちにはファンも多い。特にイケメン三人組は、明らかに彼女たちを狙っている。

 彼らからしたら平凡男子の俺がトップ3女子と同じバイト先だなんて、嫌に違いない。


 それに彼女たちがいつまでバイトを続けるかもわからない。だからやっぱり学校では内緒にしておいた方がいい。


「まあでも、秋月くんが店長なのを、私たちだけが知ってるってのも面白いかもね」


 浜風さん。いったい何を企んどるんだキミは?


「それもそうですね」

「そうそう。クラスの誰も知らない秋月っちを私らだけは知っている!」

「なんなんだよ秋月っちって」


 俺はそんなふうに呼ばれたことなんてない。


「せっかく仲良くなったんだからさ。秋月っちって呼ぶよ」

「いらんて」


 俺は仲良くなったのか?

 トップ3美女と?

 んなバカな。


「じゃあ秋月っちも、私を鈴々(りんりん)って呼んじゃってね」


 俺の意見はスルーかよ?

 それに俺が女子を下の名前で呼ぶなんて、できるはずがない。


「はい、リピート・アフター・ミー! りんりん!」

「……」(言えないっての)

「ほらっ、なにやってんの? リピート・アフター・ミー! りんりん!」

「り……りんりん」


 浜風さんの圧に負けて、蚊の鳴くような声でリピートした。

 これはあれだ。英語教師の山口先生の口真似か。


「ワンスモア・プリーズ! りんりん!」

「えっと……りんりん」

「はい、もう一度! りんりん!」

「りんりん」


 まずい。なんだか言い慣れてきたぞ。


「はい、よくできました! さすが秋月っち!」


 可愛い笑顔で褒められた。

 不覚にもちょっと嬉しかった。


 だけど実際に面と向かって下の名呼びをするなんて日は来るはずもない。


「じゃあまた来週ねっ!」

「また来週よろしくお願いいたします」

「また来週」


 三者三様の挨拶。

 少しの……いや大いなる不安もありながら、俺は答える。


「あ……うん。来週もよろしく」


 美少女達は帰って行った。


 それにしても、これから毎週こんな状況が続くのかな……

 俺は高嶺の花たちをちゃんとスタッフとして使っていけるのか。そして母が理想としたカフェを実現できるのか。


 ──やっぱり不安しかない。


 いや。前向きにやるしかないか。


***


 翌日、月曜日の朝。学校まで自転車を走らせた。

 そして学校に着いて教室に入る。


 既に多くの生徒が登校していた。

 見るとトップ3美女はイケメンABCと6人で話をしている。


 教室の中は今までとなんら変わらない景色。

 だけど俺の目には、今までと違ったものに見える。


 トップ3は先週までは、遠い存在だった。

 教室の中にいても、自分とは関わりのない存在。あえて言うならテレビの中のタレントを眺めているような気分とでも言おうか。


 それが今は、彼女たちが俺の店でバイトを始めたせいで、ひとかたならぬ関わりが生まれたのである。

 まだ実感は薄いものの、不思議な気分だ。


 とは言え学校では今まで通り、彼女たちとはなんら関わりのない態度で過ごさないといけない。


 彼女達はお喋りに夢中で、今登校した俺には気づいていない様子だ。

 よし、この隙に目立たないように席につこう。


 そう思って静かに彼らの横をすり抜け、自分の席へと向かう。

 その時ふと浜風さんと目が合った。


「あっ、秋月っち、おっはよ」

「え?」


 神ヶ崎と京乃さんが驚いた目を浜風さんに向けた。

 おいおいおい! なんで俺の名前を、変なあだ名で呼ぶんだよっ!?


「あ……」


 しまったという顔で、口パクで「ごめん」する浜風さん。


 うっかりかよ。

 俺たちの関係が周りにバレたらどうしよう──

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