精霊馬
お盆には毎年、私たち夫婦は精霊馬でもって、我がご先祖さんのお迎えとお見送りをしている。
ちなみに精霊馬はナスで作られたものを牛、キュウリで作られたもの馬に見立てていて、これらはご先祖さんがあの世とこの世を行き来するのに使う乗り物だとされている。そして馬には「早く来て」という思いが、牛には「ゆっくり帰って」という思いが込められているという。
で、今年の盆は初めて、五歳の孫がお迎えの精霊馬作りに加わった。
作り方はいたって簡単である。
キュウリを馬に見立て、四本の足として、半分に切った割り箸を突き刺すだけでいい。
私がキュウリを精霊馬にするのを見て、孫は大きなカボチャでもって精霊馬をこしらえた。
それはカボチャのバスだという。
盆棚にキュウリとカボチャの精霊馬を供え、それから家族そろって玄関先で迎え火を焚いた。
煙が天に昇ってゆく。
仏教ではこの煙は、天界にいる霊が地上へ降りてくる際の道しるべになるという。
今はあの世で暮らしている親父とおふくろに、この迎え火が見えているだろうか。
――お迎え、しっかり頼んだぞ。
私は精霊馬に手を合わせた。
その日の夕方。
庭が何やら騒がしくなった。
たくさんの足音に混じって人のしゃべる声がする。
何事かと庭に出てみると、大勢の者が列をなして我が家の庭にいた。
それは老若男女、あわせて二十人ほどもいる。そしてその集団の先頭に、親父とおふくろの顔が見えた。
二人がこっちこっちと手を振り、後ろにいる者たちを先導し、我が家の玄関へと案内しているようだ。そして庭の上空、天界からここへの帰り道には、カボチャの大型バスが浮いていた。
あれは孫がこしらえたものである。
――それで今年はご先祖さんが多いんだな。
私はカボチャのバスを見て納得した。
孫のおかげで、今年の盆は何ともにぎやかになりそうである。