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42 妹姫のお披露目

 コレット・ファロ=トランティニャンはショートボブの似合う、活発な姫だった。

 アホ毛がぴょこんと跳ねている。


 そう、ゲームのキャラデザインでは。

 けどさ、この世界観で王女様がショートボブはマズイでしょ。だからゲームと違い絶対に髪は肩より長いと思うんだよね。

 六月上旬。姫のお披露目会に招待された。

 私、コレット姫の顔わかるかな?

 って思って気がついた。

 はじめましてなんだから、わからなくても問題なし! うん。


 王城へ入り、いつもの通りオレリアンのエスコートで馬車から降りる。

 城の建物は、学校のようだと思う。

 三階建ての横に長い造り。天井が高いので、現世の三階より高さはあるが、低層には違いない。

 ヨーロッパの吸血鬼伝説があるお城のように高い塔がいくつもあったりしないし。

 建設の知識が疎い私のイメージで言うと、どちらかといえば宮殿って感じの建物だと思う。

 国政を行う立派な棟と、平行して建つ私邸。それを繋ぐ渡り廊下のような建物だって、廊下とは思えないぐらい長くてちゃんとしたものだ。

 その、左右に別棟。

 ほぼ、繋がったようにあるので、上から見たら。カタカナの『エ』に点々。

 あっ。

 これって『王』なのでは?

 そうだよ、ドローンでもあって空撮したら王って形の建物だ!

 いやいや、そんな冗談みたいな。だって焼け焦げた離宮は? 何年か前は王の形じゃなかったわけじゃない。

 確か、政務用の棟と別棟の間にあったから……

 やば。『玉』だ。

 火事で離宮が消滅して『王』になるとか。絶対、制作スタッフが遊んでるか適当すぎる。

 もしかして、私がプレイした時、離れた場所にあった離宮を『玉』の漢字にするべくリメイク版では近くに置いた。ってことはないよね?

 誰か、漢字のわかる人がいたらこのバカらしい発見を共有できたのに!


「セレス、緊張してるのかい? 大丈夫?」

「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですわ」

 正装したオレリアンはいつになくカッコイイ。そんなキラキラ子息の隣に立つ私もおめかしした淡い紫のドレスだ。

 母親と使用人で選んだもので、攻略対象のどの担当色でもない辺りが、私的には微妙だ。

 コランタン王子のルートに乗っていないどころか、好感度が平均的だと言われているような。

 シュバリエの瞳と合わせてるからシュバリエルートだよ。なんてこの世界は言わないよね?

 幾重にも重ねたボリュームのあるスカートの端を摘んで、そんな事を考えてしまう。

「いつも可愛いセレスだけれど、今日のドレスは格別だよ。ほら、見えてきた。会場の王立図書館だ」

「わぁぁ」

 耳元に近いところで甘いような声で囁かれたのにもゾワゾワしたが、それよりもこの別棟のほとんどを占めるほどの図書館とは! 広い、大きい、贅沢だ!

 早く、すぐさま入りたい!

 家の閲覧可能な本はほとんど読んでしまったので、かなりわくわくする。


 私のお披露目会がゲームと違う温室で開催したからだろうか。コレットの会も『豪華な背景の室内』ではなく、三階までの吹き抜けが中央にある、白い壁の明るい図書館だった。

 いや、まてまて。お茶すると本を読む時間がないのでは。

 ナゼここ?


