それぞれの新型機
待ちに待っていた援軍本隊が到着した事で目の前にいる敵後続部隊との兵数差が無くなったテイル達は今のところ有利に戦っていた。
テイル機、ワイバーンが二刀流にライフル二挺撃ちで敵マシンアーマノイドを蹴散らし、レガシア機はレーザーハルバードを振り回しては薙ぎ払い、ジェーン機はジェーン本人の能力である超高機動戦を展開して敵部隊を翻弄、クオン機はレーザーソード二刀流はワイバーンと同様であったがライフルはワイバーンのレーザーライフルとは違いリニアレールライフルの二挺撃ちでワイバーンと同様に蹴散らしていって、ライト機はエスト機ほどではないが大剣を振るって両断し、パーチェ機は巨大金棒と格闘戦で敵機を粉砕、エスト機は巨大剣で敵機を叩き潰しながら両断する、更にこの七人というか七機に加えてシャドウ機もジェーン機ほどではないが高機動戦を展開して味方機の援護を行い、それ以外の二十四機である近衛隊機が一機ずつ確実に撃墜していく、というそれぞれがそれぞれの持ち味を発揮して暴れまくった結果、敵後続部隊は戦闘開始から二分と経過しない間に全滅したのであった。
こうして一段落着いたテイル達は再会を喜ぶと共にこれからの方針の説明を始めようとしたのである。
「レガシア姉様、クオン、ライト、それに近衛隊の皆も久しぶりね。無事で良かったわ」
「うふふ、ありがとう。テイルの方も無事だったみたいで安心したわぁ」
「…私も…テイルが無事で良かった…」
「二人共そう言うけどテイル姉をどうにか出来る奴がこの世に存在するの?」
レガシアとクオンがテイルの無事を喜ぶ中で発せられたライトの言葉にその場の全員が一旦再会の喜びを横に置いてライトの言葉を考えた結果、全員の頭に浮かんだ答えは、
(((((((存在しないだろうなぁ…)))))))
で、あり、その空気を敏感に感じ取ったテイルが全員に、
「皆して存在しないだろうなぁ、とか失礼な事考えたでしょ?」
と、発言、その失礼な事を考えていた大多数が自分達の考えを言い当てられた事に凍り付く中でこの状況を生み出した張本人と言えるライトは、
「でも事実じゃん」
と、テイルに追撃をしたのである。
この発言にテイルは少々イラッとしながらもいつ敵部隊が氷壁を突破してくるかがわからない為にテイルはこの話を強制的に終わらせてこれからの方針の説明へと持っていくのだった。
「ライト、この話はこの場を切り抜けた後ゆっくりとする事にしましょう。良いわね?」
「…あい」
テイルの声色が少し下がった事に気付き、切り抜けた後の説教を確信しやり過ぎたと察して明らかにテンションが下がったライト。
そのライトを半ば無視する形でテイルがこれからの方針について説明し始めた。
「それでは改めてこれからの方針を話します。まずはレガシア姉様、ジェーン姉様、クオン、ライト、パーチェの五人はマヤさん達を連れてシェルターと偽っているあれに向かってもらいマヤさん達を降ろして下さい。その後姉様達はそれぞれの新型機に乗り換えて再度出撃してきて下さい。そしてマヤさん達の方は中にいる皆と協力して脱出準備を始めて下さい。それからエストとシャドウ、近衛隊の皆は姉様達が戻って来るまで戦線の維持を、姉様達が戻って来た後はシャドウと近衛隊の皆はマヤさん達の後を追ってもらって脱出準備の手伝いを頼みます。そして姉様達とエスト、私、この七人は脱出開始ギリギリまで敵部隊の迎撃を行う。これで良いでしょうか?」
方針の説明を終えたテイルはこの場にいる全員を見渡しながら、
「何か質問は?」
と、尋ねたのである。
これに何も質問が出なかった事からすぐにテイルの考えた方針通りにそれぞれが行動を開始した。
そうしてシェルターらしき何かに向けて移動しようとしていたライトにテイルが話し掛けた。
