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64 昼間に模擬夜会

 さて、パトリシアがカンブリーブ邸で過ごすようになって半月。

 オレリアンとパトリシアの仲良し作戦は上手くいっていない。


 そもそも。二人が一緒になる時間が少なすぎる。成人が近い二人にとって、必要な課題が異なるからだ。

 それでも勉強会では隣の席になるよう声をかけたり、食後の団欒ではパトリシアを褒めてみたりしてみたのだが。

 いかんせん、味方がいない。

 パトリシアは思い出作りぐらいの軽い気持ちでいる。私一人では二人を恋人同士にするなんて無理だ。

 貴族の場合、恋愛感情がなくても家の思惑が合えばお相手として認められるんだろうけど、政治とか派閥の理解が浅い私にはその点から攻めるのはハードルが高い。

 誰かに相談するべきか。

 まぁ、誰かって言っても私にはサビーナやコレット姫しかいないね。

 知り合いは多いが友人が少ない。




 なんだかんだで悩みながらも、今日はパトリシア主催のお茶会が我が家のホールで開かれる日。

 

 これは、夜会を開催する側に立って一通り経験しておこうという趣旨で計画された。

 最近、パトリシアの社交ダンスがニノン先生も納得するような滑らかな動きになってきたので、私が『お兄様やアルチュール、家族皆でダンスパーティーをしてみませんか?』と提案したことが今回の発端となっている。

 ついでに、城の外に出たがっていたコレット姫にも声をかけた。

 王族に主催者として招待状を出すなんて。パトリシアは蒼白になりながら震える手で手紙をしたためていたっけ。

 もちろん、コレット姫を誘うならコランタン王子もデュペ姉弟も呼ぶよね。

 はあぁ。コランタン王子とダンスかぁ。

 へへ。へへへっ。

 私、練習頑張ったよ。

 おかしいなオレリアンとパトリシアのペアを作りたかっただけなのに、なんか大事になっている。規模が想像と違いすぎている。

 まぁ、いっか。


 会の主催者とは出迎えの挨拶から始まり、ホストとして招待客全員を見ながらおもてなしをしなければならない。

 そのため、パトリシアは玄関広間で招待客を待つ。隣にはオレリアンがエスコート役として立っている。

 母親がいい機会だからと成人の近いオレリアンにもホストをサポートする立場を課したのだ。

 試練モードの二人は全く恋愛ムードではないが、一緒にいるのはいい傾向だろう。

 本日、私のエスコートはアルチュール。

「いつも素敵な姉上をより一層輝かせるために尽くします」

 とか言ってくれて、ニヨニヨしてしまった。子供から少年へと成長しているアルチュールは、可愛さの種類が変わってきている。

 頼れる所と、まだまだ見守ってあげたい部分とが丁度いいバランスでドキドキさせられるね。

 そんなアルチュールと私はホールの窓から外を見ている。

「馬車が来たわアルチュール」

「あの紋章はクレマン家ですね。さぁ姉上、今日は楽しみましょう」


 音楽を楽しみながらダンス、立食で軽く飲み物を頂き、隣室での軽食もあるが、成人前なので開催は昼。

 もちろん飲み物にアルコールは出ない、ジュースや水だ。うん、水なんだよね。

 衣装も夜会と違い肌の露出は少ない。ひらひらやふわふわの多いスカートは通常のお茶会より豪華で素敵だが、隣に立つアルチュールとの距離を邪魔する。

 パニエ一つでスカートがここまで広がるとは。

 なるほど、練習ではこーゆー微妙な部分がわからないから実戦って大事なんだね。

「姉上、ご覧ください。王太子殿下と姫殿下がホールにお見えになりました。行きましょう」

 え、コランタン王子に会いに? 

