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43 図書館で何する?

「本日の良き日にご招待恐れ入ります。セレスティーヌ・ケ=カンブリーブと申します」

 私の椅子を引く使用人のなんとも品のあることか。さすが王家に仕えるだけあるなぁ。


 緊張すると関係ないことを考えてしまうものだが、余裕の笑みは崩さずお辞儀の角度も上手く出来たと思う。

「まぁ、近くで見れば見るほどアシュイクア様のような髪色ね」

 あ、声可愛い。

 全体への挨拶では見た目に注意がいってしまい、ここまでちゃんと聞いていなかった。

 ツンデレ声?

「お褒めの言葉、勿体ないことです」

「貴方のことは色々聞いているわ。コレット・ファロ=トランティニャンよ。よろしくしてちょうだい」

 転生モノなら悪役令嬢、学園モノならトラブルを持ち込んでくる幼馴染って声だ。

 子供だから可愛め増しの。

 色々って、コランタン王子が妹に話してるってこと? 視線だけ王子の方を伺うと目が合う。

 一度逸らされたがもう一度私を見た。

 え。

 どゆこと? 心臓バクバクしちゃう。

 あ、コランタン王子少し背が伸びてない?

「久しいな、カンブリーブ嬢。これから妹とは顔を合わす機会も多くなるだろう、私からもよろしく頼む」

 王子の口調は設定通りで感情は薄く淡々としている。視線で心を揺さぶるようなことをしたとは思えない安定のいい声だ。

「王太子殿下におかれましては、お会いしていない日々もご健勝のご様子。安心いたしました」

 ホント、電話とかないし。もっと会いたいよ。

「すでに私のような者の話が姫殿下に届いているとのこと。恥ずかしい限りですが今後ともカンブリーブを気にかけていただければ幸いです」

 私はことさら畏まった声音で挨拶を終えた。少人数のお茶会で親しくなっても、これだけの視線があっては口調を崩せるはずがない。

 

 次はサビーナの番。

 彼女もまた、最上級の礼と振る舞いで挨拶を終える。

 こうした公の場でしかサビーナを見ていなければ、宰相家の厳格さを確信したことだろう。

 内容の軽い受け答えは、普段から会っている事を再確認させるものか。

 とりたてて両親に報告するような話は出ない。

 サビーナが座ると同時に立ったパトリシアは、キリリとした挨拶を交わす。

 清々しい態度もカッコいい。

 私も何年かしたら、大人っぽい振る舞いになるのかな。

 ま、ニノン先生が私に求めるのがゆったりした優雅な動きなので、キャラ的にそれで良いんだろう。


 私の座るテーブル全員と一通り挨拶が終わった。コレット姫とコランタン王子も一緒にお茶を楽しむ。

 ピリっとした緊張の空気で楽しめんのかいって思うが、何か話題を振らなければ。

 けれど私より先に言葉を発したのはコレット姫だった。

「カンブリーブ嬢は(わたくし)が声をかけたら、すぐに来てくれるのよね?」

 え、っと? それは今のことか、これからずっとなのか。

「はい。殿下からの声掛け、身に余る光栄でございます」

「もぉ、そんな答えじゃつまらないわ、思っていたのと違うじゃない。来るの? 来ないの?」

 うわぁ。見た目通りのワガママっぷりだ。最初の挨拶は可愛い王女様だったのにこれじゃあさっきまでネコ被ってましたってバレバレじゃない。

 それとも、このテーブルにはサビーナもいて、これぐらいやらかしても大丈夫だと思ってるのかな。

 くすっ。

 笑っちゃうね。

 さすがゲームの中でしか出会えなそうなロリ少女のかまってちゃん。私は多少振り回されたって構わないし、逆にあしらってみたいし、なんだか楽しそう!

「ちょっと、なによその笑顔」

「お気を悪くしたのでしたら申し訳ございません。私も披露目の会までは外出できず一人屋敷で過ごす日々。友人もおりませんでした。なんなりと、私にお申し付けください」

 同席している者がどうとでも受け取れるように曖昧に話を進めてみた。

 ()()とつけることで暗に姫殿下も? と問うている。

 コレット姫はぼっちなの? 友達いないんですか? 私と仲良くなりたいのかな? 

