姉妹達のネオヒューマン能力
レガシア達五人が新型機に乗り換えて戦い始めてから約三十分が経過、その間全力で暴れまくったテイル達七人の撃墜数は全員がすでに百機を大きく超えておりテイルが五百三十七機、エストが四百十五機、レガシアが三百四十四機、ジェーンが三百六十八機、クオンが三百五十一機、ライトが三百五十九機、パーチェが三百三十六機と七人全てが三百機オーバーで約三十分という短時間の戦闘とは思えない凄まじい数になっていた。
「結構な数を破壊したはずだけどまだまだ出てくるわね!」
「結構な数って…まだ二千機程度じゃない?」
「三十分程度の時間で七人で二千機撃破っていうのは異常な数字だと思うけどねぇ~」
どれだけ撃墜しても途切れる事無く出現し続ける魔王軍マシンアーマノイド隊に愚痴のような感想を述べるライトに反応するテイル。
そしてそのテイルの言葉に反応して自分達が異常なのだとツッコミを入れるレガシア。
そのレガシアの発言にジェーン達が次々に発言していった。
「レガシア姉様、それより異常なのは延々出続ける敵部隊だと思うのですが?」
「…うん…わらわら出てくる…」
「マジでキリ無いんだけど。いつまで出てくるの、これ?」
「…終わるまで、でしょうか…?」
「終わるまでってヤバくね?」
「あ、ごめんなさい、ただ言ってみただけです…」
「まあ無限に出てくるわけじゃないだろうし終わるまでって言うのも間違いじゃないんだろうが…」
「エストはそう言うがそれでも多すぎるだろう…。…本当にどうする?」
ジェーンの最後の問い掛けにテイルが答える。
「どうするも何も戦うだけですよ」
「戦うだけと言われても…いつまで?」
「マヤさん達が例のモノを機動させて脱出準備が完了するまでですね。それまではただ頑張るしかないですね」
このテイルの言葉にテイル以外の全員が数秒沈黙した後、ライトが吠えた。
「マヤさーん!&あと五人!!早く終わらせて-!!」
ライト以外は誰も口にしなかったが、ライトの叫びは全員の共通の願いであった。
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ライトが雄叫びを上げていたのと時を同じくしてマヤ達の脱出に向けた作業は最終段階に入っていた。
「皆さん、各区画の始動状況はどのような感じでしょうか?」
「食料生産区画の方はテイル様がここに入られた際に始動させておられたようでする事が何もありませんでしたね」
「工場区画全般の始動は完了しました。問題はありません」
「工場区画の一部になりますがマシンアーマノイド改造及び整備区画、カタパルト区画の始動はテイル様が終わらせていましたね」
「居住区画は緊急避難モードになっていたものを通常モードへの移行を終わらせました」
「エンジンブロックの方はどうでしょうか?」
「光粒子反応炉は一号炉、二号炉、三号炉、四号炉、全て始動準備完了しています」
「サブエンジンの方は?」
「サブエンジンはテイル様が始動させていましたね」
「そうですか。ならば私達はいつでもいけますね。マイ達五人の方の状況はわかりますか?」
「確認します。少々お待ちください。………通信回線を開きました。確認作業を始めます」
こうして他五人の現状報告が終わるまで手持ち無沙汰になったマヤに最も近くにいた男が声を掛けた。
「…いよいよですな」
「…ええ。三年前は始動準備すら出来ずに魔王軍の襲撃を受けて放棄せざるを得ませんでしたからね…」
「三年越しの出撃、ですね」
「ええ。ただ今回の状況が三年前の状況に酷似しているのが不安なのですが…」
「三年前とは違うでしょう。テイル様達が外で魔王軍の目がこちらに向かないように戦っておられますし…」
「…そうですね。何よりも今回の作戦を立案されたのはテイル様ですからね。私達はテイル様を信じて最善を尽くす…ただそれだけですね」
「以前の通りに、ですな。…おや?」
「うん?」
男の声と視線につられてマヤが目を向けた先には、マイを含めた五人に状況の確認を行っていた少女が五人それぞれの報告を受けてその結果をマヤに伝えるべく、マヤと男の会話が一段落するのを待っている姿があった。