 目上の者への挨拶は必須だし、他の参加者は格下すぎて王族への声掛けをためらう。きっと私たちが動き出すのを待っている。

 が。想いが通じて後、会うのは初めてで、照れる。

「昼間の夜会とは洒落たものだな、カンブリーブ卿、カンブリーブ令嬢」

(わたくし)たち、すっごく楽しみにしていましたの。お招き感謝するわ」

 いつものメンバー以外にブロンデル家が故意にしている者も参加しているからか、呼称がよそよそしく聞こえてしまう。

 まるで私たちの恋心がなかったように。

 それに引き換え卿と呼ばれたアルチュールはご機嫌だ。


 武を重んじ、国外への港を持つブロンデルの人脈は広い。

「さすがテール=ボッツの心臓と異名を持つだけある。今日の客は重要な情報に事欠かない」

 何曲か踊ったあとにホールの端へと私が場所を移した途端、話しかけてきたのはヴィクトー。悪い笑顔で楽しそうだね。

 なんだ、ブロンデル領の『テール=ボッツの心臓』って広く知られた呼び名だったのか。そんな異名もあったねと今、思い出したことはナイショにしておこう。

「セレスティーヌ様、せっかくの場です。ご兄弟とばかりのダンスでは飽きてしまうのでは?」

 次の曲は私と。

 当たり前の顔でヴィクトーは私をアルチュールから引き離した。

「私とではご不満かもしれませんが」

 さらっと私の手を取りホールの真ん中へ連れ出しておいてそんなことを言う。

 ヴィクトーがチラリと送った視線の先にはコランタン王子。想い人ではなくその側近で申し訳ないね、って意味か。

「いえ、光栄です。公の場ではお一方に付き従っているデュペ卿からの声かけ、名誉なことですわ」

 曲が始まった。ゆっくりと一歩目を出すヴィクトーのリードはわかりやすく合わせやすい。

 なぜ誘われたのかはわかっている。私に声をかける事でコランタン王子との恋仲を隠すためでしょ?

 それより、事務方と思い込んでたヴィクトーが人並みに踊れるとは。周りの客人も同じことを思ったのか私たちは注目されている。

「これだけ印象付ければ、後ほど殿下と踊っても誰も何も言い出せないでしょう」

「お気遣い、ありがとうございます」

「いえ、これも私の仕事ですから」

 その後、ヴィクトーは私を見せつけるかのようにホールの端から端まで軽いステップで駆け抜けた。

「セレスティーヌ様、とても誘導しやすい基本に則った足運びですね」

 そんなことを微笑みながら言われたが。ん? これは褒められてるのか?

 あるいは面白みに欠ける平凡なダンスとの意味か。

「確かドローネー家の奥方様が師だとか、流石です」

 褒められてた。

 ちょっと気を良くしたところでそろそろ曲も終わり。

 ホールの真ん中から始まったダンスは軽やかに動いて誘われた場所の丁度対角線上に来た。

 その壁際で私たちを出迎えるように待っていたのはコレット姫。側にはサビーナもいる。

 私と喋りながらもここへ誘導できるヴィクトーの有能さよ。

 そうか、普段はコレット姫のリードにかき乱され、サビーナの即興に付き合わされるダンスなのだろう。私が基本に忠実だと言われるわけだ。


「とても素敵なダンスでしたわ。セレスティーヌ様」

「ありがとうございます、姫殿下。ヴィクトーのリードが良かったからですわ」

 この機会にヴィクトーを褒めて親密さを上げておこうか。一緒に王太子ルートを目指す仲間として。

「ふふん。その点は昔から私が鍛えているからね」

 あれ。サビーナを褒めたつもりじゃないのに誇らしい顔された。

 それでも、いつものメンバーにいつもの会話。良いテンポで和むが、今日ここにシュバリエはいない。

 パトリシアの交友関係に神殿関係者は必要ないのだろう。

「先ほど私も踊ったのよ。あー疲れた。喉が渇いたことだし、そうだわ。セレスティーヌ様、食事ができる場所へ案内してちょうだい」

 おや、途中からコレット姫のセリフが棒読みなのは、なんでだ?

