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3 司令室を壊す

まずは家に帰り、両親に事情を説明した。

もちろん心配していたが、おばあちゃんの頑固さはお母さんが一番よく知っている。

ためらいながらも、なんとか両親だけで避難してくれた。


「さて、軍の司令部に行こう。まずスナオちゃんを再起動しなきゃ。」


朝家を出たときに勧誘してきたスーツの女性が、朝と同じ場所に無表情で立っていた。

20代前半ぐらいの小柄で真面目そうな女の人だ。


「スナオちゃん、ミンクさんと一緒に司令部に行こう。」


「え、軍に入ってくれるのですか?」


スナオちゃんと呼ばれた女性の顔に表情が戻り、ほっとしたような顔になった。固まっていた時は気づかなかったが、穏やかな顔になるとなかなかの美人だ。私の軍隊のイメージはもっとイカツイ感じだったので、意外だった。


「今回は協力してくれることになったよ。

ミンクさん、この人はスナオちゃん。

ミンクさんに断られると思ってなかったから、フリーズしてたんだと思うよ。

想定外の事が起こると心がついていけないんだ。」


ソーマが紹介すると、スナオさんは困ったような表情になって、


「そんなにはっきり言わないで下さい、傷つきます。よろしくね、ミンクさん。私は山川栖奈緖、スナオでいいです。」


と自己紹介してくれた。私も簡単に自己紹介し、司令部までスナオさんの運転する車で向かった。想定外がおこるとフリーズする人の運転で大丈夫だろうか?不安ではあったが、私は免許もなければ道も知らないし、ソーマは子供なので運転できないだろう。想定外のことが起こらないように祈るしかない。


車の中でソーマが私のおばあちゃんの話を聞かせると、


「わかりました、

絶対にミンクさんのおばあさまとお家を守りましょう!」


スナオさんはやる気満々といった感じで頷いた。ちょっと涙を浮かべて決意してる様子に、騙されやすそうな人だな、と心配になったが、協力してくれるのはありがたい。と思うことにした。




司令部は、シーガ町の中心部にあるお城の敷地内に設置されていた。戦場の近くに毎回仮設するらしい。仮設とはいえ、かなり大規模だ。戦闘に使うロボットは屋外に10台ぐらい並べられていた。建物の中に入ると複雑な機械が詰め込まれていた。機械オンチの私は少し緊張する。離れた位置で指示を出していた40才ぐらいのスーツ姿の男性が、こちらに気づいて近づいてきた。


「君がミンクだね?ソーマを捕まえた時の防犯カメラの映像を見たよ。いやぁ痛快だった。コイツは問題を起こして、逃げるのを楽しんでいるんだ、腹が立つと言ったらない。捕まえるついでに骨の一本でも折って欲しかったよ。」


「え、司令ヒドくない?そんなに僕に恨みがあるの?」


「当然だ。お前が食い逃げ、万引き、喧嘩、スリをするたびに俺はあちこちに謝り倒してるんだ。並のパイロットならとっくにクビにしている。俺は早く世界を平和にして、お前を牢屋にぶち込むのが夢なんだ。」


「そんなセコい夢のために世界平和を目指してるの、司令ぐらいだよ!」


文句を言うソーマに構わず、司令は私に向かって続ける。

「軽犯罪中毒者と、ガラスハートには会ってもらえたな。うちの部隊にはあと2人がパイロットにいる。戦闘が近いから会ってもらう時間はないが、通信で作戦会議をしよう。そこのボタンを押すと全員と繋がる、押してくれ。」


「あの、私は機械オンチなのでボタンは押さないほうがいいです。壊れてしまうので。」


私の発言を司令は鼻で笑った。


「軍の設備をなめてもらっては困る。そんなに簡単に壊れないよ。心配せずに押してくれ。」


「はぁ、わかりました。」


「ミンクさんが使うと電卓が爆発するらしいよ。」


「なんだそれは。電卓に爆発する能力は無い。」


私は勇気を出して通信ボタンを押し、その直後にポンッと軽い音がして電気が消えた。


「システムダウンしました!敵の攻撃の可能性あり、すぐに調査します!」


オペレーターの人が慌てて部屋から走り去っていった。


「いつもこうなるんです…どうしましょう、この辺たたくと直りますかね?」


「なぜ叩いて直ると思ってるんだ?!修理班に任せるしかない。弱ったな。」


司令は呆然としていた。


「システムが壊れたら遠隔操作出来ないね。僕がマニュアル操作で出るよ。」


今はロボットを遠隔操作しているが、少し前まで人が乗り込んでいたらしく、まだ中に乗って操作することも出来るらしい。


「駄目だ、危険だから許可出来ない。」


「ミンクさんのおばあちゃんを守るって約束したんだ。反対されても出るよ。上の人には怒られるだろうけど、また謝っといてよ。」


「怒られるとかの問題じゃない!お前の命を危険にさらすわけにはいかない。システムが復旧しなければ工場防衛は諦める。ミンクのおばあさんは私が責任を持って避難させる。」


「おばあちゃんの家は工場までの途中なんだ。家が壊されたら、助かっても意味がないんだよ。僕は出る。ミンクさんも手伝って。」


私は迷わず頷いた。危険なことになるのかも知れないし、司令に任せるのが正解かも知れないけど、おばあちゃんの家を守ると決めたのだ。覚悟はできている。


「駄目だ、出撃はさせん。スナオ、二人を止めるぞ、手伝え。」


司令は私達と出口の間に立って、通すまいと腕を広げた。スナオさんは迷いつつも司令の命令に従ったほうが良いと考えたのか、私達に向かい合う位置に立って私達と司令を交互に見ながらオロオロしていた。そんなスナオさんの目を真っ直ぐに見て、ソーマが勇気づけるように話しかける。


「スナオちゃん、よく考えて!主人公達の前に立ちはだかる敵、助けを待つおばあちゃん、せまるタイムリミット!こんな時、頼りになる仲間のセリフは?」


「え、えーと、ここは私に任せて行って下さい!!」


「正解!」


「俺は敵じゃない!おい、待てソーマ!」


スナオさんに押さえられている司令を横目で見ながら、ソーマに手を引かれて部屋を出た。


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