表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

魔法使い(仮免)になった!

深夜に起きて書いちゃったよ……

まあ、更新する分にはいいよね!

 口の中の苦さで目が覚める。

 なんだこれ? なにか邪魔なのが胸元に置かれている。

 胸の上にあるものをどけて、俺は起き上がる。

 ここは最初に起きた部屋か?


 それにしても、なんだこの青臭い味は……? とにかく水っ!

 俺は周囲を見回して、ベッドサイドにあった水差しを手に取るが、重くて持ち上げられない。


 お、重い。こぼしてしまう。


 俺が起きたことに気付いたシューネが駆け寄って、水を木製のコップに入れてくれる。

 水を飲んで一息入れると、落ちつく。


 窓の外を見る限りは、もう夜だ。

 雪が積もっているのも確認できる。


 まさか、寒冷地帯じゃないよな?


 寒すぎるのは嫌なんだが。

 かといって、暑すぎるのも嫌だけど。

 この世界にも四季はあるのかなあ?


 シモンの記憶を思い出す。

 記憶がやや曖昧だけど、どうやら四季はあるようだ。

 まだ記憶を思い出そうとすると、妻たちとの思い出が優先される。


 まだ頭が混乱しているな。


 それはそうか。

 いきなり身体が小さくなって、魔法を見せられ、変な儀式に連れて行かれたんだ。

 こんなの漫画や小説の中だけの出来事だと思っていたよ。


 妻や娘に言ったら、喜ぶかな?

 ……いや、心配されそうだ。


 今、俺の具合が悪いのを心配してくれるのはシューネだ。

 妻たちじゃない。

 俺の家族はどうなったのかな?

 それに、俺の生死も気になる。


 生きてさえいれば、家族のもとに帰れるのだろうか?

 でも、あの状況から生きている可能性はかなり低いと思う。

 やっぱり、俺は死んだのかなあ?


 家族や自分のことを考えていると、扉をノックする音が聞こえ、まだ若い男女が部屋に入ってくる。


 あれは……、シモンの両親か。



「シューネ、シモンの具合はどうだ?」


「旦那様。回復薬の苦さで起きたようです、先ほど水をお飲みになりました」

「そうか。シモン、どこか体調がおかしいなどはないか?」


「い、いえ、ありません」

「? シモン、大丈夫か? いつもより表情も口調も固いぞ」


「ボクは大丈夫です、父上」

「そうか、それならいい。それがお前の神具か?」


「え?」



 俺が父の視線を追って、顔をそちらに向けると、儀式で宙に浮いていた重厚な本がベッドに無造作に置かれていた。


 さっき邪魔だなと思ってどけたのはこの本だったのか。


 これが神具?

 神様から授かったっていう割には、見た目は普通の本だな。

 俺が不思議そうに神具を見ているのに気づき、父が口を開く。



「本の形とは、また珍しい神具だ。そのままでは邪魔だろう。念じれば体内に戻すことができるはずだ。やってみなさい」



 俺は言われた通りに本に「戻れ」と念じてみる。

 すると、本が粒子となり身体に吸い込まれていく。

 胸元がぽかぽかとする。



「できました、父上」


「うむ、取り出すときも同じだ。だが、今日はもう休みなさい」

「そうよ、シモン? あなたが倒れたと聞いて心配だったわ。お腹も空いてるでしょう? 消化にいいものを作らせているから、待っていなさい」


「ありがとうございます、父上、母上」



 両親が退室してから運ばれてきた料理はおかゆだった。

 けれど、牛乳のようなもので甘く煮込まれていた。


 うーん、お米があるのか。どうせなら塩味で煮込んでほしかったよ。


 お米があることには喜べたが、調理方法がダメだ。

 妻の料理が恋しくなったよ。


 食べ慣れない味をなんとか食べきって、身体が温かいうちにその日は寝た。

 これが夢なのかどうかは、起きたらわかるだろう。





 窓から差し込む光で目が覚める。

 カーテンを開けていたシューネと目が合う。



「おはようございます、坊ちゃま」


「おはよう、シューネ」

「目は覚めましたか? では、朝の身支度をしましょうか」


「うん、よろしく」



 まだ少し眠たいので、何も考えずに返事をする。

 身支度の最中に目が覚める。


 ああ、夢じゃなかった。これは現実なんだ。

 俺はあのまま死んだんだろうな、たぶん。

 生きてさえいれば戻れるのかもしれないけど、戻るって具体的にどうすればいいんだ?