「ライト、ちょっと話があるんだけど」
「…説教なら後で聞きます」
「違うわよ。下にいるトーブル隊長達にも脱出準備の手伝いをするように伝えてくれない?」
「え?トーブルいんの?」
「ええ。それで?頼まれてくれる?」
「…わかった、頼まれた。他に何かある?」
「いえ、特に無いわね。それでも何かと言われたら急いでほしいぐらいかな」
「了解。んじゃ行きますか」
こう言って移動を始めていた他の姉妹に続いてライトも移動を開始した。
途中でテイルの頼み通りにトーブル達にも脱出の準備を手伝ってほしいと伝えに行ったのである。
「よっす、トーブル。久しぶり」
「えっ?あっ、ライト様!?ご無事だったのですね!」
「まぁなんとかね~。それよりテイル姉から伝言。私達と一緒に来て脱出の準備を手伝ってほしいってさ」
「了解しました!」
こうしてテイルの言葉を伝えてトーブル達を連れてレガシア達の後に続いて行くライトとトーブル達。
そしてシェルターではない何かに突入したところでそれぞれの目的地に向けて移動する為に別れたライトとトーブル達。
ライトは先行したレガシア達と同じく新型機が置かれている格納庫へ、トーブル達は脱出の準備を始めているマヤ達を手伝う為にマヤ達のいる場所へと。
その頃には先行したレガシア達は自身達の専用機である新型マシンアーマノイドの発進準備に入っていた。
「これが新型機、名前はシーサーペントですかぁ」
「姉様の機体はそういう名称なんですね。私の機体はリンドブルムという名称ですね」
「…私のは…ドレイクっていうらしい…」
「えっと、私の機体の名前はヴィーヴルだと書いてあります!」
それぞれが自身の機体の名前を報告していく中、トーブル達への伝言と途中までの同行というテイルの頼みをこなしていたライトが自身の機体が置かれている格納庫までやって来た。
「おー、これがそうか。良いねぇオーダー通りに真っ赤だねぇ。それにガトリングガン装備になってるし」
自身の機体を見て満足そうに話すライト。
そうしてライトはすぐにコクピットに乗り込み自身の機体の機動させ始めた。
「エンジン始動、パイロット登録開始。パイロット登録者名ライト・フェリアシティ。音声登録。角膜、網膜登録。指紋、掌紋登録。脳波パターン登録。パイロット登録完了。メインシステム始動!」
すでにパイロット登録を終わらせて出撃準備に移行している姉妹達に続いて自身もパイロット登録を終わらせたライトはコクピット内に響く電子音声を聞き流しながら機動シークエンスが終わるのをのんびりと待つ事にしたのである。
そうしてぼーっとし始めたライト機のコクピットに通信回線を開く者が現れた。
「何遅刻してるんだ馬鹿ライト」
「黙れクソジェーン。それに遅刻じゃねぇわ」
「遅刻じゃないなら何故遅れた馬鹿ライト」
「テイル姉から私の部下への伝言頼まれたんだよクソジェーン」
「………ふぅん……」
売り言葉に買い言葉で喧嘩寸前の状態になったジェーンとライト。
この二人の通信回線に更に通信回線を繋げてくる者がいた。
レガシアだった。
「もぉ~、二人共、また喧嘩してぇ」
「レガシア姉様…」
「レガ姉…」
「今はそんな事してる場合じゃないでしょう?」
「申し訳ありません、レガシア姉様…」
「やーい、怒られた」
「…ライト?あなたは反省してないのぉ?」
「……ごめんなさい」
このやりとりであっさりとジェーンとライトの二人の気持ちの高ぶりを静めて見せたレガシアは続けてライトに問い掛けたのである。
「ところでライトぉ?」
「ん?何、レガ姉?」
「あなたの機体の名前は何かしらぁ?」
「あ?あぁ、え~っと……あぁ、サラマンダーだね」
「サラマンダーねぇ、わかったわぁ。それで機動シークエンスの方はどうかしらぁ?」
「…完了してるね。いつでも発進出来るけど?」
