私……女なんですけど……
ーー私は死んだのか……?
いつもより呑みすぎた昨日の夜、ふらふらになりながら家に帰って、そのまま部屋のベッドに倒れ込むようにして寝た。
そしていつも通り朝になれば母ちゃんに叩き起こされて、大学へ行くはずだったのに……
ーーなんでこんなことになってんだ?
❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎
うちの家のベッドとは、天と地ほどに違う触れ心地めっちゃ抜群なシーツと天蓋付きのキングサイズベッドの上で私は何故か目を覚ました。
ーーここは……どこだっ!?
あれっ、、この格好もなんだ……昨日着てた私の服じゃない……
とりあえず起き上がろう!!
うおーーーーなんだこりゃあ!?
このめちゃ王宮かってくらいのピッカピカでゴージャスな部屋!!
それにだだっぴろッ!!
しかも質屋に持ってたら金になりそうなもんばっかあんじゃん!!
一体どこなんだここは?
ーーコンコン、
『おはようございます。セバスチャンでございます』
んっ……!?
セバスチャン……?
誰……?
『は、はい……』
あっ、、
声が……お、男……みたいな声……
なんでこんな声に……?
部屋の扉が開かれると、そこにはロマンスグレーのイケオジがえらくかしこまった格好をして立っている。
『失礼いたします。レオナルド様、ご体調は如何でしょうか? 昨夜ご就寝前にご気分が優れないと仰っておられましたので、心配しておりました。お体は大丈夫でしょうか?』
ーーレオナルド……?
レオナルドって誰だ?
『え、あ、まぁ…… 大丈夫……』
『それは良かったです。昨夜はとても顔色が悪うございましたので心配しておりましたが、今朝は顔色も良ろしいようで安心いたしました。ご朝食の準備が出来ております。ラナがお召し物を持って参りますでしょうから、お召し替えがお済み次第ダイニングへお越し下さい』
『……はい』
ラナって誰……?
そしてロマンスグレーセバスチャン!!アンタも一体何者なんだっ!?
謎を残したままロマンスグレーセバスチャンは扉を閉めて去って行った。
私を見てレオナルドって言ってたよな?
レオナルドって名前……男みたいだな。
さっきの声の感じといい、どうなってんだっ!?
全く今の状況が理解できん!!
ーーコンコン、
『おはようございます。お召し物を持って参りました』
あっ、、さっきのロマンスグレーセバスチャンが言ってたラナ……?
『あ、ど、どうぞ入って……』
『失礼いたします。レオナルド様、それでは早速お召し替えをしていきましょう』
…………えっ!?
着替え手伝うの!?なんでっ!?
着替えくらい一人で出来るわっ!!
って、なんだこの派手な服……しかもこの服やっぱ男もんじゃんかッ!!
ーー私……女なんですけど……
まあ女っつってもガサツな女だったし、スカートも好きこのんで穿いたりしないような女だったけどさっ。
てか私は今どんな姿なんだ?
この人達にはどんなふうに見えてんだ?
か、鏡……そうだッ!!
鏡で見て確認しないとッ!!
慌てて無駄に広い部屋の隅に置かれていた全身鏡で自分の姿を見た。
こ、こ、これは……やっぱり男だーーーーーーッ!!!!
男になってるーーーーッ!!!!
しかもかなりイケてる男だよなーー。
髪はキラッキラのプラチナブロンドヘアーで瞳の色はディープブルーときた!!
身長は185以上ありそうだな。
脚もなげーーしスタイルいいじゃん!!
歳は……見た感じだと……十八ってとこか……
って落ちついて今の自分の姿を評している場合かッ!!
ーーどうすんだ……こんな姿になっちまって……
一体今のこの姿の自分は何者なんだ?
❤︎❤︎
こうなる前の私は須藤家の長女として生まれ育った。
私の上には三人の兄貴がいた。
母ちゃんがどうしても可愛い女の子が欲しくて欲しくてなんとか最後の望みを繋いで生まれてきたのがこの私、須藤明日翔だ。
だが……母ちゃんは知らなかった……女に生まれたからといって女らしく、しおらしく育っていくとは限らないってことを。
ヤンチャでド下品でバカな兄貴三人の中で日々もみくちゃにされ、女らしく、しおらしくなれっつーーのには到底無理がある!!
