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届いた返信

目薬の効果が切れてきたので更新です。

よろしくお願いします。

 屋敷に帰ってもアイリーンは無言で、そのまま客室に戻っていった。

 なにが原因で機嫌が悪かったんだろうか?

 たしか、スライムのテイムをしたら? と言った後からだよな。


 テイムせずに帰ることになったから、テイムできない原因があるってことか。

 それもなにか悲しい理由で。

 話してくれるまでは待つしかないな、これは。

 もうすぐ夕食だ。その頃には機嫌がよくなればいいのだが。




 夕食時には、アイリーンに笑顔が戻っていた。

 今日の夕食は魚の切り身を焼いたものだ。

 大根モドキをすりおろしたものを切り身に乗せる。

 そこに、醤油をちょろっとかけて食べる。


 大根モドキの辛みに、醤油の味がまとめてていいね。

 魚の苦みや臭みをうまく消してくれている。

 白米が進む。

 うん、夕食はこれくらい軽いのがいい。


 味噌汁もついているし、うまい。

 家族も味噌汁の時は白米を食べるようにしている。

 さすがに、パンに味噌汁は合わなかったようだ。


 まあ、ちょっと不満があるとすれば、お茶碗などの食器がないことだ。

 スープ皿や平皿では、これではないと思ってしまうのだ。

 味噌汁を音を立てずに飲むというのも違和感があって、俺にはつらい。

 こればかりは家族の賛同は得られないだろうな。


 いつか結婚した時には、箸も含めて食器を揃えてやる。

 味噌汁も音を立てて飲む!

 嫁さんに、これを理解してくれる人がいるかわからないのが問題だけど。


 俺がこっちで結婚したら、浮気になるのかなあ?

 うーん、美里は怒りそうだなあ。

 許してくれるといいけど、連絡がとれないのがな。




 アイリーンも夕食を美味しそうに食べている。

 美味しいごはんがあれば、笑顔にもなるよな。

 アイリーンはまだまだ子供だなあ。


 あっ、睨まれた。なぜ?


 俺の考えを見透かすような責める視線だ。

 スッと視線を逸らす俺。



「フンッ!」



 あー、まだ怒ってらっしゃる?

 なかなか子供の相手は難しいなあ。


 アイリーンが原因を話してくれるまでは待つしかない。

 なので、俺は私室に戻って、スライムの生態を神具で調べていた。




 その間にアイリーンが俺より先に家族の返信を見つけるとは思わなかった。

 前世のことを説明するのには、とても勇気が必要だったよ。

 この世界の人に、異物だと思われたらどうしようかと心配だった。


 気味が悪いだなんて言われたら、俺は……





 Side:アイリーン


 私は魔法が使えない。

 正確には、魔力がうまく扱えないのだ。


 魔法を使うために魔力を集めても、色が混ざり合った黒い魔力ができるのだ。

 初めて魔力を集めたとき、家庭教師におぞましいものを見るような眼で見られた。

 その後、その家庭教師は辞めさせられたけど、私に対する噂が流れた。



「おぞましい魔力を扱う王女」


「人の心を捻じ曲げる魔法を使う」


「汚らわしい」



 様々な噂が流れたけれど、父が一喝した。

 「噂だけで物事を判断するお前たちは道化だ」と言って。

 そのことにより、噂は少しずつ落ちついた。


 でも、私はあの表情がまだ忘れられない。

 私にとってそれは深い傷となり、あれ以来魔力を集めることが怖いのだ。

 またあのような視線を向けられることが、私には耐えられない。


 そして、私は魔法が使えなくなった。




 私はこのままではいけないと、変わるべく積極的に動いた。

 周囲の貴族たちの上辺だけのおべっかに、私は愛想笑いを繰り返した。

 魔法が使えない私は、魔法以外の勉強に力を入れた。

 中でも、領地経営について広く学んだ。


 私は魔法が使えない。

 だから、それ以外のことで役に立つ必要があった。

 歴史と地理、特産物は覚えた。交渉術なんかも学んでいる最中だ。

 計算は苦手だったけど、それでも頑張るしかなかった。


 私は疲れていた。

 だから、いつもは断る父の保養地行きについていった。


 そこで、私は運命の相手に出会った。





 最初はちんちくりんな子供だと思っていた。

 でも、無邪気で好奇心旺盛なうえに、すごく前向きだった。

 私には眩しいほどだった。


 時折、パパみたいな眼で私を見る。

 私を見守ろうとする表情だ。

 私より年下のくせに生意気だなと思った。


 それと、たまに男の子だなって顔をする。

 そんな不思議な子。

 初めて名前で呼ばれたときは、ちょっとドキッとした。

 名前を呼ばれただけなのに……


 恥ずかしかったから、パパに言いつけるなどと言ってあのときは誤魔化した。




 神具を日記帳代わりにして、彼はヘンテコな文字で日記を書いていた。

 彼が書いていたヘンテコな文字は読めなかった。

 けれど、あれはちゃんとした文字だと思う。


 最後まで教えてもらえなかった彼の秘密。

 彼はどこか寂しそうにしていた。

 彼はなにを思って、あんな表情をしたのだろうか?

 すぐに彼は誤魔化していたけど、私は知りたい。


 私にはいつか教えてくれると言ってくれた。

 私はこのときから、もっと彼のことを知りたいと思ったのだ。

 だから、お姉さまの学園での話から交換手帳をやりたいと言い出したのだ。

 彼はなにかを考えながら、私に神具を使う許可を出してくれた。


 まあ、彼の目的は私に貴族たちの顔を『さつえい』させることみたいだけど。


 実験もうまくいった。

 これで、彼と離れても連絡を取り合うことができる。

 私は内心とても喜んだ。





 彼は食事の時、不満そうにご飯を食べる。

 こんなに美味しいのに、なにが不満なのだろうか?


