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多元世界戦記 ~テイル奇譚~   作者: 篠原2
プロローグ 復活と脱出

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20/511

戦闘終了、そして脱出へ

テイルのお風呂場への逃亡を秒で阻止したマヤ(とエスト)はテイルの、


「マヤさんが指揮してるんだから私いらなくない?」


との声をガン無視、テイルの対処をエストに丸投げして自身はアークワイバーンの指揮に専念していた。


「一号炉のエネルギー充填率はどうか?」


「こちら機関室。一号炉のエネルギー充填率は現在18%!主砲発射は問題無くいけます!」


「了解です。砲雷手、攻撃の準備を。射程内に入り次第攻撃を開始、撃って撃って撃ちまくってください」


「了解しました!」


こうして全砲門一斉掃射の態勢を整えたアークワイバーン。

これと同様に残りの五隻も一斉掃射の態勢を整え、後は射程内まで近付き狙って撃つだけの状態にした六隻は全速力で魔王軍艦隊に突撃していった。

一方の魔王軍艦隊は艦隊司令やそれに近い立場の艦長達が乗艦ごと消滅させられた為に指揮系統が崩壊、突撃してくるアークワイバーン級戦艦六隻に対して反撃しないどころか戦闘の継続か撤退かの判断も下せずにいたのであった。

そうして魔王軍艦隊が迷いに迷っている間についにアークワイバーン他五隻が魔王軍艦隊を射程距離内に捉えたのである。


「「「「「「敵艦隊、射程距離内に入りました!」」」」」」


「「「「「「掃射開始!撃て!!」」」」」」


それぞれの艦長の号令を受けて各艦は順次一斉掃射を開始した。

こうして始まったアークワイバーン級六隻の一斉掃射に魔王軍艦隊はほとんど何も出来ずに次々と沈められていった。

さらにアークワイバーン一隻だけの時に行われたアークワイバーンの一斉掃射とは違い、一度の一斉掃射で終わらず二度、三度、四度…と絶え間無く一斉掃射は続けられ、魔王軍艦隊はその度にみるみる数を減らしていった。


「現時点での合計何隻撃沈しましたか?」


「六隻合わせて約千四百隻ですね」


「残存艦数は?」


「約七千五百隻です」


「攻撃開始から五分で千四百隻轟沈ですか…。ふむ…今のまま攻撃を続けても三十分後…いえ、三十五分後にはほぼ全滅出来る計算ですが…」


そこまで言って不意に言葉を切ったマヤはチラッとテイルに目を向けた。

そこで目を向けられたテイルもマヤに視線を返した為に二人の視線が一瞬交わり、無言で交わした視線を外すとマヤは、


「下手に時間を掛けて不測の事態を起こしてしまうよりは殲滅速度を上げる方が良いですね。総員に告げる!」


と、こう言って自身にブリッジクルーの注目を向けさせると続けて、


「これより光学兵器、実体弾頭に加えて魔法攻撃の使用も開始します!敵残存艦隊七千五百隻、十五分で全滅させますよ!」


と、当初の計算の半分以下の時間での敵艦隊全滅宣言を出したのである。

普通なら無茶苦茶な時間設定だと不平不満が上がるところなのだろうがアークワイバーンや他五隻のクルー達は、


「待ってました!」


「やっと全力で戦わせてくれるんですね!」


「て言うか十五分もいりませんや!十分で全滅させてみせますぜ!」


と、不平不満どころか戦闘時間の更なる短縮を申し出る者が現れる普通ではない異常事態が起こったのだった。

この事態にマヤは軽いめまいを起こしながらも彼らに告げるのであった。


「…私は十五分で良いと言ったんですがねぇ…。まあいいでしょう。宣言したからには十分で全滅させてもらいます。もし出来なかったその時はテイル様の見ている前での発言、それ相応の罰が言い渡されると覚悟しなさい!」