言葉遣いも、振る舞いも、大変ガサツな女へと順調に育っていった。
そういえば少し前に父ちゃんと母ちゃんが言ってたな……
明日翔は生まれる性を間違えて生まれてきたんだって。
実の親にそこまで言わしめるほどだ。
自分で言うのもなんだが、容姿はなかなかいい女だ。
スタイルも抜群だった。
胸もそこそこにあるナイスですね〜〜スタイルだ!!
だからガサツながらにも男にはモテていた。
この顔と体目当ての男には。
私は女の割にはかなり性欲の強い方だ。
そこらの男顔負けなくらいに。
女でありながらも性への好奇心がやたら旺盛だった。
思春期頃の兄貴達それぞれの汚部屋には、エロ本やエロDVDが常に散乱しまくっていたし、そういったもんに全く抵抗もなかった。
それどころか興味津々で自分もめくるめく魅惑の世界に魅了されまくり、早々に処女とはおさらばして、二十歳の今となってはもう何人と寝たかすら分からなくなっていた。
呑んでる時に声かけられて、酔った勢いでヤってしまったこともしばしばあり、ヤることやって、寝て、朝起きたらアンタ誰?状態。
私はそれを楽しんでたし、それでいいと思って過ごしてきた。
欲求を満たす体の関係以外は何も望まない。
それが私とヤる条件だ。
もちろんヤるのは自分好みの男限定ではあるが。
私は恋人関係なんてもんに全く興味が無い。
束縛だの、執着だの、面倒な恋愛事はごめんだ。
世間一般からは完全にズレまくった価値観のもとに性に奔放な生活を送り続け、親が望んだ可愛い女の子とはかけ離れまくっていたガサツでクソビッチな私が今、おおいに親を失望させてしまっていたバチが当たったのか……男になっている。
ーー私……女なんですけど……
ラナに着替えを手伝ってもらい、訳も分からないままに、とてつもなく派手な王子様風衣装に着替えさせられた私は、ダイニングへと連れて行かれた。
ダイニングに入ると、そこにはこのレオナルドの親なのであろう人物が先に背筋ビシッで座っていた。
『おはよう。レオナルド』
『お、おはようございます……』
うおーーーーめちゃ美魔女じゃん!!
しかもお姫様みたいなドレス着てるし!!
すんげーーキレイな母ちゃんだな……うちのドデ〜〜ン母ちゃんと大違い!!
そういえば、いつも母ちゃん言ってたな……四人も子供産んだせいでこうなったんだって……。
『レオナルド、早く座って朝食にしようではないか』
『あ、はい……』
うおーーーーこれまたダンディーイケオジじゃん!!
こっちは私とおんなじ王子様衣装だ!!
すんげーーカッケーー父ちゃんだな。
うちの薄らハゲのビール腹父ちゃんと大違いだ!!
そういえば、いつも父ちゃんも言ってたな……お前達四人を育ててきた苦労が腹と頭にでているんだって……。
それにしても……この一族……ビジュ良すぎだろ。揃いも揃って整いすぎじゃね?
どんなDNAしてんだ。
とりあえず座って適当に話を合わそう。
ガサツな自分を封印せねば。
猫被っとくしかねーーな。
品良く、品良くしよう。
って……朝っぱらから豪華すぎじゃーーありませんか!?
なんだこのフルーツ盛り合わせに、パンの種類の多さ!!
このハムも高級そうなハムだ……絶対に須藤家では買わないジャンルのハムだな、こりゃあ。
せいぜいお歳暮で送られてくる時くらいにしか食べることのないハムだ!!
それに高そうな食器ばっかだし。
このレオナルドって……相当な金持ちのお坊ちゃんなんだろうな。
まぁ分かっちゃっいたけど。
あの部屋も、この格好も、この人達も、この屋敷のどこもかしこもが、おとぎ話ん中の王子様とお姫様みたいな王族感があふれ出てるし。
『今日は午後からマリアンヌがあなたに会いに来るのよね?』
ん……マリアンヌ……?
誰それ?
『あ、はい……』
適当に返事しとこーー。
『レオナルド、マリアンヌとは上手くやっているのか?』
何を上手くやってんだ……?
『あ、はい……』
さっぱ訳分からん。
『それは良かった。婚約者とは仲良くやってもらわんとな』
えーーーーーーーッ!!!!
婚約者ーーーーーァ!!!!
ーーいやいや、私……女なんですけど……