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お散歩日和

作者: 信田エフ

※今回は異種間交流のお話です(百合ではない)

※今回もハッピーエンドです

 補給機よし、工具箱よし、塗装スプレーよし、ハンカチよし……リュックに次々と持ち物を詰めて、キッチンやメンテナンスルームを確認したら、さあ準備万端。家の玄関まで軽い足取りで向かった。……だが、まだメイは準備できていないみたいだ。仕方ない、メイは人間だから私より準備がもっとかかるのだ。着替えとか、身だしなみとか。まだかまだかと待っていると、漸く着替えたメイが廊下の向こうから現れた。


「あ、メイ!早く行こうよ!私、待ちくたびれたよー」

「はいはい。というか、アヴリルの気が早すぎるんだよ……」


 メイはそう言って、いつも通り苦笑いした。だって、親友と行くお出掛けは私の一番の楽しみなんだから仕方ない。そろそろメイにもそれをわかってほしいな。まあでも、いつものことなのでサッと流して意気揚々と外へ出た。



***



 今日は雨もなく、風もそよぐ程度のいい天気。太陽も柔らかに光を落として、ぽかぽか陽気だ。絶好のお出掛け日和とは、このことを言うのだと思う。このところは雨具や風避けが必須だったから、余計に嬉しい。ぬかるんでも、でこぼこでもない地面を踏みしめる感触と、私とメイの二人分の影が映る様子に私は思わずスキップしたくなる。にんまりしてると、先の方で見つけたものに「あっ」となった。


「ねっ、メイ!また良いもの拾った!」

「……おー、いつも思うけど、よく見つけてくるね」


 いつもこうして感心してくれるメイに嬉しくなりながら、私は今回見つけたものを観察した。不思議な素材でできた、青色の小さなケースだ。開けてみると、ふかふかとしたクッションのような素材に、小さな銀色の石がついた青く小さな輪っかが納められていた。輪っかを手に取ってよく見ると、内側に未知の文字が彫られている。


「これも忘れ物や落とし物かな?この前拾った紙切れにもこんな文字があったから」

「そうだねえ。多分そうじゃない?」


隅々まで確認した後、輪っかをケースに戻してリュックに入れた。そう、私が散歩で楽しみにしているのが、こうして散歩の途中で見つけたものを収拾することなのだ。何せ、私たちが今暮らしている場所は興味深いものでいっぱいだから。いつも何かしら必ず落とし物や忘れ物を拾い、色々と知っていくのが楽しくて仕方ない。今日が快晴で本当によかったと思う。久しぶりに大収穫があるかもしれない。悪天候のときしか見つからないものも勿論あるけれど、やっぱり行動範囲が広くなるから天気が良いのが一番だ。そして、私はふと閃いた。


「あっ、そうだ!今から例のあの街に行ってみない?これだけいいお天気なら、きっと今日は行けるはずだよ!」

「えー……でもあそこ私苦手だなあ。ちょっと気を抜いたら危ないとこだらけだし、そこらじゅう物騒な気配がするし」

「大丈夫だよ、メイに何かあっても私なら助けられるから!それに、お宝探しに冒険はつきものだよ!」

「確かにアヴリルは頑丈だけど……キャプテン・ユノーシリーズの読みすぎだよ。いや、元々私が奨めたのが悪いけど」


 困った様子で、メイは頬を掻くように軽く触った。例の街というのは、前の散歩中に偶然辿り着いた街のことだ。そのときは生憎、豪雨が突然降りだして帰らざるを得なくなったけど。その後も、私の不調や暴風といった色んな理由で散策が先延ばしになってしまっていた。メイの言うことも一理あるとは思う。私も正直、あの街は危ないもので溢れていると理解しているし。けれど、これだけ快晴で私たちも絶好調なら今日こそは行けると思ったのだ。だから何としてでも今日こそは行きたかった。まだ見ぬ発見があの街に眠っていると思うと、怖くても気持ちが弾んでしまうのだ。キャプテン・ユノーも、目の前のお宝のチャンスは死んでも逃すなと言ってたし!


「ねえ、お願い!今日だけだから!今日を逃したら、またいつ行けるかわからなくなっちゃうし!そのかわり、あの街に行くのは今日で最初で最後にするから!お願い!お願い!お願い!」

「……はあ、わかったよ。アヴリルがそこまで言うなら。一応、備えはしてあるし」

「!……やった!メイ、大好き!ありがとう!」

「やれやれ、しょうがないから親友のお願いを聞いてあげようか。ただし、危なくなったらすぐ帰るからね。それと、絶対離れないこと。わかった?」

「うん!大丈夫だよ、私言われなくてもメイとはずっと一緒だから!」

「……全くこの子は」


 感謝感激でぎゅっと抱きつくと、メイは微笑みながら私をそっと撫でた。もう、本当に大好き!