 私はそう言ったのだ。さぁ、どう答える?

「もういいわ」

 あらら、コレット姫は私との会話を諦めパトリシアに声をかけてしまった。

 笑ったと言っても、公爵令嬢らしく微笑みに留めておいたのにな。強気で出るなら返り討ちにあっても構わないぐらいの覚悟でなくちゃ。

 まぁ、でも。嫌われてる感じはないし、いっか。

 隣のサビーナがテーブルの下の見えないところで、親指を立てたグッジョブポーズを私の方へ見せたから、サビーナにはお気に召したみたいで良かったよ。


 姫が次のテーブルへ向かう。

 それと同時にサビーナが席を立った。

「ごめん、裏の状態を確認して会を滞りなく進めるのが、課題なの」

 と。

 王家を補佐する宰相家としての資質をみられているってことか。大変だ。

 私は、どうしよう。コランタン王子の好感度を上げるためには窓際へ行くべきだけど、王子はコレット姫と一緒に各テーブルを回っている。

 少し、パトリシアと話をしていても大丈夫そうだ。

 話題は何にしようかと思っているとオレリアンとシュバリエがこちらのテーブルへやってきた。

 ヴィクトーはサビーナ同様会を回す側に付くようだ。


 オレリアンはまず私に微笑むとパトリシアに丁寧な礼をする。

「二人とも会は楽しんでいる?」

 あからさまに侯爵令嬢を無視した。良いのかな?

「コレット姫殿下の弾んだ声が聞こえたから、早速親しくなったのだと思ったよ。さすが僕のセレスだね」

 ものは言いよう、弾んだ声か。

「えぇ、とても可愛らしい姫殿下と目通りできたこと、嬉しく思います」

 隣からはパトリシアのため息が聞こえる。先ほどの会話で緊張していたのを思い出してしまったのだろうか。

「パトリシアがセレスの隣で僕も安心できたよ。少し、話をしても?」

 どうやらオレリアンはブロンデル領の情報を仕入れるつもりだ。私も聞いていたほうが良いのか席を外そうか。

 迷うと同時に控えめな手が私に差し出された。

「本日も眩しい美しさですね、セレスティーヌ嬢。私にお時間いただけますか?」

 シュバリエか。

 おっとりしつつ芯のある声。

 オレリアンを伺えば行っていいよと意味する頷きが返ってくる。

 もうすぐアルチュールのお披露目会がある。親戚筋のブロンデルも協力したいと言われていたのでその辺りの話をパトリシアと二人だけでしたいのなら、シュバリエの誘いに乗るのが丁度いい。

 手を取りエスコートされながら隣のテーブルへ。元々オレリアンやヴィクトー、シュバリエのいた場所があいていたからだ。

 

 シュバリエの話は当たり障りない内容だった。季節や天気の話。今回の会のこと。そして、私への賛辞。

 なんか、あれだね。

 シュバリエって私への恋心っていうより、女神アシュイクア様が好きなのかな?