「「「「「「「了解です!!!」」」」」」」


マヤの告げた言葉に全力で返答したアークワイバーンを含む六隻のブリッジクルー一同。

そんな彼らをよそにマヤは再度テイルに視線を向け、テイルもマヤの視線に自身の視線を合わせて両者共に軽く頷くとすぐに二人共視線を外してテイルは引き続き着席したまま戦況を見つめ、マヤは六隻全てに、


「それでは艦首砲以外の本当の全砲門掃射を始めます。撃ち方始め!!」


と、正式に命令を下したのである。

こうしてアークワイバーン含む六隻の艦の攻撃は光学兵器、実体弾頭の二つに加えて魔法攻撃も追加された。

その六隻の艦の魔法攻撃は各フェリアシティ姉妹がそれぞれに得意としている属性に自然と分けられる事になったのだった。

詳しく説明するとアークワイバーンは光属性に、アークシーサーペントは水属性に、アークリンドブルムは風属性に、アークドレイクは闇属性に、アークサラマンダーは火属性に、アークヴィーヴルは地属性に、それぞれ分けられたのである。

こうして六隻の艦はこれまでの砲撃に加えてアークワイバーンは無数のホーミングレーザーが敵艦隊に襲い掛かる、アークシーサーペントは巨大な氷塊が敵艦隊の上方から落下する、アークリンドブルムは多数の風の刃が敵艦隊を切り裂いていく、アークドレイクはアークワイバーンと同様に無数のホーミングレーザーだったがレーザー光の色がアークワイバーンの白と違って黒という違いがあった。

そしてアークサラマンダーは無数の巨大な火炎弾が自艦の砲撃を邪魔しない軌道で魔王軍艦隊に向かっていき、アークヴィーヴルはアークシーサーペントに似た形で超巨大岩石が敵艦隊の上方から落下する、という攻撃魔法をそれぞれが使用する事で攻撃のバリエーションを増やすと同時に敵艦隊の殲滅速度を大幅に速める事に成功したのであった。

こうして次々と秒単位で撃沈させられていく魔王軍艦隊はここに来てようやく撤退を始めようとする艦が現れ始めた。

ただそれはもう時すでに遅しといった感じでアークワイバーン含む六隻の猛攻から無事逃げる事が出来た艦は戦闘開始前からの動員艦数一万九千四百四十隻の中から十八隻になり、残りの艦は全て撃沈させられて魔王軍艦隊はほぼ完全に壊滅、という状態になったのである。