「それはいい提案ですね、姫殿下。私も一息入れたいわ。ヴィクトーもついてきなさい」

 あ、この四人だけで抜け出すってことね。

 それはわかったけど、コランタン王子はどこ?

 コレット姫に手を引かれながらも会場を一回り見渡すと、オレリアンとパトリシアの二人と歓談しているコランタン王子が見えた。

 あっちはあっちで引き止めてくれているようだ。


 コレット姫の声を聞いた使用人が数人、すまし顔のまま慌ただしく隣室へ消えた。

 確かに想定よりホールを抜けるのが早い。そうなると他の来賓から悪目立ちしていないか不安になって、手を引かれながらも私は辺りを伺ってみる。

「よかった、これで暫く安心だ」

「姫殿下の相手とは公爵家も苦労するな」

「少しは姫殿下と面識を。そう思って来たが、諦めよう」

 聞こえてますよ、殿方。それ、悪口ですか?

「いやぁ、あのステップはめちゃくちゃだろう」

「まったくだ」

 おいおい、これは。コレット姫はいったい何をやらかしたのか。楽しそうな声がしてるのは聞こえていたが、自分のダンスや歓談中に視線まで向けてはいられず、詳しいことはわからない。

 抜け出すための伏線としてお茶目なことでもしたのだと想像はつく。

 嫌われ役を買ってでも私との時間を作ってくれたのか。なんて良い子なんだ。


 


 目の前には軽食のサンドイッチ。スープ。小声なら聞こえない距離にマリルー。扉の外にはシモン。

 それ以外の使用人は近づかないよう指示してひと息つく。

「さて、セレスティーヌ様。もぐもぐ。私に何か相談事かしら。もぐもぐ」

 食べるか喋るかにしてください、姫殿下。さすがに行儀が悪いです。

 『あら、このハムサンドは絶品ね』じゃ、ありません。

 さっきの感謝と感激を返してください。

 サビーナもヴィクトーも食べてないで側近として注意しましょうよ。

 まぁ、それでも我が家でくつろいでくれる親密さを喜んでおこう。

 さてと。

「相談、と理解していただき、感謝します」

 私は先日、パトリシアが今回の招待状を出すのに便乗し、コレット姫へ便りを出した。

「あんなの、わかりやすいわ。いつも私からの無茶な誘いに付き合ってくれるセレスティーヌ様が、()()話がしたいなんて」

 なんだ、雪合戦もお着替えごっこも無理難題だとわかってはいるのか。

「私ね、強引な私の話をちゃんと聞いてくれるセレスティーヌ様が大好き。だから今日は、全力で悩みを解決する所存よ」

「ありがとうございます、姫殿下」

 本当にありがたいが、目をギラギラさせて、ワクワクしてるのはどうしたものか。

 私同様、娯楽の少ない生活環境と思われるのでこの反応も仕方がないかな。


 私の今の悩みは『オレリアンのデビュタントでエスコート役になりたくない』だ。

 なぜって国王陛下にお会いすることがエンディングシナリオの重要ポイントになるからだ。

 もう一つのデビュタントとも言える、十歳のお披露目会は当人の誕生日ごとに行われるので時期はマチマチだが、デビュタントは一年の末にその年成人を迎える者たちが一緒に祝われる。

 多忙な国王陛下が毎月のように個人の成人に顔を出せるはずもなく、一度の祝辞で済む利便性から年末行事となっているらしい。

 陛下が私を見て、何事もなくスルーされればノーマルエンド決定。

 バッドエンドとハッピーエンドへ向かうには、何かしらのリアクションがある。


 さあ、オレリアンとパトリシアを仲良くさせたい理由として、現世のゲーム、ルート選択を説明せずにわかってもらうためには、どうしたらいい?

 私は紅茶で喉を潤してから話を始めた。

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