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【第10話:最初の一日が終わった】

 波瀾の一日が終わって、店を閉めた。

 この日はバイト初日だったにもかかわらず、神ヶ崎だけはてきぱきとノーミスで切り抜けた。


 一方──


 浜風はまかぜ 鈴々(りんりん)はその後も何度か勘違いを起こしたり、お盆の底を座っているお客さまの頭にうっかりとぶつけたり。

 おっちょこちょいなところを遺憾なく発揮した。


 また京乃きょうの みやびはがんばってはいるのだが、控えめな性格が災いして、閉店時間を迎えた今でもスムーズに接客できるところまでに至っていない。


 素直だけどおっちょこちょい。

 真面目だけど不器用。

 そして優秀だけど反抗的。


 三者三様の個性がある。

 だけど三人とも驚くほどの美人なおかげで、男性客からの評判はすこぶる良い。


「これから毎日通うよ」なんてお客が続出した。

 残念ながら当店は日曜日限定の営業だから、毎日来られても困るのだけども。


 でもお客さんが増えるのはいいことだ……


 ──いや。ホントにそうか?


 スタッフが美人なおかげで客が増えるなんて、俺にとってはちっとも喜しくない。


 『カフェ・ド・ひなた』はあくまで美味しいコーヒーとスイーツ、そして癒される空間が売りだ。

 今後、美人店員目当ての客が増えたら、店の雰囲気が壊れないか心配だ。


 そんな俺の心情を知ってか知らずか──


「秋月くん、おつっ! あ~っ、楽しかった! いっぱい失敗してごめんね。来週は頑張るからねっ!」

「ああ、お疲れ様……って、次も来るつもりか?」

「ええーっダメかな? やっぱあたしクビ!? あちゃ~、失敗しすぎたもんねぇ……」


 がっくし肩を落とした浜風さん。本当に残念そうだ。


 慣れない中で失敗もしたし、てっきりこんな仕事は懲り懲りだって、辞めるって自分から言い出すかと思っていた。


 意外だ。浜風さんって案外我慢強いのか?


「やっぱりダメですか。緊張しちゃってぜんぜん上手く接客できませんでした。本当にすみません」


 京乃さんは今にも泣きそうな顔をしてる。

 真面目な京乃さんにそんな顔されると、いじめてるような気になってとても申し訳ない。


 二人とも仕事っぷりははっきり言って、今の時点では合格点じゃない。まあはっきり言ってクビだな。


 と言いたいところだけど──


「二人とも一生懸命にやってくれて感謝してる。毎回今日みたいに一生懸命仕事をしたら、きっと近いうちに満足いく接客ができるようになると思う」

「え? じゃああたしたち、合格だねっ!」


 ──切り替え早っ!!


 噂通り、能天気な人なんだな。

 明るくて周りまで楽しい雰囲気にさせるから、まあそこが浜風さんの良いところだけど。


 それにしても一つ疑問がある。


「浜風さん。ちょっと聞きたことがあるんだけど、いいかな?」

「なに? なんでも聞いてよっ! ただしスリーサイズは答えません!」

「いきなりそんなこと訊かんわい!」


 いきなり何を言い出すんだ?

 思わず胸に目が行ってしまった。


 ──うん、巨乳だ。


 この制服は胸の部分が白い生地で目立つデザインになってるせいもあるが、これは間違いなく巨乳だ。


 ──あ、いや。ガン見はまずい。慌てて視線を逸らせた。


「じゃあなにを聞きたいの?」

「コホン……えっと……」


 ちょっと咳払いで気落ちを落ち着けた。


「浜風さんは、クラスメイト男子が店長の店で働くなんて、嫌だと思わないのか?」


 この人たちは高嶺の花女子だ。平凡男子の店長のもとで働くなんて、本音では嫌なんじゃないか。


「ううん、そんなことないって! めっちゃ楽しかったし、秋月くん頼りになるし続けたいよ」


 そんなキラキラしたやる気に満ちた目で見つめられたら、こう答えるしかない。


「わかった。じゃあ次回もお願いするよ」

「やった! ありがとっ! 秋月くんってやっさしい!」

「あ、いや……優しいとかそんなんじゃないよ」


 面と向かって褒められたら照れる。


「あの……えっと……本日はご迷惑ばかりかけてもうしわけありません。私も次は頑張るので、また来たいです。いいですか?」

「もちろん。京乃さんも俺なんかが店長で、ホントにいいの?」

「はい。秋月さんは本当に信頼ができる方ですし」

「それは買い被りすぎだよ」


 京乃さんは突然口を俺の耳に近づけて小声で囁いた。


「いいえ。だって秋月さんは、学校で私が秘密にしてほしいってお願いした約束を、ちゃんと守ってくれています。とても信頼できる方ですよ」


 話の内容にも耳元で囁く甘い声にも、そしてふわりと漂ういい香りにも──ドキリとした。


「あ、わわわわかった。ありがとう」


 京乃さんはあの約束相手が俺だって、ちゃんとわかっていたんだ。

 急接近されてドキドキが止まらない。


「じゃ、じゃあ来週もお願いするよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 この二人は次もやる気満々だ。

 でも神ヶ崎はずっと不満そうだったし、もう次は来ないよな。


「次は来週の日曜日でいいのよね?」


 視線を合わせた途端、クールな顔で訊いてきた。

 次も来るつもり……なのか?

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