こうして魔王軍艦隊を壊滅させたテイル達はこれからどう行動するかの話し合いを開始させた。


「終わったわねぇ、マヤさん…」


「宣言通り十分でほぼ壊滅出来ましたね。十…八隻ですか?取り逃がしましたが…」


「あの数を相手に逃がしたのが十八隻なら全滅と言って良いでしょう。さて問題はこれからどうするかですね」


「どうしますか?テイル様?」


そう言ってマヤがテイルを見詰める。

そしてレガシアを始めとする姉妹五人もモニター越しではあるがマヤと同様にテイルを見詰める。

さらにはエストに加えてアークワイバーンのブリッジクルー達もテイルを見詰める中、テイルがこれからの大まかな行動方針を話し始めた。


「まずはこの場に留まり続けるのは危険でしょうからここから離れて…そうですね…ひとまずはエルヴァンディア王国内のどこかの海中に隠れましょうか」


「え?この艦海中に潜れるの?」


テイルの言葉に思わずライトが聞き返したがテイルは呆れたように、


「元々外宇宙探査艦として建造されたんだから海中にも潜れないと役目を果たせないでしょ…」


と、説明したのである。

さらにテイルは続けて、


「それに今の説明は三年前にも聞いたはずよ?私達はもちろんエストやマヤさん達も。ねぇ?」


と、言って名前を上げた全員に顔を向けたのである。

そうしてテイルに顔を向けられた者達は口々に、


「聞いたわねぇ」


「ああ」


「…うん…」


「聞きました…」


「俺も聞いたな」


「「「「「「私も聞きました」」」」」」


と、ライト以外の姉妹達にエスト、さらにマヤを含む六隻の艦長の全員が聞いたことがあると答えたのである。

その様子を見ていたライトはその場の全員から目を逸らしながら小声で、


「…三年間記憶とんでたから覚えてないやーあっはっはっは…」


と、薄笑いを浮かべながら口にしたのだが直後に他の姉妹達が、


「「「「「記憶とんでたのは私も」」」」」


と、総ツッコミを入れてライトの薄笑いを制止したのである。

こうして自分を除く姉妹全員からの総ツッコミを受けたライトは消え入りそうな声で、


「…三年前の話を全く覚えていないどころか聞いてすらいなくてごめんなさい…」


と、素直に謝罪の言葉を述べたのであった。

そしてライトが素直に素早く謝罪の言葉を口にしたためテイルも今はこれ以上話を脱線させない方が良いと判断して元の話の続きを話し始めたのである。


「全く…まあ今はこれ以上の追及はしないでおくけど。それよりこれからの行動方針の続きを話しましょう。とりあえず海中に潜っている間に…とりあえずエルヴァンディア女王アルシア様に私達復活の挨拶に行く?」


「誰が行くんだ?私達姉妹全員か?」


「いえ、私一人で行きます」


「一人で大丈夫ぅ?危なくなぁい?」


「一人の方が自由に動けますし、万が一がありますから姉様達は艦に控えていてくれると、私としてはそっちの方が安心出来ます。それに…」


「…それに…?」


「行きは一人ですが、帰りには恐らく一人連れて帰れるでしょうから」


「え?…ああ!アーシアさんですね、お姉様!」


「ええ。多分大丈夫だと思うから行きさえどうにかなれば帰りは心配いらないわ。…多分」


「多分が不安だな…。まあいいか。それよりテイル、本当に俺達全員居残りか?」


「ん?何か良い考えある?良ければ聞きたいんだけど」


そう言ってテイルは何か意見がありそうに口を開いたエストに、その意見に耳を傾けるべく続きを話すように促したのである。


「良い考えと言うか全員残る必要も無いんじゃないかと思ってな」


「…具体的に言うと?」


「テイルがエルヴァンディアに行くのは決定事項として、もう二人ぐらいはエルヴァンディア以外の国に表敬訪問しても良いんじゃないか?艦の守りは残りの四人で何とかなるだろうしな」


「なるほどね。皆はどう思う?」


エストの考えを聞いたテイルはその考えを正式採用するかどうかを皆に問い掛けたのである。


「良いと思うわぁ」


「ああ、そうだな」


「…うん…良いと思う…」


「でもさあ、それでも出る方と留守番の方で固定されない?」


「…それなら…出る人と留守番の人でローテーションをするのはどうでしょうか?」


「おお!良い考えだね、パーチェ!」


「それならぁ、留守番を任された人は避難民の中から兵士になりたいって人達を兵士に採用したりぃ、今いる兵達と新しく兵士になった人達の訓練をしたりするのはどうかしらぁ?」


「それも良い考えですね、姉様」


「…それなら私も一つ…」


「ん?何?クオン」


「…ローテーションって言ったけど…出る人は向かう国の属性に合わせた方が良いと思う…」


「確かにぃ、その方が色々と都合が良さそうねぇ」


「うむ。…他に何か意見がある者はいるか?」


「「「「……特に無いかな?」」」」


ジェーンの問い掛けに声を揃えて返事を返したジェーンとテイル以外の姉妹達。

その返事を受けたジェーンがテイルに結論を出してもらう為に問い掛けた。


「とのことだ。こんな物か?」


「そうですね、こんな感じで良いでしょう。エストも良いかしら?」


「ああ、良いと思うぞ」


「よし、それじゃあ全部採用で」


姉妹達の意見を聞いていたテイルがジェーンの問い掛けに答え、エストにも確認をとったテイルは姉妹達の意見の全てを採用すると明言した。

テイルはその上でこれからの方針を口頭で説明し始めたのだった。


「それでは改めて方針の確認をしますね。まず私はアルシア様に挨拶に行く。居残り組の中から二人はエルヴァンディア以外の国の王様に挨拶に行く。そして居残り組は避難民の中から兵士希望者を募って今いる兵士達も含めて訓練に励む。これで良いわね?」