 えっと、ゲームだと誰と話をするかを、まず聞かれる。

 もちろんその時攻略したい相手の名前を選択。いつものことだけどアルチュールの場合はその他の人。今回はコレット姫にしておく。

 次にどこで過ごすかを選択する。庭のよく見える窓際・ケーキとお茶が用意されたテーブル・他の参加者と入り口付近で談笑・壁際の立派な肖像画。

 やばい。

 本棚も読書も選択肢に無かった。

 壁一面の本棚は読み応えあってテンション上がるけど、選択肢にある肖像画が見当たらない。

 城の使用人に案内されると、普段は閲覧机が並んでいるだろう場所に茶会用のテーブルと椅子が並んでいた。

 やはりテーブルの数は少ない。

六人掛けの長方形のテーブルに椅子は 四、五脚。それが五つほど。

 先に目を通した名簿で参加人数は二十にいかない程度だとわかっていたので、こんなものだろうと想像していた通りだ。

 王太子のお披露目会より、妹姫の方が気が楽なのか、オレリアンが言うにはこれでも二年前より多いとか。


「久しいな。会えて大変嬉しいよ、セレスティーヌ」

「えぇ、お久しぶりです。パトリシア」

「隣の席なのも有り難い。手紙では詳しく書けぬ話でもしたいものだ」

「まぁ、どのようなお話でしょう」

 くすくす。

 久しぶりっていうか、私のお披露目会以来なのでご無沙汰ぶりというか。

 まさかまた会うと思っていなかったので嬉しいような気もするし、バッドエンド国外追放ルート入ってたらやだなぁ。って気もする。 

 パトリシアは素敵なカッコイイお姉さまだから、手紙のやりとりも嫌ではないんだけど、言葉の裏の意味とか本心を隠した喋り方になっちゃうから、その点が疲れるんだよね。

「あら、二人は敬称なしで呼び合う仲なの? 妬けちゃうわ」

 サビーナだ。

「私の席はこちらなの。セレスティーヌ様、楽しい会にしましょうね」

 って、この席順決めたのサビーナでしょ。人の目が多いから以前みたいに抱きついたりしてこない。それでも目が隙あらば撫で回したいって狙ってるよ。勘弁して。

 右にサビーナ、左にパトリシア。

 向かいには花見の会で話しかけてきたリュシー侯爵令嬢だ。話したことのある顔見知りばかりの席で良かったけど、男子は別のテーブルか。


 私の時は両親が張り切って段取りをしていたが、国王と王妃様が子供たちの会をやりくりするイメージがない。

 それは、コランタン王子の音楽会でも証明されている。

 私が王に会うのはデビュタントの時が初めて。その揺るがない設定の為に、王は子供たちに会わないのだろう。

 今回、裏で手助けをしたのは宰相家。

 もちろんサビーナはそんな素振りは見せないし、成功すればコレット姫の手腕を褒めちぎるのだろう。

 私はもう一人の立役者ヴィクトーを見る。隣は攻略対象テーブルだ。

 オレリアン、シュバリエ、ヴィクトーが座る。コランタン王子はここにいない。私の会と同様に妹のエスコートで各テーブルを一緒に回ることになるのだろう。

 うーん。

 それじゃぁ、誰と話をしますか? って選択肢はみんなとの挨拶が終わって歓談に入った時かな。

 花見でコランタン王子見てないから、芸術の会以来なんだよ。

 くー。早く会いたい。見たい。声聞きたい。

 あっちのテーブル行きたい。




「本日は(わたくし)の会に足を運んでいただき、有り難く思います」

 コランタン王子に手を引かれてやってきた姫はよく教育されている仕草で挨拶をした。

 大きな目と長いまつ毛が印象的な愛らしい見た目だった。

 私に意地悪を言うような悪役令嬢には見えない。王女様を令嬢扱いしてもいいかはこの際置いといて。

 アホ毛は無い。

 いや、そんなところよりも先に気にするところあるだろう、私!

 髪は紫を帯びた暗い青で、王家の血筋だとわかる色。センター分けの前髪と段のついたストーレートヘアがまるで『姫カット』だ。

 幅の広いカチューシャはドレスに合わせたデザインなので、今日だけの髪飾りなのかいつもカチューシャをしているのかはわからない。

 瞳は群青。コランタン王子の紺碧からするに、王家は青い瞳で統一した設定なのか。

 ふわふわフリフリのレース多めドレスは赤と白が程よいバランスで、苺のショートケーキを思わせた。

 ロリ。

 絶対これ、ロリータだ。

 めちゃくちゃ可愛いけど、この世界にこの服があったなんて!