 ……ハア。


 ここは異世界。どうやら俺は転生して、シモンとなったらしい。

 地球で生きている可能性もあるから、戻れるなら戻りたい。

 けれど、それは望み薄だろう。

 こればかりは一度、考えるのはやめておこう。


 そういえば、元々あったシモンの人格はどうなったのだろうか?

 それとも俺がシモンとして生まれて、今までシモンがぼんやりとしていたのは、俺が意識の表層に出てこなかったからなのか?


 ……わからない。


 考えてもわからないことなので、これも脇に置いておくか。

 俺はたぶん死んだ。

 異世界に転生したことを今は受け入れよう。


 現実を受け入れたことで、目の前のことに少しだけワクワクしてきた。


 だって、魔法だよ、魔法!

 俺の憧れだった魔法が使えるんだよ!

 昨日だって、本が粒子になって体内に収納するのを見たんだ。


 取り出せるのかな、あの本?


 俺は念じて、本を取り出してみる。

 改めて見ると、結構大きいな。

 厚さは辞書くらいはあるんじゃないか?


 中身は真っ白と。

 なにも書かれていないこの本にどんな意味があるんだろうか?

 しばらくは放置するか、よくわからないし。


 俺が神具を取り出していじっていると、シューネが俺の髪を整え終わったようだ。



「坊ちゃま、神具はしまって、お着換えしましょう」


「うん、わかった。今日も着替えさせられるの?」

「はい、そうですけど?」



 なにを当たり前のことを? みたいな表情をしているけれど、着替えさせるときは妙に鼻息が荒いんだよな、シューネは。

 正直、身の危険を覚えるよ。


 まだこの世界の服には慣れないから、仕方なく手伝ってもらうんだけどさ。


 着替え終わったら朝食だ。

 その前に、シューネに聞きたいことがある。



「シューネ。魔法を使ってみたいんだけど、どうしたらいいのかな?」


「そうですね。まずは奥様にお聞きください。許可が出たら、お勉強ですね」

「そっか、わかったよ。ありがとう」


「いえ、これくらいは当然です」



 さて、朝食に向かうか。

 だが、扉を開けるのには、まだ背伸びしないと届かない。

 不格好になるからと、シューネが開けてくれて食堂へ先導して歩いてくれる。


 俺が背伸びをするのを見て、クスッと笑ったのは聞き逃さなかったけどな!


 俺は少し不機嫌になりながらも、食堂についたので朝食の席につく。

 やや遅れて、兄さんたちが食堂にやってくる。



「シモン、もう大丈夫なのか? 倒れたと聞いたぞ」



 俺を見て心配してくれるのは、長男のユースだ。

 赤い長い髪を後ろで縛っているイケメンだ。

 切れ長の瞳は薄い青、まさにアイスブルーといった色だ。


 今年でユースは八歳になる。



「ただの魔力欠乏症と聞いてるから、大丈夫だって。それよりも、シモン。俺の薬は効いたか?」



 自身が作った薬の効果を聞いてくるのは、次男のディードだ。

 俺よりも濃い茶色の髪を短髪にしている、見た目と性格がちぐはぐな兄だ。

 活発そうな瞳は、理知的な色を持つ赤だ。


 ディードは今年で七歳だ。



「シモン、もう起きても平気なの? 大丈夫?」



 兄たちに遅れてやってきたのは、母のリースだ。

 腰まで届きそうな赤い髪で、瞳を柔らかく細めている。

 おっとりした雰囲気のある瞳の色は、俺と同じで緑だ。


 見た目はまだ二十代半ばのような若々しさを保っている。



「ガスタは忙しいから部屋で食べるそうよ、配膳をお願い」



 ガスタというのは、父のことだ。

 クリーム色をした髪を撫でつけ、紳士然とした姿が格好いい。

 瞳の色は、深い青。海色とでもいうべきかな?