そう言ってテイルは周囲の姉妹達やエスト、そして話し合いには参加していなかったもののこれからの行動に関わる重大案件である為にしっかり聞いていたマヤ達に向けて説明し、これからの行動方針の周知徹底を図ったのである。

そしてこの説明を受けた姉妹達やエスト、マヤ達はすぐに、


「「「「「「「はい、わかりました!!」」」」」」」


と、力強く返答したのだった。

こうしてこれからの行動方針を定めたテイル達はすぐにアークワイバーン含む六隻の進路をエルヴァンディア王国内の海中に向けて、全速力で移動を開始したのであった。

一方その頃、撤退に成功した魔王軍残存艦隊十八隻は魔界への帰路に就きながら先程までの戦闘の、特に最終盤の絶望的な戦いの反省会のようなものが行われていた。


「…逃げきれたか?」


「そのようです…」


「た、助かったのか…?」


「何とかな…」


「……それにしても…」


「…?…何ですか…?」


「無事に逃げられた艦はこれだけか…」


「…十八隻、ですね…」


「…そうだな…」


「…思い出したくも無いが最後の方は悪夢のような戦いだったな…」


「…あの六隻の戦艦…あれがテイルの切り札だったか…」


「…凄まじい戦闘力でしたな…」


「…戦いながら調べてはいたんだろう?調べられた範囲でわかる性能を教えてもらいたいんだが…?」


「…とりあえず火力ですが低く見積もってもこちらの最新鋭戦艦の三倍はありますね…」


「…それほどか…」


「こちらの魔導シールドが敵艦の主砲らしきレーザーキャノン砲を防ぐことすら出来なかったですからね…」


「…そうだったな…。…そう言えば敵艦の通常弾頭とミサイルはこちらの魔導シールドを無効化しているような感じだったが…?」


「…原理は不明ですがそのようです…」


「原理が不明?何故だ?」


「調べようにも被弾した艦は全て撃沈させられてしまいましたから…」


「…そうか。そうだったな…」


「…はい。…この通常弾頭とミサイルの存在も敵艦の火力がこちらの最新鋭戦艦の火力の三倍と評価した理由です…。…ただあくまでもこれは通常火力に限定した評価ですが…」


「…む?どういう事だ?」


「…あの艦首砲は三倍の評価に加えていませんから…」


「……あ」


「……はい」


「…あれは…何だ…?」


「…はっきりとはわかりませんが…観測されたエネルギーから主砲のレーザーキャノンと同質で尚且つ莫大なエネルギー波長の破壊エネルギーと同じ規模の魔力から純粋な破壊エネルギーのみを抽出したエネルギーの二つが混じりあったようなエネルギーでありました。この事から予想しますに異なる二つのエネルギーを限界まで強制圧縮させて一気に解放、発生した強大な破壊エネルギーを目標に向けて照射する。そのような攻撃ではないかと思われます」