「皆も大丈夫ねぇ?」
「問題ありません」
「…大丈夫…」
「私も大丈夫です!」
「そう、それじゃあ行きましょうかぁ。急がないとテイル達に怒られちゃうわぁ」
「さすがにそれは無いと思いますが…まあ急ぎましょうか」
「ええ。それじゃあ行くわよ~。レガシア・フェリアシティ、マシンアーマノイドシーサーペント参りますぅ」
「ジェーン・フェリアシティ、マシンアーマノイドリンドブルム出る!」
「…クオン・フェリアシティ…マシンアーマノイドドレイク…発進する…」
「ライト・フェリアシティ、マシンアーマノイドサラマンダー出るわよ!」
「パーチェ・フェリアシティ、マシンアーマノイドヴィーヴル、いきます!」
こうしてそれぞれが一番しっくりくる名乗りを上げて姉妹五人は乗り換えた新型機で再出撃していったのだった。
そして時は少し遡りレガシア達が新型機に乗り換えに向かった直後のテイル達がいる戦場ではテイル達が巨大氷壁を突破してくる敵部隊に備えて隊列の組み直しや攻撃方針の確認等を行っていた。
「私とエストはそれぞれ敵部隊の密集している箇所に突撃を仕掛けます。シャドウは私の後に、近衛隊は二機一組に分かれて五組は私に、残り七組はエストについてシャドウと近衛隊は私とエストが撃破出来なかった敵機を一機ずつ確実に撃破していく事。良いわね?」
「あぁ、問題無い」
「わかりました」
「「「「「「「了解です!」」」」」」」
テイルの方針を全員が承諾、近衛隊がそれぞれ二人一組のグループ分けを終わらせた数秒後に巨大氷壁を突破してきた敵部隊との激突が始まった。
「行くわよエスト!」
「ああ、任せろ」
まずは方針通りに敵部隊密集域に突撃していくテイルとエスト。
「来たぞ!迎撃!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
突撃してくるテイル機ワイバーンとエスト機に対して迎撃態勢をとる敵部隊。
こうしてワイバーンとエスト機の接近を阻止するべく激しい防御射撃を開始した敵部隊にテイルとエストは、
「「地属性中級魔法、ロックプレッシャー!!」」
と、同時に地属性の魔法を発動、これによりワイバーンとエスト機の目の前に大きな魔法製岩石が姿を現した。
ワイバーンとエスト機はこの魔法岩石を掴んで振りかぶると防御射撃を行っている敵部隊密集域に全力で投げつけたのである。
そして投げつけたワイバーンとエスト機本体は投げつけた魔法岩石を自身達が敵部隊に近付く為の盾にすると同時に敵部隊を蹴散らす為の武器という二つの目的で使用したのであった。
「岩が飛んでくる!ロックプレッシャーか!?」
「どうするんだおい!?」
「どうするって言われても…」
「どうするもこうするもねぇ!撃ちまくれ!!」
「撃ちまくれって…壊せるのかよあれ!?」
「知らねぇよ!知らねぇけど撃つしかねぇだろ!」
「ライフルだけか!?魔法は!?」
「撃てるなら魔法も撃て!!つうか俺に聞くな!!」
「じゃあ誰に聞くんだよ!?」
「知るか!!」
まとめ役がいない敵部隊がロックプレッシャーへの対処方でパニックになるのとは対照的にテイルとエストは敵部隊の出方を見ながらゆっくりと作戦会議を行っていた。
「撃って来たわね」
「ライフルと魔法の複合攻撃だな」
「ロックプレッシャーに魔導シールドを使っておこうか?」
「そうだな。それと適当なところで破砕する準備もしておけよ?」
「わかってるって」
こうしてロックプレッシャーには魔導シールドが張られ
敵部隊にとってはロックプレッシャー破壊作戦の難度が上昇、テイルとエストにとっては敵部隊への接近がより簡単になる展開になったのである。
「うおぉぉ!!壊れろ!壊れろぉ!!」
「駄目だ!傷一つ付かん!」
「諦めるな!撃ち続けろ!!」