 言ってることが恥ずかしくてリアルに聞こえないんだよな。

 あ。もしかしてシュバリエルートの障害はそこかも。崇拝を恋心に変えさせないとハッピーエンドへ向かえない、とか。

 なんだ、なら大丈夫。

 これだけ褒められちゃうとシュバリエルートに入ってるんじゃないかとヒヤヒヤしたりもしたけど、このまま上辺だけの妄想で私を褒めていればいいよ。

 心地よい声に酔いしれていると、シュバリエの言葉か途切れた。

「失礼、セレスティーヌ様。貴方との心躍る時間は瞬く間に過ぎてしまうものですね」

 シュバリエが気にした視線の先ではコレット姫が四つ目のテーブルで挨拶を終えたようだ。

 どうやらそのテーブルに今日、シュバリエが挨拶しておくべき人物かいるのだろう。

「えぇ、とても有意義な時間でしたわ」

 名残惜しそうなシュバリエを見送って、私は窓際を眺めた。


 確か、窓際に一人佇んで外を眺めているとコランタン王子に話しかけられる。

『窓に映る自分に話しかけてもつまらないだろう』

 冷たく落ち着いた声。

 素直に一緒にいたいって言ってくれればいいのにさ。ま、コランタン王子らしい言葉選びで嫌いじゃない。

 コレット姫のお披露目会では肖像画を眺めている時に声をかけてくるヴィクトーの『この絵は大変素晴らしい、貴方とは趣味が合いそうですね』が、声音とか間合いとか総合的に一番好きなんだけどね。


 私は椅子から立ち上がり、窓際へ向かおうとして足を止めた。

 三人、いや四人のモブが窓際で談笑している。

 今、私があそこへ行けば格下の者と交流してしまう。それはアルチュールルートなのでは?

 どうしよう。

 マジで、どうする?


 私は最初からそうするつもりでしたと言わんばかりに方向を変えた。

 もちろん、優雅に。

 少し脇に反れるが会場として使っている中央より入り口に近い場所には、元々設置されている閲覧机が残っている。

 せっかくの王立図書館だ、読書したい!

 ゲームでは選択しなければコランタン王子と喋れなかった。でも今日は挨拶回りで目が合ったしね。

 だからちょっと、ほんの少し本を読むぐらいの時間があってもいいんじゃない?

 ほら、棚の本に手をかけても使用人が制止しないし、持ち出しても黙ってるよ。

 いや、使用人からしてみたら予想外の行動で私に声をかけるタイミングがなかったのかも。

 だって、誰も椅子を引いてくれなかったから自分で座ってしまったよ?


 この世界に来て初めて読んだ文章は全て大文字だった。それは子供向けの教科書で。

 大人向けの本をこうして開けば大文字も小文字もページに広がっている。

 名詞は全て大文字。動詞は最初の文字だけ大文字で後は小文字。助詞は小文字で筆記体。

 それ以外は全て小文字だった。

 勉強が進んで、文法についての単元に入った時、ヤニック先生に副詞や連体詞なんて言われて、何だっけ? なんて思ったな。

 現世で私も習ってるはずなんだけど、日本語をもうすでに喋ってるから、今更文法とか言われても無理だよ。

 それに、強調したい単語は大文字の筆記体になってるしさ。現世のカタカナみたいな使い方なのかも。

 けど、このルールを知ってからは読むスピードが速くなった。

 例えば『HAHAHA HAYAKU HASIRU』も『HAHAha hayaku Hasiru』と書いた方が『母は速く走る』に変換しやすい。

 私の母親が走るとかは、ない。スカート乱したらダメでしょ。


 あーあぁ、この世界に漫画があれば良かったのに。そしたらキャラに合った声優を妄想して脳内アフレコしながら読めたんだけどな。

 小説でもラノベだったら萌えれる!

 いつも、そんな事をしているから私は本を読むのが遅い。

「またこれは、威厳のありそうな表紙ね」 

 私は選んだ本をペラペラとめくる。

「ふぅ、やっぱり載ってないか」

 じっくり選んでから手に取ったわけではないので、目当ての本ではなかったが。それでも読んだことのない本はわくわくする。ふふ。

 初めての本は挿絵やあとがきを見てから読むのが現世からの私のスタイルだ。

 ネタバレ注意なのだが、ちょっとぐらい先がわかってるぐらいか安心して読み進められるって感じ?

 ま、今手にしてるのは物語じゃないんでいくら先を見ても大丈夫。


 あ。

 背後に人の気配が。

 その人が私の隣で椅子を引こうとしたのだろう、カタっと音がした。

 誰? 本に夢中ですぐ側に来るまで気が付かないなんて令嬢として恥ずかしい。

「セレスティーヌ嬢、こんな華やかな会で読書か」

 うおっ。コランタン王子だ。

 え。ちょっ。

 なんで? 

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