「…そうか。…次は防御システムについてだな。あれはどうなっている?いくらなんでも堅牢過ぎるだろう?」


「それなのですがこちらと同様の魔導シールドに加えて完全新規の防御システム…何らかのバリアではないかと思います」


「ふむ…魔導シールドと新型バリアの二層式の防御システムか…。装甲材質は…わからんか…?」


「申し訳ありません…」


「いや、謝らなくても良い。ひとまずこれだけ整理できれば上出来だろう」


「ありがとうございます…」


「さて、話しは変わるがゲートはまだか?一刻も早く魔界に帰還しないと落ち着かんのだが?」


「心配しなくてもすでにゲートのある宙域に入っています。ゲートももう間も無くですよ」


「そうか、それは良かった」


艦長がそう言って自身が座っている椅子に深く座り直して一息つこうとした時だった。

ブリッジで索敵を担当しているクルーがゲート方向から自分達の艦隊に近付いてくる艦隊の姿を確認、報告してきたのである。


「艦長!ゲート方面から本艦隊に近付いてくる艦隊を確認!」


「何!?数と所属は!?」


「待ってください…数は…五百!所属は…あ?」


「何だ!?所属は!?」


「あ、いや、フレイル様直属の十二魔王艦隊の第十艦隊です」


「…何?カプリコーン艦隊だと?」


「はい」


「…そう言えば増援に来ると言っていたな…。すっかり忘れていたが…」


「艦長」


「何だ?」


「カプリコーン様から通信が入っています」


「…繋げ」


「はっ」


オペレーターの言葉に少々不機嫌になりながら艦長が答えた。

そうしてすぐにカプリコーン艦隊総司令官、魔王カプリコーンとの通信が始まったのである。


「おう、艦長、お初にお目にかかりますじゃのう。ワシが魔王カプリコーンじゃ」


「…お初にお目にかかります、魔王カプリコーン様。ずいぶんとお早いご到着で何よりで御座います」


テイル討伐艦隊がほぼ全滅してしばらくしてから到着した増援に残存艦隊の臨時艦隊長は皮肉たっぷりに挨拶をしたのだが、この挨拶を受けたカプリコーンは全く気にすること無く返答したのである。


「おお!そう言ってくれるか!何せここまでの強行軍は大変じゃったからのう!いきなり呼び戻されたかと思ったらエルヴァンディアに向かえとか言われてのう!そんでようやく合流出来たと思ったら艦隊はほぼ全滅とかわけわからんことになっておるしのう!一体何があったんじゃ?」


自身が発した皮肉を一切気にせずこのように捲し立ててきたカプリコーンに艦長は心の中で、


(このクソジジイが!!)


と、絶叫したのだが、心の中の絶叫とそこから来る怒りの感情を表情には全く出さずに艦長はカプリコーンにテイル達との戦闘の顛末を語って聞かせたのである。

そうして話を全て聞き終えたカプリコーンが放った言葉は、


「要約すればテイル達に手も足も出ずフルボッコにされて逃げ帰ってきた、という話じゃろう?」


と、またしても艦長の神経を逆撫でする発言だった為に艦長は再度、


(このクソジジイ!!!)


と、心の中で絶叫したのである。

そんな艦長にカプリコーンは追い打ちを掛ける発言をする。


「まあ良いわ。とりあえず戦場に行くぞい」


「…は?」


思わぬ発言に艦長が色々な立場や感情をすっ飛ばして思いがけず間抜けな顔を晒しながら一言発したのだがカプリコーンはそれを無視してさらに続けた。


「それとヌシら、ワシの部下になれ」


「………はあ?」


あまりにも予想外の発言に艦長がまともな返事を出来ずに再度一言だけの返事になったがカプリコーンは、


「はあ?では無いわ。ワシはヌシらを助けてやろうと言うんじゃぞ?」


と、艦長の状態を無視して、艦長達にとって聞き捨てならない一言を口にしたのであった。

これまでのカプリコーンの発言に頭やその他が沸騰しそうになっていた艦長もさすがにその一言には普通の反応を示しカプリコーンにその言葉の真意を問いただしたのである。


「…助けるとは?どういう事ですか?」


「なんじゃ、わからんのか?」


艦長の質問にカプリコーンは本当にわからないのかと呆れ声を上げた後で説明を始めるのだった。


「ヌシらは出撃した魔王軍にフレイル様が言っておられる事を忘れたか?」


「…あ…」


「思い出したようじゃのう。そうじゃ。フレイル様が言っておられる事、それは、『出撃した我が軍将兵に敗北、降伏、撤退は許していない。許しているのは勝利または戦死、どちらかのみだ』じゃ。ワシの部下にならずに魔界に帰ればヌシらはどうなるかの?」