 ロリが有りなら、髪型と髪色から十二単や振袖も似合いそうじゃん。とか思ってしまった。

 私なんか、普段は全寮制のいいトコのお嬢様学校の制服。って感じの衣装だよ。

 今日だって控えめなワンピースなのに。

 べ、別にロリータを着たいとかそーゆーことじゃないんだからね?

 私もさ、今のこの姿と年齢なら似合わなくもないんじゃない? なんて思っただけで。


 もしや、リメイク版で一番変更されたのがコレットなのかも。

 知ってる資料との違いにびっくりしたけど、カッコいいコランタン王子と並ぶと眼福なので良しとしよう。


「あぁ、あちらの衣装で登場とは」

 私の隣でボソっと呟くサビーナの声。なるほど、他にも普通の衣装が用意されていたというわけか。

 側近も大変だね。

 でも、あの髪型ならゴスロリも似合いそうだよね。黒い衣装はお披露目に向かないのかもしれないけどさ。

 コレット姫は普段はどんな恰好なんだろう。

 そんなどうでもいいような話を考えていると姫はコランタン王子のエスコートで各テーブルを回り始める。

 私達の番は攻略対象テーブルの次。談笑に席を立つよりもここで待っていたほうがいいだろう。

 私は帰宅後両親に報告できる程度の情報を、パトリシアや他の参加者から集める課題を出されているので、まずはそちらに集中だ。


「ねぇ、パトリシア様はすぐに領地へ帰っちゃうの? あまり会えないからお茶会でも開きたいなって思いついたんだ」

 私より先に話を始めたのはサビーナだ。同い年だけれどなかなか会えないのでこの期にどうかとの話だ。

「せっかくの誘い有り難いが、王都の屋敷はゆっくりできる状態ではなく、明日にでも領地へ戻るつもりだ」

 確か、王都のブロンデル邸は御長男が取り仕切っている。ということは、あ。

「そろそろですの?」

 私は何が、とか誰がとは言わずにパトリシアを見た。

「あぁ」

 彼女もそれしか言わない。

 次期領主の長男は昨年結婚されて、奥様がご懐妊中だ。きっと出産予定日が近いのだろう。そんな中、妹とはいえ屋敷にいては使用人も大変だ。

「あら、何があるのか知りたいわ」

 私の向かいに座るリュシー様が口を挟む。絶対言わないのをわかっていて、あえてどんな返事をするか試すようだ。

 赤子が無事に産まれてくれば領主一族の子として大々的に発表されるのだろうが、それまではあまり公にしないものらしい。

 さてと。

「パトリシアとは花見の会で会えるのではと思っていたの。音楽会も領地で開催のようだし、領主一族はやはり忙しいものね」

「私は末の子供で一番気軽な立場だ。それでもセレスティーヌの気遣いはうれしく思う」

 リュシー様を完全無視。

 上手いかわし方がわからなかったのでゴメンね。後でフォローの会話でもしておこう。

「セレスティーヌのピアノは我が家でも評判でね。一度聞いてみたいと思っている。ブロンデルではもう少しすると海祭りだ。海水浴前に女神に安全を祈るのだが、みんなに見せたいものだよ」

 へぇ、海開きかぁ。

「ね、それってパトリシアも泳いだりするの?」

「いや、私は。女性はボード遊びが主かな」

 なんだ、水着回は無いのか。ま、そうか。

 

 今回、私が注意すべきはアルチュールの事。そろそろお披露目なので探りを入れられると牽制していたが、パトリシアの話題で時間が過ぎていく。

 彼女ってモブじゃないのか。今更ながら思うけど、結構メインキャラみたい。

「私、パトリシアからの手紙に同封される絵がとても好きなの」

 そう言って、詳しい海の様子を探ることは忘れない。




 両親に報告できそうなネタを仕入れながらお茶をいただいていると、コレット姫がコランタン王子に手を引かれて私達のテーブルにやってきた。

「本日の良き日にご招待恐れ入ります。セレスティーヌ・ケ=カンブリーブと申します」

 この中で一番家格が上位の私から挨拶は始まる。


 お披露目会の本番はここからだ。

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