そしてマヤと男の会話が一段落した事を見て取った少女はマヤへの報告を始めたのである。
「報告します。マイ様含む五名全員が全ての準備を完了させたとの事。いつでも出撃可能です」
少女の報告を受けたマヤと男は目を合わせて頷いた。
続けて男がマヤに告げた。
「マヤ艦長、出撃命令を」
この言葉にマヤも応じる。
「わかりました、アトレー副艦長」
さらにこの言葉に続けてマヤは命令を発した。
「全艦、全乗員に告げる!本艦アークワイバーンはこれより出撃態勢に移る!メインエンジン全期始動!続けて艦体上部の堆積物を吹き飛ばす!全砲門開け!一斉掃射!撃て-!!」
「了解!全砲門掃射!」
…いよいよテイルの切り札である戦艦アークワイバーンがその姿を現そうとしていた。
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グランワイバーン内のマヤがアトレーと三年前の苦い記憶を話し合っていた頃、その上空で死闘を繰り広げていたテイル達は際限無く押し寄せる魔王軍マシンアーマノイドに対して次の戦闘スタイルに移行しようと考えていた。
そう考えたテイルはレガシア達六人に声を掛けたのである。
「一つ皆に質問があるんだけど」
「「「「「「何?」」」」」」
「ジェーン姉様とパーチェは使ってるはずだけど他の皆はネオヒューマン能力を使ってないよね?」
「そう言えばそうねぇ」
「俺も使ってないな」
「…私も…」
「ていうか使っていいの?…ああ、そう言えばジェーン姉とパーチェは使ってるのか」
テイルの質問に答えながらジェーンとパーチェの戦い方を見てその二人がネオヒューマン能力を使って戦っている事を確認したレガシア達はテイルに聞き返した。
「と、言う事は私達も使っていいわけ?」
「それなら少しは楽になるわねぇ~」
「…うん…楽になる…」
「確かにこれ以上手加減したまま戦うのは数の差があるから不利になるだけだからな」
レガシア達の声を受けてテイルはレガシア達だけでなくジェーンとパーチェにも新たな方針を告げるのだった。
「よし、皆。ネオヒューマン能力と魔法の使用を許可します。派手に暴れましょう」
「「「「「「了解!」」」」」」
こうしてテイルの号令一下、全員のネオヒューマン能力と魔法の使用制限が解除されたのである。
そうして次々に繰り出される事になったレガシア達のネオヒューマン能力と魔法の威力は圧倒的な数の差がもたらす不利な現状を簡単に覆して見せたのだった。
「いきますぅ~、ネオヒューマン能力、大津波ぃ~!」
この声と共にレガシアの前に立ちはだかっていた数十機の魔王軍マシンアーマノイドにレガシアの言葉通りの大津波が襲い掛かったのである。
そしてレガシアは大津波が直撃するタイミングに合わせて、
「続いていきますぅ~、マキシマムゥフリーズゥ!」
と、水属性最大魔法のマキシマムフリーズを発動させたのだった。
この連続攻撃で大津波に襲われた数十機の魔王軍マシンアーマノイド隊は即座に全機が絶対零度の氷塊となって地上へと落下していった。
そうして落着と同時に全機が氷塊もろとも木っ端微塵に砕けたのであった。
「さあ、次はだれですかぁ~?」
あっという間に数十の友軍機を撃破されて動きの止まった魔王軍にレーザーコーティングハルバードを構えたレガシア搭乗のシーサーペントがジリジリと近付いていくのだった。
そして別の場所ではすでにネオヒューマン能力音速機動を発動して戦っていたリンドブルム、というよりはパイロットのジェーンがこれまでの戦い方に新たに攻撃魔法を組み込んだ戦闘スタイルを展開したのである。
「ではいくか…。風属性中級魔法、ゲイルスラスト!」
ジェーンが魔法を発動させた直後、リンドブルムの周囲に風で作られた魔法の刃が出現したのである。
その状況はリンドブルムが暴風の刃で出来た鎧を纏うが如く、といった風情であった。
「さて、と…それではいくぞ、鈍足共」
