トップ会談の始まり
門番を含めた兵士四人に先導されたテイルは周囲の人達の、
「あれ何…?」
「何かの犯人の護送中…?」
と、いう声や奇異の目に対して笑顔で手を振るというアピールをしながらディアブライト城内に入っていった。
そうして城内に入ったところで門番をしていた兵士が、
「それでは自分は門番の仕事があるのでこれで。以降は彼らが案内します」
と、言って残る三人の兵士を指差したのである。
そして門番兵士は残る三人の兵士に、
「それでは後は任せました」
と、言うと城内から城門に向けて歩き始めるのだった。
「そうですか。わかりました、ありがとうございました」
残る三人の兵士にテイルの案内の引き継ぎをして立ち去っていく門番兵士に声を掛けて見送ったテイル。
そんなテイルの後ろからテイルに向けて、
「テイル!久しぶり!やっと再会出来たわね!」
と、声が掛けられたのである。
その声を聞いたテイルは声のした方に顔を向けて声の主を確認すると声の主に笑顔で、
「久しぶりね、アーシア。元気そうで安心したわ」
と、声を掛け返したのである。
そうしてテイルに声を掛けられたアーシアはすぐにテイルに向けて駆け出していくのだった。
アーシアは周りにいた兵士や城勤めの人達が驚いて止めようとしてくるのも一切構わずにテイルのいる場所まで一直線に駆け抜けるとその勢いのままテイルに飛び付いてテイルをぎゅうっと抱き締めたのである。
そんなアーシアをテイルは、
「おっと」
と、言いながら抱き止めてアーシアにゆっくりと語り掛け始め、それに応じてアーシアも話し始めるのであった。
「久しぶり、アーシア。ずいぶん待たせちゃったわね」
「大丈夫、気にしてないわ。テイル達が大変だったのはわかっているから」
「そっか、ありがとう。…それにしても…」
「…?どうしたの?」
「いや、かなり気合いの入ったおめかししてるなぁ、って思って。私達よりそのおめかしの方が大変じゃなかった?」
「それは大親友と三年ぶりの再会だもの。これでも気合いの入れようが足りないぐらいよ?」
「それで気合いの入れようが足りないならラフな格好で来た私はどうなるのよ…」
「それなら私の部屋でテイルも気合いの入った格好に着替える?母上との会談は母上に少し待ってもらえばなんとかなるでしょうし…」
「おお、それはナイスアイディア。それじゃ早速アーシアの部屋にいきましょう」
十秒ほどハグをしながら話し始め、そしてハグが終わってからも話し続けたテイルとアーシア。
そうして話している内に会話の内容が少しずつ危険な方向に進み始めたのであるが周囲の人達は二人の会話に割って入る事が出来ずにいた為にこの危険な話の流れは誰にも止められない、かと思われたその時だった。
「殿下、それにテイル女王陛下、さすがにそれ以上は冗談ではすまなくなるのでやめてください」
誰も止めに入れそうになかったテイルとアーシアの会話に割って入って止めた人物、その人物にアーシアが声を掛けた。
「あ、フォルト副団長、ご苦労様です」
「ありがとうございます、殿下。それはそれとしてお早く。陛下がお二人をお待ちです」
フォルトの言葉にテイルとアーシアは互いに顔を見合わせると、
「それじゃそろそろ行こっか、テイル?」
「そうね。じゃれ合うのはいつでも出来るしね」
と、話してアーシアがフォルトに、
「それでは参りましょう。フォルト副団長、先導役、お願いします」
と、言ってフォルトにテイルとアルシアの会談場所までの先導役を頼んだのである。
この頼みにフォルトは、
「畏まりました。というより先導役はアルシア様から命じられましたから。参りましょう、テイル陛下、アーシア殿下」
と、言ってフォルトはテイルとアーシアをアルシアが待つ会談場所まで先導し始めたのだった。
このフォルトにテイルとアーシアも並んでついていき、とある部屋のドアの前で立ち止まったフォルトは複数回ノックをした後、
「失礼致します」
と、一言声を掛けてから部屋の中に入っていったのである。
フォルトの後をついて歩いていたテイルとアーシアもフォルトに続いて部屋に入り、テイルは部屋の中にいた二人の人物に素早く目を向けてそれぞれが誰であるかの確認を行った。
こうしてテイルが部屋の中の人物を確認し終えたのとほぼ同じタイミングでフォルトが声を上げたのである。
