7 負けて逃げる
「スナオさんってどんな戦い方が得意なの?」
作戦を立てようにも、戦いを見たこともないので可能性が絞れない。少しでも情報が欲しい。
「スナオちゃんはブレードを使った近距離戦専門で、フリーズするまでは無敵モードだよ。」
無敵モード?なんか強いんだろう。接近戦か、ソーマも今はブレードしかないし、接近戦で勝つしか仕方ない。相手の赤は接近戦が得意そうな感じで、灰色はビームを避ける時に銃が壊れて、仕方なくブレードで戦おうとしている様子だった。
「じゃあスナオさんは赤と戦いに行くと見せかけて、途中で灰色にターゲットを切り替えて下さい。ソーマは最初から灰色狙いで。先に2対1で素早く灰色を倒してから、赤とも2対1で戦います。」
「わかりました、赤に行くと見せかけて灰色、その後赤ですね!」
スナオさんはそう言ってすぐに赤に向かって走り出した。赤の攻撃を軽く流し、体勢を崩させる。ん?それもう勝てるんじゃ、と思ったが、ふらついた赤を無視して灰色に突進。灰色の攻撃を最低限の動きで避けて横薙ぎに真っ二つに。そのままの勢いで体勢を立て直しかけていた赤を粉砕した。ソーマはまだ灰色がいた場所にたどり着いてもいない。
…作戦とは?
ソーマといいスナオさんといい、強すぎるんですけど、作戦必要ですか?
「ミンクさんの作戦通りにしたら勝てました!」
「スナオちゃん、作戦は味方2対敵1で戦うことだよ。スナオちゃんが1人で2機倒したら、作戦と逆だよ。」
ソーマが楽しそうに指摘した。
「え!私も天邪鬼って呼ばれますか?作戦に従わないなんて、軍人失格ですよね。」
スナオさんがしょげる。その天邪鬼が乗ってますけど、軍人失格とか言っちゃって大丈夫ですか?
「大丈夫だ、スナオ…」
司令がフォローに入る。
「勝手にミンクの指揮下に入ろうとした時点で失格だ。」
フォローじゃなかった。トドメを刺しに来てた。さっきのを恨みに思ってたの?ほんと格好悪いな、この人。
そんな気の抜けた会話をしていると、向こうから漆黒のロボットが迫ってきた。今まで倒した10機は灰色の機体で頭部に色のシッポがついていたが、今向かって来るのは機体全体が黒い。頭のシッポは金色で、いかにも豪華だ。
「敵は10機じゃないの?」
緊張した声で問いかける。
「宣戦布告は10機だ。国際法違反だな。」
司令が忌々しそうに応える。
黒い機体は凄い速さでスナオさんに向かって来た。スナオさんの反応が遅い。これはもしや、フリーズしてる?このタイミングでフリーズはやばい。今から構えても間に合わない、スナオさんと司令の命を優先しなければ。
「スナオさん、1秒後に上に跳んで!」
「スナオ、聞こえたか!?」
司令が声をかけたが、返事がない。
「仕方ない、操作権をもらうぞ。」
どうやら上の席も操縦できるようだ。司令が操作権を奪い、指示通りに上に跳んだ。
黒い敵のブレードがスナオさんのロボットの脚をぶった切る。もう戦えないが仕方ない、跳んでなければスナオさんが乗っている辺りが切られていた。
黒い敵はスナオさんが戦えなくなったのを確認すると、こちらに向かってきた。ソーマがブレードを構える。すれ違いざまにブレードを弾き飛ばされた。強い。
敵はすぐに方向を変えて再度向かって来る。こちらはブレードもなくなった、どうしよう。ふと肩のミサイルのレバーが目に止まった。あと0.5秒引きつけて撃てば当たる。倒せる。今だ!トリガーを引いた。
スパパン!
ロボットの肩ではなく脚の方から爆発音がして、照明が消えた。電力を失った桜海が膝から崩れ落ちる。黒い敵のブレードが私の頭の上を通り過ぎながら、ベキベキと機体を切り裂いて行った。
やってしまった。
もう、黒い敵を止める方法がない。
呆然とする私にソーマが叫ぶ。
「ミンクさん、一旦逃げるよ!」
ソーマは操縦席前の鉄板を蹴り飛ばして開けて、私の手を引いて飛び降り、すぐ近くのビルの陰に身を隠した。