暴風の刃を纏ったジェーンは言うが早いか、リンドブルムを操るとマッハ5を超える速度で魔王軍部隊の中心部に突入を始めたのである。
当然リンドブルムの動きに魔王軍部隊が気付かないわけがなく、魔王軍部隊は近付いてくるリンドブルムに対して光学射撃武器や実弾射撃武器に加え魔法を駆使して迎撃を試みた。
しかし全ての迎撃行動がリンドブルムの纏う暴風の刃に斬り刻まれ無効化されたのである。
そうして魔王軍部隊の迎撃を防いだジェーンは最初の狙いどおりに魔王軍部隊中心部への突入を成功、そのまま速度を落とさずに魔王軍部隊の中心部を抜けると次の目標に向けて飛び去っていくのだった。
直後、リンドブルムが通り抜けていった後の魔王軍部隊中心部には再生不可能なほどにバラバラにされた魔王軍部隊のマシンアーマノイドが次々と落下していく光景が広がっていたのであった。
そのようにバラバラになった魔王軍マシンアーマノイドが落下するよりも早く次の目標地点に到着したリンドブルムは到着した時点での速度を落とさず目標と定めた敵部隊に突入、先ほどと同じように敵マシンアーマノイドをバラバラにしていったのである。
この一連の流れはテイル達が脱出するまで続く事になるのだった。
また別の場所ではクオン操るドレイクが魔王軍マシンアーマノイド隊との戦闘の第二ラウンドが始まっていた。
「…ネオヒューマン能力発動…無機物スペック限界突破…フルブレイク…」
第二ラウンドが始まると同時に自身のネオヒューマン能力を発動させたクオンはドレイクに装備されているリニアレールライフル二挺を構えると無造作に連射し始めたのである。
「…なんだ?なんであんなにめちゃくちゃな連射を始めたんだ…?」
魔王軍マシンアーマノイド隊の何人かが不思議そうに呟く中、ドレイクが放ったリニアレールライフルの弾丸が魔王軍マシンアーマノイドの何機かを直撃した瞬間、直撃を受けた機体全機があっという間に消滅したのであった。
「「「「「「「う、うわあぁぁ……!!」」」」」」」
突然搭乗している機体が謎の消滅をしてしまった魔王軍マシンアーマノイド隊のパイロット達はそのまま地上に落下していった。
幸いにも自身に魔導シールドを展開していた為に地上に落下しても生きてはいたのだが当然戦闘には参加出来なくなってしまったのである。
「な、なんだ!?何が起きた!?」
「…直撃した瞬間に…マシンアーマノイドが…消えた…だと…?」
「あんな魔法は見た事も聞いた事も無い…ネオヒューマン能力か!?」
「マシンアーマノイドだけ消滅させるネオヒューマン能力!?そんな能力聞いた事がないぞ!?」
クオンが発動させた謎のネオヒューマン能力に魔王軍兵士が大混乱になる中、この事態を引き起こした張本人であるクオンが口を開いた。
「…私のネオヒューマン能力は…マシンアーマノイドを消滅させる能力じゃない…。…わたしのネオヒューマン能力…フルブレイクは…能力を発動させている間に…私が触れたもの全ての中で…私が壊していいと思ったものだけを…分子レベルまで分解する能力…」
「「「「「「「…は?」」」」」」」
「「「「「「「………ひ、ひいぃぃ~!!」」」」」」」
クオンの説明を聞いた魔王軍兵士達は一言発してクオンの言葉の意味を完全に理解した直後、付近にいる兵士全員が盛大に悲鳴を上げるのだった。
その様子を見たクオンがさらに追撃するべくリニアレールライフルを構えたところで魔王軍兵士の一人がクオンに話し掛けてきた。
「す、凄まじい能力だが、わ、我々パイロットは誰一人、ぶ、分解されてはいない!そんな、欠点のある能力に怯む魔王軍ではないわ!!」
その兵士はクオンに話し掛けるというよりは自分達に言い聞かせるように叫ぶと直後にドレイクに斬り掛かってきたのである。
しかしクオンはその攻撃をあっさり避けて攻撃を仕掛けてきた敵マシンアーマノイドのコクピットブロックにリニアレールライフルを一発撃ち込んで見事に命中させたのであった。
そして命中したマシンアーマノイドが分子分解された直後、このマシンアーマノイドのパイロットにもリニアレールライフルの弾丸が直撃、パイロットも機体と同様に分子分解されたのである。