「お待たせ致しました、アルシア様。ただいまテイル・フェリアシティ女王陛下とアーシア殿下をお連れ致しました」
「ご苦労様でした、フォルト副団長。会談の内容は副団長も耳に入れておいた方が良いでしょうから副団長もティルダイア団長と同じようにこの部屋に控えていてください」
「畏まりました」
こうして女王アルシアから新たな指示を受けたフォルトは先にこの部屋に控えていたエルヴァンディア王国機士団長ティルダイアの隣に立つとティルダイアと互いに視線を交わして無言で頷き合うと会談の邪魔にならないように部屋の隅に移動していったのである。
「これ以上お客様を立たせたままには出来ませんね。さあ、どうぞ。アーシア、あなたも」
ティルダイアとフォルトが部屋の隅に移動していく様子を眺めていたテイルとついでにアーシアにアルシアが声を掛けた。
「失礼致します」
「わかりました、母上」
アルシアの言葉にテイルとアーシアがそれぞれ返事をして椅子に座ったところでテイルとアルシア(それとアーシア)の会談が始まった。
「まずは無事の帰還にお喜び申し上げます、テイル陛下」
「ありがとうございます、アルシア様。…それでアルシア様は…少し…お疲れなのですか?顔色が優れないようですが…?」
「ふふ、大した事ではありません。以前少しばかり無茶をしただけの事。テイル陛下が気にされる事ではありませんよ」
「……本当ですか?何か隠してるとかないですよね?」
「何も隠していませんよ。気にしすぎではありませんか?」
「…うーん…」
「……本当は」
「…ん?アーシア?」
「…アーシア?…どうしたのかしら?」
テイルとアルシアの会談が開始早々に暗礁に乗り上げるかとなったところでアーシアが二人の話に割って入った。
その行為にテイルは少々困惑し、アルシアは表向きは平静を装い裏ではアーシアに、
「てめえ、余計な事は言うなよ?」
と、音声には出さずに圧を掛けた。
しかしこのままでは話が進まないと判断していたアーシアは母親の圧を無視して続きを話したのである。
「三年前にフェリアシティ王都周囲全域の環境改善に持っている魔力のほぼ全てを使って半年前まで寝たきりだったからね」
「は?え?環境改善?…二年半寝たきり?…え?どういう事?」
「………アーシア……」
アーシアが話した内容がすぐには頭に入ってこなかったテイルが混乱状態になるなかアルシアは隠しておきたかった話を暴露された事でアーシアに対して露骨に不機嫌になったのである。
こうして母親を不機嫌にさせたアーシアだったが混乱状態のテイルにはより詳しい説明が必要だと考えて続きを話し始めるのだった。
「…うーん…どこから話せば良いのか…。まあやっぱり王都脱出後からかな?あの時王都にいた住民全てとあの場にいた各国主要人物を脱出させた後にテイル達姉妹の記憶を複合催眠術で一時的に封印して脱出したよね?」
「ええ。まあ記憶だけじゃなくて髪の色も変えたけどね」
「そういえばそうだったわね。それはそうとテイル達は王都を脱出した後は一年二年は王都に戻らなかったみたいだけど私達は脱出してから一週間経ったところで王都に戻ったのよ。どれだけ破壊されているかを確かめる必要があったから」
「ほうほう」
「それで王都に戻って一番に目に入ったのは建築物が一つ残らず破壊されて完全な廃墟になった王都の姿だったわ」
「…それで?」
「それから廃墟になった王都を歩いて調べていたんだけどある異変に気が付いてね」
「…異変?」
「ええ。草や木が一本も見当たらなかったの」
「…木はともかくとして草も?」
「ええ。木は建築物を破壊した時に一緒に吹き飛ばされたんだろうと思ったんだけど草が一本も見られないのはさすがにおかしいってなって詳しく調べたの」
「…結果は?」
「理由はわからなかったけど数百年間草木一本生えなくされてた」
「…なるほど。それを元に戻す為にアルシア様が無理をした、と」
これまでアーシアの話に相づちをうちながら聞いていたテイルはアーシアが話した内容の最後の言葉からアルシアが何をしたのかの予想が出来た為その予想を口にしたのである。
その言葉にアーシアがより正確な答えを話した。
「ええ。具体的には豊穣の魔力を最大パワーで発動させて王都周囲全域を元の草木が普通に生える状態に戻して回ったのよね」