「…う…しかし…」


「ふむ、では少し悪い話をするかの」


「…悪い話?」


「ヌシらにとってではない、ワシにとってじゃ」


カプリコーンはそう前置きをして続きを話し始めた。


「ワシもこのまま帰れば遅刻を怒られるでな、戦地に向かう途中で我が軍への投降兵を受け入れていたら遅れたと言い訳したいんじゃ。そしてヌシらがワシの部下になってくれればその話に信憑性が増す、という事じゃ」


「…なるほど…」


「わかったなら受け入れてほしいのう。ワシはフレイル様に怒られんですむ、ヌシらは殺されんですむ。互いにメリットのある提案だと思うんじゃがな」


「…わかりました、その話受けましょう。お前達も良いな?」


「「「「「「「はい」」」」」」」


カプリコーンの説明に納得した艦長は自身がカプリコーンの部下になることを了承、そして自身の部下達にもこの話に賛成する事を確認、部下達も同様にカプリコーンの部下になることを受け入れた。

こうして撤退していた残存艦隊十八隻はその全てがカプリコーン艦隊に吸収される事が決まったのである。

これで新たな態勢になった残存艦隊改め新生カプリコーン艦隊は最初の命令を先程カプリコーンが口にした事の実施になるのだった。


「それでは改めて命令するぞい。これからすぐに戦場に戻る。良いな?」


「…わかりました。しかし何故?」


「少し気になる事があっての。その確認じゃ」


「…了解しました。それでは行きましょう」


「うむ」


こうして新生カプリコーン艦隊は少し前までテイル艦隊と魔王軍艦隊の戦場まで戻っていったのである。

そうして戦場に到着したカプリコーンは艦から降りると戦場となった地を調べ始めた。

自身の直属の部下は艦に残して新たに艦隊に吸収した残存艦隊の艦長一人を引き連れてしばらく周囲の状況を見て回ると艦長に話し掛けたのである。


「ふむう…。のうヌシよ、戦場はここで間違いないのじゃな?」


「ええ、そうですが…?」


「ふむう…、だとするとおかしいのう…」


「…?何がでしょうか?」


「この周辺一帯はワシが三年前に今後数百年は草木一本生えぬ不毛の大地に変えてやった。それがどうじゃ、草も木も生えておる」


「そうですな…」


「ふうむ、何者かがワシの邪魔をしてくれたという事かの。それにしても誰が…………」


そう言って少しの間会話は当然として独り言もせずにカプリコーンは考えを巡らせ始めた。

そうして一つの可能性に辿り着いたカプリコーンが少しの間閉じていた口を開いたのである。


「………いや待てここはエルヴァンディアじゃったな?」


「はい、そうですが…?」


「あのハイエルフの小娘は三年間一度も戦場には出てきておらんかったな?」


「ハイエルフの小娘…?…誰の事ですか?」


「ん?ふむ、わからんかったか。エルヴァンディア王国女王アルシアの事じゃ。あの小娘はこの三年間一度も戦場に出てきておらんかったな?」


「確か…そのはずです」


「なるほど、そうか、女王アルシアがこの地の復活の為に豊穣の魔力を最大パワーで発動させたか。その影響というのか後遺症というのかで動けなくなっておったか」


「何故そう言えるのですか…?」


カプリコーンの言葉に艦長が疑問の声を上げたのだがカプリコーンはその疑問の声も想定内だったようですらすらと説明し始めた。


「エルヴァンディア軍とは互角の戦いだったんじゃろう?」


「…そうですね」


「ならば間違いない。女王アルシアが出てきておればエルヴァンディアに攻め寄せた我が軍は簡単に蹴散らされておるわ」


「…女王アルシアとはそれほどに強いのですか?」


カプリコーンの言葉に艦長が再び疑問の声を上げたのだがカプリコーンはその声にも答えていったのである。


「ヌシは百年前じゃったか九十年前じゃったかの我が軍の大侵攻戦の事は知っておるか?」


「…ええ。確か数年間に渡る激戦で最終的に当時の大魔王様が戦死、それに伴う魔王軍全軍の総退却で終戦になったと記憶していますが…?」


「…ふむ、所々違っておるの。大魔王様は戦死ではなく致命傷を負って魔界に後退、治療を行ったが回復することなく亡くなられた。そして魔王軍は総退却ではなく精霊界軍の追撃を防ぐ為に最前線の部隊は戦闘を継続し後方の部隊から少しずつ退却していったのじゃ。まあ結果的には総退却じゃったが」