「「「「「「「…………え?」」」」」」」
この様子を見ていた魔王軍兵士達が呆然としながら呟いた直後、クオンが魔王軍兵士達に話し始めた。
「…パイロットが分解されていない…っていうのは間違い…。…正確にはパイロットには当たらなかったから分解しなかった…これが正解…。…当たれば機体も人も…分子分解される…」
「「「「「「「ひいぃぃぃぃ!!!!」」」」」」」
クオンから聞かされた話の内容に改めて悲鳴を上げる魔王軍兵士達。
そんな彼等にクオンがさらに絶望的な宣告を行ったのである。
「…さっきまでは久しぶりに発動させたから能力の加減が出来てなかった…。…でもこれまでの発動で調整も終わったから全開でいける…。…覚悟しろ…」
「「「「「「「うわあああああ!!!!」」」」」」」
クオンの言葉に悲鳴を上げながら我先にと逃げ出す魔王軍マシンアーマノイド隊。
クオンはそんな彼等の最後の希望を摘み取るような止めとも言える宣告を行った。
「…もう一つの能力の無機物スペック限界突破も使ってる…。…だからリニアレールライフルの射程も延びてる…。…逃がさない…」
この最後通告を終わらせたクオン搭乗のドレイクが逃げ惑う魔王軍マシンアーマノイド隊に向けてリニアレールライフルの二挺連射を開始した。
そうして直撃して分子分解されたもの、かすっただけで分子分解されたもの、この二つに分かれるなか今まで起きていなかったある事態に魔王軍兵士達が新たな悲鳴を上げたのである。
「ど、どうなってる!?さっきまでは貫通してなかったのになんで今は弾が貫通する!?」
魔王軍兵士達が新たな悲鳴を上げた理由、それはドレイクが放ったリニアレールライフルの弾丸が以前はマシンアーマノイド一機に当たると勢いを失っていたのに対して今連射されている弾丸は最初の一機に直撃しても一切勢いを失わずに射線上にある次の機体、次の機体に向かっていっていたのであった。
この事態に混乱に混乱を重ねて完全に収集がつかなくなってしまった魔王軍兵士達にクオンが説明を始める。
「…調整が終わったって言った…。…さっきまでは調整出来てなかったから弾が当たったら勢いが死んでた…。…けど今は違う…。…弾が当たった瞬間に分子分解されるから勢いが死なない状態で飛んでいく…。…だから止まるのは本当に射程距離限界になった時…」
クオンの説明を聞いた魔王軍兵士達は悪くなっていた顔色がさらに悪くなっていったのである。
そんな魔王軍兵士達の事情などに構っている暇は無いと言わんばかりにリニアレールライフルの二挺連射を再開させたクオン。
その連射に悲鳴を上げながら機体を分子分解されて地上に落下していく兵士やコクピットブロックに直撃して機体が分子分解された直後に自身も分子分解される兵士達がいるなか、逃げながらも多少冷静さを取り戻した兵士達がある考えから密かにドレイクの背後に回り込んでドレイクに攻撃を仕掛けてきたのである。
「後ろからなら下手に撃てば味方に当たる!味方に対して分子分解するような攻撃は出来まい!!」
こう言って複数の魔王軍マシンアーマノイドがドレイクに背後から襲い掛かっていったのである。
しかしクオンは後ろを振り向くこともせずにリニアレールライフルを持っている右腕だけを後ろに向けて襲ってくるマシンアーマノイドにリニアレールライフルを撃っていった。
当然と言うべきかこの時にドレイクの前方にいる敵部隊にも左手に持っているリニアレールライフルを連射して敵部隊の殲滅を行っていた。
このクオンの後方への攻撃に驚いた魔王軍兵士達がクオンの行動を非難する声を上げたのである。
「味方のいる方向に向けて分子分解するような攻撃を迷うことなく行うとは…。しかも目標の確認もせずに撃つなど…。とてもじゃないが正気とは思えん」
この声にクオンは、
「…敵の位置くらいは魔力反応と気配でわかるから問題無い…。…それに味方に分子分解はしないからこっちも問題無い…」
と、返答したのである。
この返答に魔王軍兵士は半ば呆然としながら、
