WALK 2話
時間とタイミングがあって、スラスラと書けました!(∩´∀`)∩
あまりにも早く書けてしまうとミスってないか不安ですが、多分おそらく大丈夫…きっと…
WALK 2話よろしくお願いいたします(^▽^)
体育祭から数ヶ月が経ち、俺の妄想にも一段落がついた頃。
学校は夏休みになり、俺は毎日工場の仕事を手伝っていた。
手伝うと言うと誤解が生まれるかもしれないが、一応アルバイトという形だったので、ちゃんと時給は出ていた。
昼休みになり、親父の運転する軽トラックに乗り、工場から少し離れた場所にある、いつもの中華料理屋へ向かった。
親父の性格は典型的職人気質で厳しい。
…と思ったら大間違いで、明るくておおらかだ。
ハワイに行ったことがないくせに、夏の休日はハワイ気分でアロハシャツにハーフパンツを合わせて過ごす。
店に着くと、昼時のせいかほぼ満席だった。
店内には工業用油や製品のバリ(加工の際に出るクズやカス)がこびり付いた、汗臭い職人のおじさん達ばかり。
窓際の席に座っていつものメニューを注文すると、親父が尋ねてきた。
「お前、最近学校はどうなんだ?」
「どうもこうも、今夏休みなの知ってるだろ?」
俺は頬杖をつき、窓の外を見たまま答えた。
「ん? そうだったけか? 父さん、忘れちゃった」
おとぼけた口調で話を進める。
「工場を手伝ってくれるのは助かるけど、友達と遊びに行ったりしても良いんだぞ? お前、夏休みに入ってから一度も遊びに行ってないだろ?」
「誘いがないから行かないだけだよ。誘われたら行くし、誘われても気分が乗らなかったら行かない」
溜息を交えながら、うんざりするように返した。
「そうか。だったら良いんだけどな。時々心配になるんだよ、お前友達いるのかなーって」
そう言うと、親父はコップの水を一口飲んだ。
「今年の夏は特に急ぎの注文もないし、パッと羽目を外して遊びに行ったって良いんだぞ?」
「羽目を外すって、それが高校生の息子を持つ親の言うセリフかよ」
「いいじゃないか、高校生活最後の夏休みだろ? 彼女とかさ。いい思い出になるぞ?」
一瞬ドキッとした。
胸が高鳴り、頭の中に彼女の笑顔が浮かんだ。
だが、意識してかき消した。…期待するのが怖かった。
「…そんな簡単に彼女とか出来たら苦労しないよ」
そんな話をしているうちに、注文した料理が運ばれてきた。
昼食を終えて、親父は一服。
俺は追加注文でコーラを頼んだ。
携帯の画面をぼんやり眺めながら、親父がタバコを灰皿に押し付ける音を聞いていた。
「お前の電話って鳴らないよね」
「うるさいな、鳴るときは鳴るよ」
「そうかー?」と言いたそうに、親父は窓の外を見てもう一本タバコをふかし始めた。
その時、俺の携帯電話が鳴った。
携帯の画面には森川の名前が出ていた。
俺の携帯はすこぶる鳴らない。
鳴るときは決まって森川か新田からで、たいていはくだらない内容ばかりだ。
「明日の朝4時に集合して、カブトムシ取りに行こう」とか、そんな馬鹿みたいな話ばかりだった。
通話ボタンを押して、森川からの電話に出た。
「…カブトムシなら取りに行かないぞ」
俺は森川が何か言う前に断りを入れた。
「カブトムシ? いやいやアレは無し。高く売れるって聞いてたけど全然取れないし割りに合わないからな、次はクワガタだな」
なんの悪びれた様子もなく森川が答える。
「どちらにしろ、仕事がある日に朝早くからくだらない事に付き合いたくない。悪いけど他をあたってくれ」
そう言って俺は電話を切ろうとした。
「待て待て! 違う! 朝早いとかクワガタとかそんなんじゃなくって、純粋に遊びに行かないかなーって思ってさ」
森川が電話越しに慌てる。
「遊びに? どこへ?」
俺は切ろうとした電話を、耳元へ戻した。
「お前さ、明日うちの高校の野球部の試合って知ってる?」
俺の通う高校の野球部はハッキリ言って弱い。
それどころか、他の部活から助っ人を入れてようやく成り立っているような部活だった。
毎回一回戦止まりで注目もされない。
唯一メディアに載ると言えば、強豪校のコールド勝ちを引き立てる時ぐらいだった。
「全然知らないし興味もない。しかも明日? 遊びに行く誘いなのに高校野球観戦? しかも弱小校の? 工場ほったらかしにしてまで行く価値ないね」
俺は行きたくない全ての理由を述べ、断りを入れた。
「そっかー…分かった、美樹ちゃんには俺から適当に言っとくよ、じゃあなー」
美樹ちゃん。
名前を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
心臓が一拍、跳ねた。
「待て! 誰だって?」
少し大きめの声で森川を止めるように言った。
「え? 美樹ちゃんだよ。体育祭委員の時の、覚えてる?」
「あー…美樹ちゃんね…覚えてるよ…うん…」
声がわずかに震えた気がした。
頭の中に、あの日の笑顔が浮かぶ。
…やばい、顔が熱くなってきた。
携帯越しで良かったと内心ホッとする。
「何であの子と一緒に野球観戦なんか行くことになったんだ?」
動揺を隠すように、なるべく平静を装って尋ねる。
「なんか強豪校との試合らしくて、みんなで行かない?って美樹ちゃんに誘われた」
「えっ? お前から誘ったんじゃないのか?」
少し驚いたが、話の続きがある様なので俺は再び森川の声に耳を傾けた。
「同じクラスで仲も悪くないしね。女友達誘っても、野球観戦なんて誰も行きたがらなかったんじゃないかな?