「そうだったんですか…。アルシア様には私達姉妹が動けなくなっている間に相当な無理を強いてしまった、という事だったんですね…」
アーシアの言葉を聞き終えたテイルはアルシアに顔を向けてそのように話すと続けて、
「私達姉妹の力不足のせいで大変なご迷惑をおかけしてしまいました。まずは謝罪の言葉を述べさせていただきます。申し訳ありませんでした」
と、話すと深く頭を下げたのである。
その様子を見たアルシアは表情を歪めながら、
「本当の事を話すとこうなるだろうと思っていたから隠しておこうと考えていたのに貴女は…。全く…」
と、言ってアーシアを軽く睨んだのである。
だが睨まれたアーシアは怯むこと無く、
「母上はそう言いますけどテイルは恐ろしく勘が良いからすぐに気付きますよ。実際に母上の言動は怪しまれていましたし…」
と、言い返し、ついでにアーシア側も軽く睨み返したのである。
この親子が互いに軽く睨み合う状況にティルダイアとフォルトが顔を見合わせて何か言うべきか悩み始めたところでテイルが口を開いた。
「…このままでは本気の喧嘩になりますよ?それはさておき半年前まで寝たきりだったという事は今も回復しきっていないのですか?」
「…ええ。とりあえず普通に公務に支障が出ています」
テイルの問い掛けに色々バレてしまった為にバレる前とは違い素直に白状したアルシア。
そうしてアルシアの現在の状態を確認したテイルがアルシアに話し掛けた。
「わかりました。それでは謝罪の意味も込めて少し治療してみます。いきますよ?」
テイルはそう言うとアルシアに手をかざして意識を集中させた。
そして、
「能力発動。フルヒーリング」
と、言って自身のネオヒューマン能力の一つであるフルヒーリングをアルシアに使ったのである。
「…まあ、これは…」
「そういえば母上はフルヒーリングを受けるのは初めてだったんですね。気持ちいいですよね~」
テイルのフルヒーリングを受けて気持ち良さそうに目を瞑るアルシアに以前フルヒーリングを受けた事のあるアーシアがその時の事を思い出しながら話し掛ける。
そしてフルヒーリングを使ったテイルはアルシアとアーシアの二人を見ながらアルシアに尋ねた。
「いかがでしょうか?かなり回復なされたと思うのですが…?」
「ええ、それはもう。驚くのは魔力も回復している事ですね。これなら今まで支障が出るので避けていた公務を再開出来そうです」
「それは良かったです。これで多少は謝罪出来たと思っていいでしょうか?」
「謝罪は気にしなくていいのですけどねぇ…。それはそれとしてフルヒーリングですか、これは良いですね。治癒魔法とはまた違った心地よさですね」
「ネオヒューマン能力は魔法とは全く違う技術体系ですからね。私なんかは魔力切れしそうな時は怪我とかしていなくても使っていますね」
「…ほう?」
「眠気も飛ぶので水と食糧があれば果てしなく行動し続けられますよ」
「テイル、それはなんかもうヤバいオクスリみたいだから。ティルダイアとフォルトはちょっと引いてるし」
アーシアにそう言われたテイルはティルダイアとフォルトに目を向けた。
その瞬間、目を向けられたティルダイアとフォルトの二人はほぼ同じ速度でゆっくりとテイルから目を背けたのである。
その様子を見たテイルは軽く溜め息を吐きながら、
「別にヤバいオクスリでも何でもないんですけどねぇ…。ただちょっと無理をしたい時に便利なだけで…」
と、弁明したのだがアーシアに、
「多分二人はその考え方にも引いてると思うわよ?」
と、追撃を食らってしまい、その言葉を確認するべく再度ティルダイアとフォルトに目を向けたのだが二人はさっき見た時以上にテイルから目を背けていた為により深く落ち込む事になってしまうのだった。
そしてこの様子を穏やかに微笑みながら見詰めていたアルシアが、
「それでは過去の話はここまでにして未来…将来の話を始めましょうか?」
と、テイルに声を掛けたのである。
その言葉に少し項垂れていたテイルが顔を上げてアルシアの目を見ながら、
「…将来の話ですか…。ですが私の謝罪は…」
と、改めて謝罪が足りていないと話そうとしたのだがアルシアが、
「やめましょう。これまでの流れだと、謝罪したい、必要ない、この繰り返しで話が進まなくなっていましたからね。ですから過去の話はこれで終わり。それよりも今必要なのは将来の話。違いますか?」
と、話して問い掛けてきた為にテイルも、