 すべてを見通しそうな眼をしているんだ。


 母よりは年上らしいとしか、年齢については知らない。




 母の声で朝食が運ばれてくる。


 朝食はやや硬い丸パンとスープに、サラダとベーコンエッグだ。

 朝はパン派なので助かる。


 子供たちのパンはスライスされている。

 それでも、俺の一口にはやや大きいので、小さくちぎってスープに浸して、柔らかくしてから食べる。


 前世では悪いマナーとも言われているが、このような硬いパンなら大丈夫だろう。

 この世界では当たり前の行為みたいなので、気にしない。


 そもそもマナーなんて、そのときの場所で変わるもので、相手を不快にしなければいい。

 それに俺は子供だし、美味しい料理はしっかりと最後まで食べたい。


 前世の終盤は、ほとんど病院食だったしな。

 食への欲求はそれなりにはある。

 スープをパンで拭って、一滴も残さずに食べる。


 完食してくれる方が料理人も嬉しいだろうからね。

 マナーなんてこんな気軽な朝食では必要ないよ。

 もちろん限度はあるけどね。




 朝食を食べた後は、団らん室に移動だ。

 団らん室では、今日の予定を軽く話す時間で、親との数少ない交流の場なのだ。


 兄さんたちはいつものように勉強と鍛錬か。


 記憶の中にある光景を思い返す。

 そろそろ親に甘える時間は終わりだとは理解している。

 だが、兄たちは母を悲しませないように、この時間を大切にしている。

 親思いのいい子たちだ。


 っと、兄さんたちのことよりも自分のことだ。



「母上、ボクも魔法を使ってみたいです」


「あら? そうね、そろそろシモンもそういう年ごろね」

「じゃあ、」


「待ちなさい。室内で魔法を使うのはダメよ。それと文字が読めることが優先です」

「では、文字が読めればいいのですか?」


「ええ、書斎に魔法の指南書があったはずだから、それを読めればいいわ」

「わかりました。ありがとうございます!」


「なんだか、いつもよりも元気がよすぎて不安ね。シューネ? 私の代わりにシモンをちゃんと見ていてね?」

「わかりました、奥様」



 母に許可をもらい、ウキウキで部屋に戻る。

 シモンはしっかりと勉強をしていたようで、文字はちゃんと読めるようだ。


 よし、魔法だ! 魔法を使えるぞ!


 魔法が使えたら、まずは何をしようかな?

 前世で考えた色々なことをしてみたいなあ。

 小説のネタだったものが、現実になるだけでワクワクする。


 ワクワクしている俺にシューネが釘をさす。



「坊ちゃま? 室内で魔法を使ってはいけませんからね?」


「うん、わかってるよ」

「魔法を禁止にされたくなかったら、慎重な行動をお願いします」


「うっ、禁止はいやだな。気をつけるよ」

「はい。なにをするにしても、まず私に聞いてください。適切な助言ができると思いますから」


「ありがとう、シューネ。頼りにしてるよ」

「……もったいなきお言葉です」



 なんだか、シューネの機嫌がよくなったな。

 鼻歌歌ってるよ。

 もしかして、シューネって小さな子が好きだったりする?


 ……やめよう。

 この考えの先には破滅しか待っていない気がする。

 今は魔法のことだけを考えよう。





 自室に戻り、シューネに魔法の指南書を持ってきてもらう。

 指南書を持ってきてもらう間に、神具の出し入れをする。

 何をしているのかといえば、神具の本を出し入れして、魔力を感じるか試しているのだ。


 小説では魔力の流れだとかを感知するところからだったけど、現実でもそうなのかなってね。

 うーん、かすかに胸元に温かいものを感じるな。

 それ以上のことはわからないので、神具の真っ白なページをパラパラとめくって、シューネを待つことにした。



「こちらが指南書になります」


「へえ、これが? 意外と薄いんだね?」

「ええ、魔法を使うための導入の本ですからね」


「ふーん……」



 指南書を書斎から持ってきたシューネ。


 俺はパラパラとめくってみたが、本に痛みがない。

 兄たちも使っているはずなのに、ボロボロじゃないってことは、簡単に使えるようになるのかな?