それに、同級生の奴らもこれで引退だろうし、最後くらい応援してやったってバチは当たらないんじゃない?」
森川が誘われたと言うのを聞いて、若干のジェラシーを感じた。
同時に、まだ試合もしてないのに、負けと決められている野球部の連中のことも少し気の毒になった。
「まだ引退って決まってないだろ。
でもまぁ…そういう話なら無下には出来ないよな。
どうなるかわからないけど、一応集合場所と時間だけ教えといてくれ」
自分の気持ちを悟られないように、なるべく軽い調子で話した。
「場所は球場のAゲートで、時間は9時半だよ。
来れるか分かったら、当日でも良いから連絡して」
「分かった、じゃあな」
「あー待って! 最後に1つ!」
通話を切ろうとしたが、また森川の声が聞こえたので電話を耳元に戻した。
「お前って本当にわかりやすいね」
含み笑いを交えたような森川の声に、顔が熱くなった。
「うるせー!」
俺は通話終了ボタンを強く押して電話を切った。
ふと目線が気になり前を向くと、タバコを吸い終わった親父がこちらを見ていた。
「…ごめん、待たせた」
「いや、全然」
よく見ると、灰皿の吸い殻が四本になっていた。
俺が電話で舞い上がっている間、親父はずっと待ってくれていたのを思うと、気まずかった。
「なぁ、明日なんだけどお前休みでいいよ」
親父が突然、突拍子もないことを言い出した。
「なっ!? 何言ってんだよ。休むわけないだろ!」
話を聞かれてたのは分かっていたが、親父にそこまで気を使って欲しくなかった。
「ウチの会社の社長は誰?」
親父は飄々と話を続ける。
「オヤジ…父さんです…」
「じゃあ言う事は聞かないとな」
今で言うとパワハラになる気がするが、当時は従うしかなかった。
「…ちょっと明日まで考えてみる」
今できる精一杯の返答だった。
「そしたら今日はちょっと残業してもらってもいいか?」
親父は椅子から立ち上がると、大きく伸びをして、首を左右に振って鳴らした。
「なんか…ゴメン…」
さっきの電話に付き合わせた上に、明日のことまで気を遣わせている。
申し訳なさと、なんとも言えない後ろめたさが胸をチクリと刺す。
「何言ってんだお前? お前がまだ鼻垂らしてキャッキャ遊んでた頃、この仕事は父さんと母さんがずーーっと二人でやってたんだぞ?
今更一人減ったからってなーんも問題ない」
「……そっか」
俺は俯きながら答えた。
まだまだ頼られるには遠いよな、と少し落ち込みそうになったが、親父のこういう所は嫌いじゃない。
「ところでさ」
「ん?」
親父が急に声を潜めてヒソヒソと尋ねてきた。
「美樹ちゃんて誰? 可愛いの?」
「なっ…!?」
心臓が一気に跳ね上がった。
ドキドキと鼓動が早くなり、体中に熱が駆け巡る。
さっきの会話を聞かれていたのか。…いや、それよりも。
「う、うるせー!」
俺は声を裏返しながら答えた。
親父は今日一番のにやけ顔を俺に向けている。
その目が、まるで全部お見通しだと言わんばかりに細められていた。
恥ずかしさに耐えきれなくなり、俺は慌てて席を立った。
椅子がガタンと音を立てる。
親父の笑い声が背中に刺さる。
「ったく、なんであのタイミングで聞くんだよ…」
真っ赤になっているであろう自分の顔を隠すように、俺は店の外へと急いだ。
外の空気が火照った顔に冷たく当たり、少しだけ落ち着く。
けれど、胸の鼓動はまだ速いままだった。
美樹ちゃんの笑顔が、頭から離れない。
…明日、どうしよう。
会ったら、ちゃんと話せるだろうか。
緊張と期待が相まって、心がザワザワと落ち着かない。
それでも。
明日、球場に行く自分の姿がはっきりと浮かんでいた。
「俺…結局行くんだろうな…」
小さく呟いたその声は、夏の風にあっけなくさらわれていった。
遅筆ですが、コツコツと更新できたらと思います。