《黒海艦隊はどう動くか》
玉座の間に入ってきたのは伝令兵だった。
伝令兵は周囲にいるNATO軍将兵達に断りを入れながらグレノスキー国王の元に駆け寄っていき、ついさっき入ってきた情報の報告を始めていく。
「何事だ、騒々しい」
「申し訳ありません、陛下。ですが非常事態ですから……」
「何? 非常事態だと?」
「はい。それではご報告申し上げます。つい先ほどのことなのですが、ロシア軍黒海艦隊が、オデーサ基地に向けて進撃を開始しました!」
「なんだと!!」
「なにっ⁉」
伝令兵の報告を聞いたグレノスキー国王は大声をあげながら立ち上がり、同時にその報告を聞く形になったNATO軍将兵達は驚いて声をあげていった。
その光景を見たテイルは、黒海艦隊が動き出したという報告があったのだから、それほど驚くことではないのでは? という疑問を一同にぶつけていく。
「……あの、皆さん? 少し驚き過ぎでは……?」
「……うん? テイル陛下?」
「だって、黒海艦隊が動き出したという報告はすでにあったんですから。だからそんなに驚くことではないのでは……?」
「……いや、我々はまだ黒海艦隊の動きがこちらの注意を引き付けるだけの、ただの陽動作戦なのではないかという思いが少しだけあったものですから……」
「……だから本格的な進攻だとわかって驚いた、と……ふむぅ……」
一同の返答を聞いたテイルは、そう言って考え込む仕草をしていった。
そんなテイルに、ジャンがなにか良い考えはないかと尋ねてくる。
「……なあテイル……」
「……うん? ジャン? どうしたの?」
「いや、テイルならなにか良い作戦を思い付いてくれるんじゃないかと思ってな……」
「……そうなのか? というか、そなたはジャン殿下か。今まで気付かなくてすまなかった」
「あ、いえ、大丈夫です、グレノスキー陛下。全然気にしていませんから……」
テイルに話し掛けたところで、グレノスキー国王に気付かれて声を掛けられたジャンはそう返答して頭を掻いていく。
そんななかテイルは、ジャンの問い掛けに対して黒海艦隊をよく知らないから作戦の立てようがないと答えていった。
「……ごめんなさい、ジャン」
「……うん? テイル?」
「私は黒海艦隊の兵力がどれぐらいあって、どれだけの戦力を持っているかを知らないから、作戦を立てられないんだよねぇ……」
「……そうかぁ……まあ、そうかぁ……」
「……ごめんね」
「……ふむぅ……どうすれば良いのか……」
「……」
「皆様、心配はご無用! 黒海艦隊如き、我々が撃ち払って見せましょう!」
テイルの返答を聞き、嫌な沈黙が流れそうになっていた玉座の間に突如として、涼やかで、自信に満ちた声が響き渡ったのである。
閲覧、感想、評価ポイント、ブックマーク登録、いいねありがとうございます!