***



 ザリザリと足を踏み鳴らしながら、少し白んだ石の畳の上を進んでいく。けれどたまに、地面から突き出た金属製のパイプや剥がれた石畳に足を取られては踏ん張ることを繰り返す。


「……確かに今日は大丈夫そうだね。例の淀みは空気に溜まっていないみたいだしガスもない。地面から変な水も湧き出ていない。私もなんとかこれなら持ちそうかな」

「でしょ?今日は大丈夫だって!さ、はりきってどんどん行こう!」

「でも、油断は禁物だよ。崩れかかってるところもあるし。頭の方から落ちてこられたら……」

「ま、まあ、それはそうなんだけど……そういうところはちゃんと気をつけるから!」


 正直初めての場所に、嬉しくて躍りながら進んでしまいそうになったけど、間違いなく心配性なメイに怒られるから我慢して大人しく慎重に街を歩き回った。ジャングルのように複雑に建ち並ぶ灰色のビル、動物の骨みたいに細く赤茶色の遊具がある公園、時々タールみたいな黒い液体が出る噴水のある広場……今まで散歩したのはほとんど自然の中だったから、色んなものがある街は好奇心を擽られるものでいっぱいだった。そして、期待した通り宝物もたくさん拾った。何か模様や字が彫られた小さくて平たい円形の金属、ごわごわとした繊維質のものでできた弾力性のある掌サイズの球体、そして掌サイズの2枚の固い円盤の真ん中の軸に紐がついたもの……やっぱり来てよかったとつくづく思う。メイはちょっと怖がっていたけど。さっきも、黒くて小さな虫がチョロチョロ動き回っているのを見て悲鳴を上げていたし……帰ったら改めて謝ってお礼を言おう。付き合わせちゃったのは事実だから。

 街の一番奥まで行くと、広い階段を見つけた。上の高台みたいな場所まで続いているみたいだ。勿論、好奇心のままに登る。早く登りたいのもあったけど、メイが心配なのは私もだから念のため私が先頭だ。幸い、古くはあるけどそこまで痛んでもいないし、崩れているところもなかった。そして……最上段まで登ったとき、私は思わず「わあ」と声を上げた。


「ねえ、メイ!見て!凄いよここ!」


 後から到着したメイは息を整えているのか、少し屈んで肩を上下させていた。でも、すぐに顔を上げると私と同じ反応をする。


「わあ……本当に凄いね、ここ」

「うん、すっごく綺麗」

「……ちょっと頑張った甲斐はあったかな」

「うん!そうだよ!」


 見渡す限りのなだらかな、砂の海が目の前に広がっていた。ほとんど真上にあったお日様が、少し傾いているせいか本来まっさらな砂地がクリーム色を反射させている。地平線が見えるほど広大で、雑じり気のない景色にただただ私たちは感嘆した。


「……ねえ、メイ」

「なに?」

「この街も……ううん、この世界も落とし物や忘れ物なのかな?」

「……多分……いや、絶対そうだろうね」


 美しい景色だと私は思う。まるで、何も描かれていない新品の画用紙みたいな。オヤツも飲み物も持ってきたのに、私たちはお喋りすら忘れて、ずっとぼんやりこの世界を眺めている。


「……メイ」

「なに?」

「……この宝物も、拾っていい?」

「……流石にそれはダメ」

「どうして?持ち主はいないのに?」

「……アヴリルが普段拾っているものとはわけが違うんだよ。少なくとも、私たちの立場じゃ無理だ。万が一、持ち主が現れたとき厄介なことになるし」

「持ち主が?だってもう、ずっとずっと、ずーっと来ていないんでしょ?メイ自身がそう言ったんじゃない。持ち主に引き取るつもりがないものは貰っていいって」

「……確かに、どっちにしろもうすぐこの星は保管期限が終わるけど、今はダメだよ。ルールは守らないと。どうしても持ち主になりたいなら、もう少し待って。そしたら、保管機関所に手続きに行こう」

「えー……しょうがないなあ、わかったよ」


 私は結構今すぐ欲しいんだけどなあ……そしたらもっと探検できるし、気軽にお散歩できるから。だって、もうすぐこの星の滞在期間終わっちゃうし。環境はお世辞にもいいとは言えないけど、私たちの家は船だからハッチさえ閉めちゃえばどうとでもなるもの。それに、多分もうここに来るのは私たちくらいなものだと思う。だって、忘れ物や落とし物というより廃品や捨てられたものと言ったほうが正しい感じだから。多分、持ち主はもう探してすらいないと思う。まあでも、大親友のメイを困らせるのも嫌だから、ルールのために今は我慢しよう。キャプテン・ユノーも、仲間の意見はちゃんと聞くべきだって言ってたしね。


「……じゃあメイ、もう帰ろっか?」

「満足した?やり残したことはない?」

「うん、大丈夫。日が暮れる前に戻ろう」

「……わかった。じゃあ帰ろっか」

「今日の宝物の解析楽しみだなあ。あと、メイの手作りの夕飯も!」

「……本当はアヴリル食べ物いらないんだけどね。

「まあ……私は液体金属のロボットだけどでもねメイ」

「その方が電気代だけで食費も浮くし」

「えー、意地悪言わないでよ!私は悪くない!メイのご飯が美味しいのが悪い!」

「出た、アヴリルの屁理屈!」


 そんなふざけた会話をゲラゲラ笑いながらして、帰路に着く。今日は本当に楽しかった。帰ってからも楽しみが待っている。行きと同じくスキップしそうになりながら、私は大親友と街を後にした。

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