 俺は期待半分に不安半分で、指南書を読むことにした。



「えっと……、まずは魔力をどこに感じるかを調べること。神具を使うことで意識しやすいっと」


「神具を意識することで、自身のどこから魔力が発生しているかがわかります。まずは、その魔力を感知するところからですね」

「なるほどね」


「魔法は基本的に想像力です。その想像力次第で魔法は大きく変わります」



 さっきの神具の出し入れで温かくなったのが胸だから、たぶん心臓が俺の魔力の発生源なんだろう。



「ボクは胸から発生してるみたいだね」


「早いですね、さすがです。では、次は体内で魔力を動かすところですね」

「うーん、たぶんできると思うんだけど、こうかな?」



 俺は目をつぶって、血流にのって魔力が動くイメージをする。

 心臓から魔力が全身に運ばれるように、息をゆっくり吸って吐いてと繰り返す。


 うん、たぶん動かせている。

 全身がぽかぽかとしだした。



「次はどうすればいいのかな?」


「もう魔力を動かせたのですか? 素晴らしいですね」

「シューネの教えがいいんだよ」


「ありがとうございます。では、次は難しいですよ? 魔力を手のひらに集めて、魔力を球状に維持してみてください」

「うん、わかった」



 手のひらに魔力を集めてみる。


 うーん、集まるけど、どんどん血流にのって流れていくな。


 一か所に留めるにはどうすればいいかな?

 たしか、少年漫画に渦にして集める描写があった気がするな。

 試してみるか。


 おー、すごい!

 魔力が流れるまでに余計な道ができるから、長く魔力をその場に維持できる。

 理にかなった方法だったんだな、あれって。



「魔力を渦にしましたか。では、それを球状にすれば完璧ですね」


「うん、この渦を、ちょっと、複雑にしてやれば、できる、はず……!」

「その調子です。初めての魔力操作もあっという間にできてしまいましたね」


「これで、どうだ!」

「ええ、合格です。素晴らしい才能だと思います」



 なんとか球状に魔力を維持できた。

 渦の次にイメージしたのは、球状に張り巡らしたウォータースライダーだ。


 さらにシューネは課題を出す。



「では、これが最後です。手のひらからその魔力を切り離して、浮かせてください」


「切り離して、浮かせる? うーん……」



 このウォータースライダーの中を巡る水、魔力を球状の中だけにする。

 あとは、この球体を遠隔操作で浮くように動かすイメージだ。


 うーん、球体を浮かすイメージ?

 あっ、リモコンがあると動かしやすいかも!


 人差し指をリモコンに見立てて、それっ!

 動いた、動いた!

 よしっ、ぐーるぐるっとな!


 これを見ていたシューネは口を開け、ポカンとこちらを見ている。



「……天才としか言えませんね、これは。ユース様たちでも三日ほどかかりましたのに」


「えへへ、ボクは魔法が好きだからね。これくらいは余裕だよ」

「そうなんですか? ですが、魔法を使うのは温かくなってからですよ? 今は冬ですからね。今お外に出たら、坊ちゃまが風邪をひいてしまいます」


「そっか……。うん、わかった。温かくなったらだね、待ち遠しいね!」



 俺は春を楽しみにしながら、魔力の玉を動かして遊ぶ。

 うーん、この楽しい日々を日記にでも書こうかなあ?


 そうだ!

 罰当たりかもしれないけど、神具の本は真っ白なんだし、日記帳として使おう。


 日本語で書けば、誰かに見られても読めない。

 秘密の日記帳ってのはロマンがあるよね!


 そうと決まれば、さっそく書こう!

 ええっと、おれはねんがんのまほう使いになりました、って……!?


 漢字がわからない!


 そりゃそうだよな。

 病院にずっと籠ってたから、文字を書くことなんて名前くらいだったんだよなあ。


 その名前も今は忘れてるし。

 漢字は読めはするんだけど、書けないんだよなあ……


 仕方ない、ひらがなとカタカナ。それと簡単な漢字で書くか。

 前世の家族に向けて書く感じにすれば、なんとなく日記らしさが出るな。

 よし、家族の名前は忘れてない。漢字で書ける。


 うん、大丈夫だね。


 じゃあ、書いていこうか。

 シューネが神具に落書きし始めた俺を見て、驚いていたが今は無視だ。

 これは前世の家族へ向けた日記だ。

 なにも恥ずかしいことはない。



 浩二、美代。

 そして、美里。

 オレはネンガンのまほう使いになりました。





 この思い付きがとんでもないことになるとは、このときは思わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