「そうだったんですね。しかしその話と女王アルシアの関係は?」


艦長のこの発言にカプリコーンは本気でわからんのか?という顔をしながら、


「察しが悪いのう。当時の大魔王様に致命傷を与えたのが女王アルシアじゃ。一騎討ちを行い丸一日に及ぶ激闘の末に女王アルシアの渾身の一撃が大魔王様の体を貫いた。これが致命傷になり大魔王様は魔界に帰り治療を受けなければならなくなったのじゃ」


と、説明したのである。

そしてこの説明を受けて艦長はようやく全てを理解できた、という顔で話し始めた。


「…そう、だったんですね。つまり女王アルシアが出てきていれば我々はエルヴァンディアでの戦いで負けていた、と…」


「うむ、まず間違いなかろう。さて、それはそれとして」


艦長の話に相づちをうったカプリコーンは一旦話を区切ると改めて本題に入ったのである。


「これまでの戦いに女王アルシアが出てきていないのは確実、そしてその理由は豊穣の魔力使用による消耗から魔力が回復しきっていないから、これでまず間違いあるまい。まあワシに言わせればなんとも無駄な事をしよったな、この一言に尽きるがの」


「無駄な事、ですか?」


「おお、無駄な事じゃよ。この地は再び、数百年草木一本生えぬ不毛の大地に変わるのじゃからな」


「…そんなに簡単に出来る物なのですか?」


カプリコーンの言葉に艦長は不安気にそう聞き返した。

そしてその言葉にカプリコーンは凄まじく邪悪な笑顔を浮かべながら艦長に、


「知っておるか?作る事、維持する事は困難じゃが壊れるのは一瞬じゃという事を…」


と、答えたのである。

その言動に艦長が無意識のうちにガタガタ震えだしたのだがカプリコーンはそれに気付かないまま話を先に進めたのだった。


「さてヌシらよ、出番じゃぞ」


「…え?…ひっ!?」


カプリコーンの言葉を聞いた艦長がその言葉に疑問を感じてふと自身の後ろを振り返るとそこにはいつの間にかカプリコーンが率いる魔物軍団のごく一部が現れておりそれを目にした艦長が短く悲鳴を上げた直後、魔物軍団は激しい雄叫びを上げるのであった。


「「「「ギシャアアアァァァァ!!!!!!!」」」」


「ひ、ひいっ!?」


「わっはっは、威勢が良いのう、ヌシらよ!さて、それでは早速やってしまえ!」


雄叫びを上げた魔物軍団に艦長が再び短い悲鳴を上げるなか、カプリコーンは自身の魔物軍団の力強さに満足気な声を上げるとすぐに指示を出したのである。

するとカプリコーン配下の魔物軍団は、


「「「「ギシャアアアァァァァ!!!!!!」」」」


と、再度雄叫びを上げると早速カプリコーンの指示通りにこの周辺一帯の不毛の大地化作戦を実行に移したのであった。

そうしてカプリコーンと艦長がその作戦遂行状況を見守る事一時間、カプリコーン配下の魔物軍団は見事(?)この周辺一帯を今後数百年草木一本生えない不毛の大地に作り替えたのだった。


「ふむ、まあこんなもんで良いじゃろう。では帰るとするかの、艦長、ヌシらよ」


「…はっ」


「「「「ギシャアアアァァァァ♪」」」」


こう言うとカプリコーンは艦長と自身の魔物軍団を引き連れて艦隊に帰還、その後すぐに魔界への帰路に着いたのである。

こうしてエルヴァンディア女王アルシアが自身の全魔力と引き換えにして再生させた旧フェリアシティ王国王都は瞬く間に数百年草木一本生えない不毛の大地に再度作り替えられてしまったのであった…。

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