不機嫌そうなマリアンヌ
マリリンモンルーサラと共に大広間へ戻ると、すぐさま凄まじい勢いで女豹アドリアナに捕まってしまった。
どうしてこうも心休まる暇がないんだ。
ようやく飲みもんでも飲んで一息つこうとしていたのに……。
あーーーーキンキンに冷えた生ビールをジョッキでガンガン呑みてーーーーぇ!!!!
めちゃダリ〜〜。
『レオナルドッ!! クリストファー様がお見えになってるわよ!! あなた達を引き合わせてあげたんだから、早く私とクリストファー様の仲を取り持ってちょうだい!!』
こっちは引き合わせてほしくなかったわっ!!
どんな目に遭ってたと思ってんだ!!
ったく、クリストファーとやらはどこにいんだよ!!
『クリストファーはどこにいるんだ?』
この女から聞き出さんと顔も知らんわ!!
『あちらにいらっしゃるじゃないのッ!!』
女豹アドリアナが指さす方を見る。
へーーあれがプロヴァンス公爵家のクリストファーか……
なんか……グラス片手にエレガントさが満ち溢れた佇まいしてやがる。
何してても絵になるタイプの男だな。
しかも透明感あるサラサラのシルバーヘアがイケてんじゃんよ。
すでに女連中に囲まれまくってるし。
女豹アドリアナが熱心になるのも頷けるわ。
レオナルドと容姿の良さは互角くらいか……
んーー向こうの方がイケてる……?
さぁなんて言って話そう?
とりあえず挨拶しに行ってから考えるとするかっ。
『それではクリストファーのところへ行って来るから。サラ嬢、またダンスの時に……』
この二人から解放されんならなんだっていいわっ。
『はい、お待ちしておりますわぁ〜〜レオナルド様〜〜♡』
ただちに立ち去ろっ。
これ以上一緒にいたら胃に穴あきそ。
『頼んだわよ!! レオナルドッ!!』
はい、はい、そんなにムキになって言わんでも分かってるっつーーの!!
ほんとっ気ぃつえーー女だなーー女豹アドリアナは。
女豹アドリアナに責っ付かれ、私は逃げるようにして女連中に囲まれまくりのクリストファーのもとに向かった。
少し距離をとって声をかける。
『クリストファー……』
私の呼びかけに気づいたクリストファーが女連中の波をかきわけて私のとこへ来た。
『やぁレオナルド!! 今夜は招待してくれてありがとう。しばらくぶりだね。元気そうで何よりだよ』
すんげーー爽やかな笑顔でめちゃ感じいい奴だ……。
それにコイツの瞳の色ヤバッ!!ヴァイオレットじゃん!!
珍しい色の瞳だよな……カッケーー!!
レオナルドより身長も高いし、こっちの方が断然イケてんなっ。
『こちらこそ来てくれてありがとう。クリストファー、今から話せないか?』
『あぁもちろん!! バルコニーに出ようよ。外の空気が吸いたいし』
『じゃあそうしよう』
❤︎❤︎
イケてる爽やかクリストファーと二人でバルコニーへと移動した。
取り巻きの女連中から解放され、ホッとしたかのように大きく外の空気を吸うクリストファー。
ーーアンタも大変だな。
あーーなんて言って切り出そう……
ストレートに言うしかないかっ。
『あのさ、急にこんなこと頼んで悪いんだけど…… あとでアドリアナと話す時間をつくってもらいたいんだ……』
『別に構わないよ。話すくらいは……。けれど僕はアドリアナ嬢に興味はないけどね』
案外爽やかクリストファーはハッキリ言うタイプだったんだな。
女豹アドリアナ……撃沈だ。
後のことは私の知ったこっちゃないわっ。
『それよりもさっきレオナルドはサラ嬢と二人でいたよね? 君はいつも社交の場でそんなことばっかりして。婚約者のマリアンヌ嬢が不憫だよ。せめてバレないようにしてあげないと…… って今更隠しようもないか。君の女遊びは有名だから。ご両親でもあるスタンフィールド公爵夫妻も頭抱えてたくらいだし……。まぁもう諦めてるみたいだけど』
この男、どっかの誰かみたいに顔だけの男じゃねーーな。
いい奴だ。
てか、レオナルドてめーーぇはマリリンモンルーサラ以外にもいたのかッ!!
しかもアーノルド父ちゃんも、エリザベス母ちゃんも知ってんのかよ……
そういや初めてアーノルド父ちゃんに会った時、マリアンヌと上手くやってるのかって聞かれたもんな……。
これはクリストファーにマリリンモンルーサラとの仲をかなり疑われてるみたいだな……しっかり身の潔白を訴えておかねーーと。
『サラ嬢とは何もしてないッ!!』
『そうならいいんだけど…… レオナルドがいない間、マリアンヌ嬢はいつもポツンと一人で壁の花で帰りを待ってるだろう。その姿が見ていて可哀想でね。余計なお世話かもしれないけどさ』
『いや、クリストファーの言うとおりだ』
いつもそんな扱いをレオナルドから受けてたのか……マリアンヌ……
だからさっきすれ違った時もあんな表情だったんだ。
『今日のレオナルドはやけに素直だね。いつも僕がチクチク言い出すと嫌がって逃げてくのに。わかってくれたなら良かった。では僕は君の顔を立ててアドリアナ嬢と話してくるとするよ』
そう言って爽やかクリストファーは爽やかな笑顔を見せて私の前から去っていた。
ーーやっぱいい奴だなぁ……。
私もマリアンヌを捜しに行こう。
大広間へと戻りマリアンヌを捜していると、マリリンモンルーサラに再び捕まってしまった。
『レオナルド様〜〜ダンスのお時間ですわ。早く一緒に踊りましょうよ〜〜♡』
マリリンモンルーサラがまたしてもデカパイ押し付けながら私の腕をガッシと掴んだ。
ーーこの女も懲りん女だよな……
でもまぁ一緒に踊るって言ってしまったし……さっさと踊って早くマリアンヌを捜さないと。
音楽が流れはじめ、ダンスタイムとなり、私はマリリンモンルーサラの望み通りに一緒にダンスを踊った。
何度も足を踏みまくりそうになりながら……軽く何回か踏んだような気もするが。
ステップを頭に叩き込んで夜な夜な一人で練習したといってもグダグダだ。
もはやなんとな〜〜くの流れで乗り切るしかないっ!!
そしてどうにかこうにか無事に一曲踊り終え、周囲を見渡すと、大広間の隅の方でうつむきながら立っているマリアンヌの姿が……
ーーマリアンヌッ……
『サラ嬢、これで失礼します!!』
マリリンモンルーサラの手をとっとと離し、急いでマリアンヌに駆け寄った。
『……マ、マリアンヌ』
うつむいたままのマリアンヌに声をかける。
『はぃ。レオナルド様……』
まだうつむいたままのマリアンヌが虫の息声で答える。
『一緒に踊ろう……』
ゆっくりと手を差し出した。
ーーマリアンヌ……怒ってんのかな?
『はぃ……』
顔を少し上げて見せたマリアンヌはピクリとも表情を変えないまま、私の手を力なく取った。
やっぱり怒ってる?
ーー全然目ぇ合ってないんですけど……
そのあとマリアンヌは私とダンスは踊れど視線は合わせずじまい、話をふっても上の空で空返事しかしないままだった。
こうして波乱の舞踏会は幕を閉じた。
ーー不機嫌そうだったな……マリアンヌ。
今日一日でどんだけ神経すり減らしたことか……
胃に穴あきそうなんですけど……いやもうあいてるかもな。