「…わかりました。では謝罪の話はまた日を改めて時間がある時に。今はアルシア様の言われる通りに将来の話を行いましょう」
と、話してアルシアの言葉に応じたのである。
そうしてテイルは続けて、
「それで将来の話とは具体的にどのような話になるのでしょうか?」
と、アルシアに尋ねたのである。
この問い掛けにアルシアは、
「そうですね、まずは…」
と、話し始めて一旦言葉を区切ると一瞬言葉を溜めて、
「…対等の立場での軍事同盟の締結、という話ではどうでしょうか?」
と、テイルに提案してきたのである。
この提案にテイルは一瞬だけわずかに目を見開くとすぐに目を細めて、
「流石ですね…私が一番に提案したかった事をアルシア様から提案していただけるとは…。思いは同じという感じがして大変嬉しく、また大変心強く思います」
と、話してアルシアの提案を即座に受け入れる準備がある、と言外にほのめかしたのであった。
そしてアルシアもテイルの言葉に、
「今のテイル陛下やフェリアシティ王国軍には明確な後ろ盾が無いでしょう?そこから考えれば私達に何をしてほしいのかを想像するのは容易な事ですよ」
と、微笑みながら返答したのである。
このアルシアの言葉を受けてテイルが、
「そうですか…。それならば私から話す事はただ一つ。エルヴァンディアとフェリアシティ両国の一刻も早い軍事同盟の締結、この一点のみで御座います。どうかよろしくお願いいたします」
と、言って深く頭を下げたのである。
このテイルの発言にアルシアは浮かべていた微笑みを苦笑いに変えて、
「対等の立場で、と言ったでしょう?対等の立場なんですから口調もそれほど堅くなくてもよいのですよ?」
と、テイルに語り掛けたのであった。
こうしてアルシアに敬語で話さなくていいと言われたテイルは嬉々として敬語で話すのをやめて普通に話し始めたのである。
「そうですか、それでは遠慮無く…あー、苦しかった!普段こんなに敬語使わないから肩凝っちゃった」
「慣れない事を続けるのは苦痛ですからね。そのまま楽にしてもらって構いませんよ」
「ありがとうございます。…でもアルシア様はずっと敬語ですよね?疲れませんか?」
「慣れない事を続けるのは苦痛、と言いましたからね。私はもう慣れてしまったので平気ですよ」
「ええ~良いなぁ~、私も早く慣れたいな~…」
「テイルはそのままでいいんじゃない?」
「ええ…?そう…?」
「そうよ。ねぇ母上?」
「ふふふ、そうですね」
アルシアから敬語で話さなくてよいと言われてからすぐに敬語で話すのをやめて普通に話し始めたテイルにアルシアとアーシア両名がテイルの様子を微笑ましく見るなか、その三人の様子をフォルトは穏やかに見詰め、ティルダイアはなんとも言えない表情で見詰めていた。
そんな二人の気配を察知したのか、場の空気を変えるかのようにアルシアがテイルに問い掛けた。
「ところで軍事同盟の締結を行う事に問題は無いのでしたね?」
「はい、何も」
「それでは合意文書の作成を行いませんか?なんと言いましたか、善は急げ…でしたか?そういう言葉もありますからね」
「わかりました。でも私そんな紙持ってきてませんよ?どうしましょうか?」
「文書はこちらで用意します。ですからテイル陛下は文書に書いてある文言を注意深く読んで何も問題がなければサインしていただくだけで結構ですよ」
「え、本当ですか?本当にそれで良いならお願いしますけど…」
アルシアが話した内容に喜びながらも自身に都合の良い話に少し構えるテイル。
こうして少し構えたテイルにアルシアが優しく話し掛けた。
「ええ、構いませんよ。…これで最も重要な将来の話は無事に終える事が出来る、そう考えてよろしいでしょうか?」
「…そうですね。となると次の将来の話は何になるんですか?」
テイルのこの言葉にアルシアはふむ、と一呼吸置いて、
「それでは次はエルヴァンディアの次にテイル陛下ご自身が赴いて同盟締結交渉を行うべき国家、についてにしましょうか」
と、答えたのである。
この提案を受けたテイルも、
「わかりました。それではお願いします」
と、応じてテイル、アルシア、アーシア三名の会談が続けられるのであった。
ストックが底を尽きました…。
これ以降は不定期連載になります…。
楽しみにしてくれている皆様すいません…。