「…そ、そんな都合のいい話があるか!敵だけを分子分解する能力など…!」
と、言い返した。
この言葉にクオンは少々面倒臭そうに反論したのだった。
「…私は最初に言った…この能力は私が壊していいと思ったものだけを分解する能力だって…」
「…!!」
「…それを正しく理解してなかったお前達が馬鹿なだけ…」
「……あ、ああ…あ………」
「…話は終わり…。…さよなら…」
こう言って通信を終わらせたクオンは逃げ惑う魔王軍マシンアーマノイド隊へのリニアレールライフル連射を再開、魔王軍兵士達に地獄を見せていくのだった。
「お~、皆派手にやってるねぇ。んじゃ私もいきますか!」
レガシアにジェーン、クオンの戦いぶり、と言うか暴れぶりを見たライトは自身も派手に暴れるべく気合いを入れ直すとまずはネオヒューマン能力を発動させたのだった。
「ネオヒューマン能力発動…サイコキネシス!!パイロキネシス!!」
ライトが声を上げると同時にライト機サラマンダーの周囲に青白く輝く球体の炎が四個出現したのである。
「それじゃあ…行けっ!!」
ライトがそう叫ぶと球体の炎はサラマンダーの周囲を離れて周辺の敵マシンアーマノイドに襲い掛かっていったのである。
「たかが火の玉、何を恐れる事があろうか!!」
球体の炎に狙いを定められた魔王軍兵士の一人はそう叫ぶと近付いてくる球体の炎に向けて自身搭乗のマシンアーマノイドに搭載されていたレーザーコーティングソードを思い切り振り下ろしたのである。
そうして球体の炎とレーザーコーティングソードが触れ合った瞬間、じゅっ!という音を立ててレーザーコーティングソードが蒸発したのである。
「は?」
球体の炎に狙われた魔王軍兵士が一言発した次の瞬間、レーザーコーティングソードを蒸発させた球体の炎が今度は目標のマシンアーマノイドのコクピットブロックに直撃してこのコクピットブロックを搭乗していたパイロットごと蒸発させたのだった。
その光景は他三個の球体の炎が向かった先でも繰り広げられており、それぞれの目標を蒸発させた球体の炎はサラマンダーの元に戻ってサラマンダーを守るように周囲を旋回し始めるのだった。
「な、なんだその火の玉は!?」
ライトが出現させた球体の炎の力に恐怖を抱いた魔王軍兵士がライトに叫ぶ。
その声にライトが応じて魔王軍兵士達に向けて自身が出現させた球体の炎の説明を始めたのである。
「なんだって言われてもネオヒューマン能力だよ?一万度の火の玉をサイコキネシスで自由自在に操るっていう感じの」
「…一万度の火の玉を自由に操る…?だがその熱量では…」
「触れる前に熔けるって?大丈夫だよ、触れるまでは熱を感じないように調整してるから」
「……は…」
「んじゃ説明も終わったし再開しよっか?」
「…くっ!付近の部隊は全機突撃!蒸発させられる前に取り囲んで潰すぞ!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
こう言って突撃を始めた魔王軍マシンアーマノイド隊。
しかしライトは自身の搭乗機サラマンダーに魔王軍マシンアーマノイド隊が殺到してきても慌てることなく対処を始めたのである。
「おお、来た来た。それじゃやるか!ネオヒューマン能力発動!サイコキネシス!パイロキネシス!」
こう言って能力を重ねて発動させたライト。
するとサラマンダーの周囲に展開していた球体の炎が四個からいきなり十四個に増加、それが全てサラマンダーの周囲を旋回し始めたのだった。
「「「「「「「…はい?」」」」」」」
突然突撃対象の周囲に展開している球体の炎の数が倍増という言葉以上に増えたのを目の当たりにしてしまった魔王軍兵士達はサラマンダーへの突撃を思わず止めてしまったのである。
そうして突撃を止めてしまった魔王軍兵士達にライトは
にっこり笑って、
「それじゃ攻撃再開。防御には四つ残しておけば十分だろうから攻撃には十個使うね。それじゃ火炎球、レッツゴー!」
と、言って火炎球十個を魔王軍マシンアーマノイド隊への攻撃へと振り向けたのである。
