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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

呼び出しの雷

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ん? いま空が光ったような気がするけど、勘違いかな?

 やだなあ、雨が降らないと踏んで洗濯物を干してきたんだけど、雷がやってくるとなあ。そのあとに雨降りがやってくる可能性が大っしょ。

 必ずというわけじゃなくても、予告にはなる。これらをきちっと受け取って対策できるかは、日常においていくらも機会が用意されている。

 人間、経験のないことであったなら、過剰なまでに警戒して準備をするだろうな。しかし、それが肩透かしに終わり過ぎたりすると、じょじょにガードが下がっていってしまう。天災は忘れたころになんとやらというか。

 雷なども、そのひとつかもしれない。やれおへそを取られるぞと注意されても、実際にへそを取られる経験をしたり、目の当たりにしない限りはどうにもね。

 ときには、そのデモンストレーションに付き合わされてしまうケースもあるかもしれない。限りなく可能性が低くとも、ゼロじゃないならそれは起こるものだ。

 ひとつ、僕が聞いた雷についてのお話。聞いてみないかい?


 むかしむかし。

 あるところにいた男の子が、お出かけから帰ってくるところで雷に遭った。

 最初の一発目は、空がまだ明るいうちからゴロゴロと来て、雲の姿はまだ遠方にあったらしい。

 雨に降られるのは嫌だなあ、と足を早めて家まで急ぐものの、雲の動きは思いのほか早くてたちまち追いつかれてしまった。

 轟音。今度は遠方ではなく、自分の真上から響いてきたものだ。

 その音の大きさはいつ聞いてもなれない。思わずぴょんと飛び上がってしまい、本格的な駆け足になる。

 走って走って、どうにか雨が降り出す前に家へ着き、安堵したのもつかの間のこと。


 ごろりと囲炉裏まわりの板敷きへ寝っ転がり、ふと自分の腹のあたりへ手をやって気がついたんだ。

 へそがない。いくら指でなでても本来あるべき場所に感じるくぼみがない。

 ぱっと起き上がり、あぐらをかいてみる。へそのあたりを見下ろしてみると、その箇所はぱくんと口を閉じているかのように塞がれていたんだ。

 消えたわけじゃない。用心深く触れてみたならば、確かな起伏をそこに感じる。けれども、このように縫い合わせた覚えなどない。するはずがない。

 縫い針などで、つんつんと触った程度ではまったく開く様子もないへその部分。血を見るのも痛いのも嫌な子供にとっては、せいぜい自分の指先でもってコリコリといじりながら、偶然にまた開いてくれるのを願うばかり。

 おりしも雨が家の屋根たちを打つ音に続き、また耳をつんざくようなひどい音が室内を駆け巡る。

 また飛び上がりながらも、男の子は雷さまを聞いて思ってしまう。


 ――雷さまが鳴ると、おへそを取られるというけれど……もしかして、これが?


 その子の想像は、あながち間違いではないかもしれないと、事実は裏付けられていく。


 雷雨が席巻したその晩が開けると、彼の家族を含めた、村の面々のおへそがすっかり閉じあわされてしまうという事態が起きたんだ。

 その子の状態と同じ、指でかろうじて閉じ目を感じられるほどの小さいもの。しかし、生まれて子の方、付き合い続けていたものの不在とは、気づいてしまうと気になり続けてしまう。

 生活を送る上では支障がないのは幸い。へそが肝要な仕事というのは、ぱっと思いつかないもの。騒ぎになったのは一時的なもので、ぼつぼつと人々はいつも通りの動きへ戻っていく。

 子供たちなどは、そのうちこの状態に慣れて面白がり出す様子を見せるも、男の子としては少し不安があった。

 昨日、腹を冷やしたわけでもないが、気を抜くとぐるぐると音を立てるような気配があったからだ。

 ちょうど、へそのくぼみが空いていたあたりから。


 それから丸一日を過ごし、誰のへそも回復しないのを見て取ると、男の子は思い切って例の場所へ向かおうとしたんだ。

 あの轟音に自分が驚いて飛び上がってしまった、あの路上にだ。村の人々もあまり使わない小道だったから、昨日今日でどれだけの人が通ったかは分からない。

 ひょっとしたら、手掛かりがあるかもしれないと踏んで、そこへ向かったわけだ。

 結論からいうと、手掛かり、足掛かりはあった。いや、それどころか答えが横たわっている異状事態だったのだけれども。


 かの男の子が見たのは、大きく陥没した小道の姿だった。

 すり鉢状にえぐられた道の途中、その底にあるものを見て、思わず驚きの声をあげてしまう。

 へそだ。

 無数のへそたちがすり鉢の底に集まり、餌を求める小鳥たちのように、しきりにパクパクと開閉を繰り返していたんだ。

 その口から、彼らはしばしば真っ赤な色をした液体を吐き出しているらしかった。

 一度に少量かつ、正体がつかめない。ただ、それが放たれて地面に落ちるたび、そこの部分が湯気を出して、わずかに溶解してしまうのは見て取れた。


 毒か何かか?

 そう判断した子供は村へとって返して、皆へ事情を説明して現場へ急行した。

 すり鉢状になった地面は、居合わせた皆が確認できたものの、子供が見たような一部始終は見られなかったらしい。

 というのも、穴をのぞき込むと同時に全員がその場で転げ回ざるを得ない、腹痛に襲われてしまったためだ。

 苦痛は長くなく、ぱっとかき消えてしまい、それが済むとおのおののへそが元の位置で開いているのを見て取れたのだとか。ほんのりと、熱さを帯びながらね。


 ひょっとして自分たちのへそは、あの赤い液体を地の底から引っ張り出すために、あそこへ集められたんじゃないかと、男の子は思ったのだとか。

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