 午後になると、彼は海に連れて行ってくれた。

 私を喜ばそうとしてくれようとしていたけれど、私よりも彼の方が喜んでいた。

 スライムなんて、大して珍しくもないだろうに……


 私にはなにが楽しいのかわからない。

 彼はスライムをずっと木の棒でつついている。

 やっぱり子供か。


 でも、海の話になると、大人みたいな顔つきでどこかに大陸があると語る。

 魔法はすごいと語りだしたときには、子供の顔つきに戻っていたけど。


 そのあとはなにを思ったのか、彼はスライムをテイムすると突然言い出した、

 無害だけど、役に立たないスライムなんかをテイムしてどうするのだろうか?

 彼にはなにか考えがあるようなので、テイムの仕方を教えてみた。


 テイムが成功したあとは驚きの連続だ。

 スライムがあんなにも器用に水を放出するとは思わなかった。

 それに、まだ確定ではないけど塩も作りだしていた。

 新しい発見だらけだ。





 彼はスライムテイマーという言葉に目を輝かせていた。

 このすごい光景を見せられたら、本当になってしまいそうだった。

 まあ、彼からしたら従魔はペットみたいだけど。


 私もテイムができたらな……


 私がため息をついてそうこぼすと、彼はテイムをしたらいいと気軽に言う。

 私はその瞬間、頭に血が昇ってしまった。

 でも、彼の無邪気な顔を見て、言葉が詰まって本当のことが言えなかった。


 帰りの馬車では彼の顔を見ることができず、外の景色を見ていた。

 あの表情を思い出す。恐ろしいものを見るような目つき。

 私はなにも悪くないのに……


 悔しい。悲しい。


 私のことを気遣ってか、彼は私に話しかけてこない。

 申し訳ないと思いつつも、彼の気遣いに感謝して客室に戻った。


 その後の夕食にはいつも通りに笑えたと思う。

 ご飯が美味しい、それだけで気がまぎれる。

 彼が変なことを考えているように思えて、つい睨んでしまったのは反省だ。




 夕食後、客室に戻って彼の神具と自分の神具を取り出す。

 私の神具は卵の形をしている。

 過去に色々と試したが、孵化することもなく、よくわからない神具だ。


 脈打ってはいるのだけど、孵化させることができない。

 ため息をついて、卵を収納して彼の神具を見る。


 表紙には水晶がついていて、重厚な分厚い本。

 中身は午前中に書いた彼とのやりとりだけが記されている。

 彼の字の癖が、私は好きだな。

 直線や曲線の部分に、力強さや物悲しさを感じるのだ。


 そうやって、彼の神具を眺めていると、見た事のない文字が浮かび上がる。

 いや、見覚えはある。

 彼が書いていた日記帳の文字がこんな形だったはずだ。


 彼が日記を書いた?

 いや、それは実験したから違う。

 じゃあ、これは彼を知る誰かからの手紙?


 私は急に胸を締め付けられる思いを感じた。

 この感情は、なに?

 私はなにを考えているのだろうか?

 とにかく、彼のもとに行こう。




 私は彼の私室を訪ねた。

 まだ明るいから、この時間に訪ねても大丈夫だ。

 彼の部屋に入ると、彼は私が訪れたことを驚いている。

 神具は開かれているが、彼はスライムのことを調べていたようだ。


 私は彼に手紙が来たことを告げる。

 「アンタの日記と同じ文字だった」と言って。

 彼は驚いて、自分の神具を確認している。



『美代、浩二からだ。俺はやっぱり死んだのか。えっ、美里が……!?』



 彼は聞きなれない言葉を口にする。

 聞いた事のない言語だ。

 それに、何かに驚いて動揺している。

 なにが書かれていたのだろうか?


 彼の顔が焦燥と苦渋に満ちている。

 彼のこんな表情は見たことがない。

 「なにがあったの?」という、たったそれだけの言葉が出ない。

 聞いてどうする? 私で力になれることなのか?


 わからない。


 わからないことがたまらなく悔しい。

 海で見せたあの無邪気な顔に戻ってほしい。

 そんな苦しそうな顔をしないで。


 私は覚悟して、自分を偽ることにした。



「しっかりしなさい! なにがあったかわからないけど、シャンとなさい!」


「いだっ! なにするんだよ!?」

「悩んでいないで、アンタはアンタらしく、アンタのやりたいことをしなさい!」


「……ハハッ、子供にそんなことを言われるとはね」

「アンタも子供じゃない」


「いや、俺は……」



 口ごもる彼はバルコニーへの扉を開けて、侍女に離れているように指示する。

 その顔は真剣だ。

 その表情を見て、私も影たちを下げることにした。



「ユキナ、あなたも離れなさい。それと、カゲムネにも離れるように伝えなさい」


(よろしいのですか?)


「ええ、大丈夫よ。問題ないわ」


(……)


「もし、話を聞いていたら、盟約を破ったと報告するわ」


(っ!? ……わかりました。離れて警護いたします)


「それでいいわ」



 こちらを見る彼が不思議そうな顔をしているのがおかしく思える。

 先ほどまでの顔よりはずっといい。


 私は彼の話を聞くことにした。

また思ってた部分までいかなかった。

悔しいけど、キリがいいのでここまでです。

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