サラマンダーへの攻撃の為に偶然とはいえ密集する形になっていた魔王軍マシンアーマノイド隊は簡単に逃げる事が出来ずにサラマンダーの近くにいた機体から順番にコクピットブロックを蒸発させられていったのであった。
この状況を見たライトは逃げ惑う魔王軍マシンアーマノイド隊に向けて情け容赦の無い宣告を行ったのである。
「このまま能力を使ってるだけでも良いんだけどそれだと私が退屈だからさぁ…ガトリングガンを乱射しても良いよね?まあ駄目って言われても乱射するんだけど」
そう言ったライトは火炎球から逃げ惑っている魔王軍マシンアーマノイド隊に向けてガトリングガンの乱射も始めるのであった。
こうしてライトが担当している地帯も他の地帯に負けず劣らずの地獄絵図のような光景が繰り広げられる事になったのである。
そしてパーチェが戦っている地帯。
ここでのパーチェの戦い方もネオヒューマン能力と魔法の使用禁止措置の解除によって大きな変化が起こっていた。
「ネオヒューマン能力発動…!天候操作大地…!陸地創造…!」
パーチェがそう言ってネオヒューマン能力を発動させると戦闘地帯である空中に約200平方メートルの陸地が出現したのである。
「なんだこれは…?」
「陸地が…出来た?」
「空中で地上戦でもする気か?」
「こんなのでなにするんだよw」
パーチェのネオヒューマン能力を見た魔王軍兵士達は突然空中に陸地を作り出したパーチェの考えが理解出来ず、中には笑い出す者も現れた。
しかし直後にパーチェが何を狙って空中に陸地を作り出したのかを理解した魔王軍兵士達は理解出来ずに笑う暇があれば逃げておけばよかったと後悔するのだった。
「いきます…地属性最上級魔法…グランクエイク!!」
「「「「「「「……え?」」」」」」」
そう言ってパーチェが発動させたのはパーチェが最も得意にしている地属性の攻撃魔法、その中でも最大の破壊力を持っているグランクエイクであった。
ただこのグランクエイクは術者の周囲の陸地全体に局所的大地震を発生させて陸地を破壊、その破壊された陸地の中で地震動エネルギーで吹き飛ばされた一部を金属化させて対象にぶつけたり地割れに巻き込んだりしてダメージを与える魔法なのだがその特性上ある程度の大きさの陸地の上でなければ発動出来ないという大きすぎる欠点があるのであった。
ところがその欠点をパーチェは自身のネオヒューマン能力、天候操作大地によって陸地を作り出してカバーするという、能力を使えない者からしたらまさに反則と言える実力を見せつけたのであった。
「「「「「「「うおぉぉぉ!?」」」」」」」
グランクエイクの地割れに巻き込まれ粉砕されていく魔王軍マシンアーマノイド隊。
その中央をパーチェ機ヴィーヴルが突破しながら地割れに巻き込まれなかった敵マシンアーマノイドを探していた。
「…く、おっ…!」
「!…無事な機体を見つけた…!」
「…ん?」
移動すること約二十秒、ついに地割れに巻き込まれずに持ちこたえている敵マシンアーマノイドを見つけたパーチェはヴィーヴルの基本武装である巨大金棒を構えると発見した敵マシンアーマノイドへと一直線に突撃していった。
そうして射程距離まで一気に踏み込んだヴィーヴルは迷うことなく全力で敵マシンアーマノイドのコクピットブロックへ巨大金棒を振り抜いたのである。
「……あ?」
巨大金棒が直撃した瞬間、敵マシンアーマノイドのパイロットが一言発した、その直後、直撃を受けた敵マシンアーマノイドは爆発する間も無く粉々になったのだった。
この後パーチェは同じように地割れに巻き込まれずにいた敵マシンアーマノイドや地割れに巻き込まれながらも持ちこたえている敵マシンアーマノイドを見つけては片っ端から粉砕していった。
そうしてグランクエイクの発動時間が終わるまで敵マシンアーマノイドを粉砕し続けたパーチェはグランクエイクが収まったそのすぐ後に再びネオヒューマン能力を発動させて陸地を作ると再度グランクエイクを使用して空中で大地震を引き起こしたのである。
こうしてテイルとエストの二人を除く五人はド派手に魔王軍部隊を蹴散らしていくのだった。