どれだけ撃っても無傷で自分達に向かって飛んでくるロックプレッシャーに弱音を吐きそうになりながらライフルと魔法を撃ち続ける敵部隊。
そんな半分泣きそうになっている敵部隊を尻目に一気に接近出来る距離まで近付いたテイルとエストはタイミングを合わせてロックプレッシャーの破砕を決行、同時に目標にしていた敵部隊密集域への突撃を行った。
「何だ…!?ロックプレッシャーが…光って…」
「!?…爆発した!?」
「くお…っ!?…全員大丈夫か!?」
「あぁ、なんとか…え?」
「急接近してくる…マシンアーマノイド!?」
「テイルと…エストか!」
「迎撃を!!」
「駄目だ!間に合わん!!」
この直後、ワイバーンは突撃して最初に接触した敵マシンアーマノイドにレーザーソード二刀流をX字型に振り下ろしその形に斬り裂くとほぼ同時に更に後ろにいる敵マシンアーマノイドに斬り掛かっていった。
エスト機の方は最初に接触した敵マシンアーマノイドとその後ろにいた敵マシンアーマノイドのコクピット部分を二機まとめて刺し貫いた。
そしてエスト機は敵マシンアーマノイド二機を貫いたまま前進、ある程度敵部隊が固まっている場所まで来ると敵マシンアーマノイドを貫いた状態のままで巨大剣をこれまでの片手持ちから両手持ちにすると、
「うぅぅおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
と、いう雄叫びと共に周囲で一番敵マシンアーマノイドが固まっている場所目掛けて全力で横一文字に薙ぎ払った。
その瞬間、
「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
と、いう敵パイロットの悲鳴と共に敵マシンアーマノイドがすでに刺し貫かれていた二機以外に新たに四機の敵マシンアーマノイドが両断されていった。
同時に刺し貫かれていた二機もこの時に完全大破、エスト機の巨大剣は元通りの形に戻ったのである。
「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
続けて再度気合いの雄叫びと共に敵集団に向けて巨大剣を薙ぎ払っていったエスト。
「「「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
敵パイロットの絶叫と共に今度は三機のマシンアーマノイドが一太刀で両断された。
こうしてエスト機が巨大剣を振るう度に複数の敵マシンアーマノイドが簡単に真っ二つになったいった。
次々に秒殺されていく敵パイロットの数少ない救いは最初の攻撃から全てがコクピット部分ばかりを一撃で破壊されていっている為に犠牲になった全員がほぼ苦しむ事無く倒されている点であろうか。
そして一方のテイル、というかワイバーンはレーザーソードの二刀流で舞うかのように敵マシンアーマノイドを次から次へと斬り捨てていっていた。
こう聞くとワイバーンもエスト機と同じように一撃必殺だと感じるだろうがテイルとエスト、この両者の戦い方には大きな違いがあった。
エスト機が一撃必殺というよりは一太刀必殺であるのに対しワイバーンはコクピット部分とエンジン部分を一瞬で複数回切断していく連撃、という違いがあった。
さらに違いを言うとすれば敵パイロットの悲鳴だろう。
エスト機に破壊されたマシンアーマノイドのパイロット達が悲鳴や絶叫をあげていたのに対してワイバーンに破壊されたマシンアーマノイドのパイロット達はほとんど声もあげずに倒されていったのである。
その理由は声をあげる暇もなかったというのが一つあるのだがそれよりも大きな理由があった。
その理由とは声を発する事すら忘れていた、というものであった。
ワイバーンは舞うかのように斬っていった、と表現したが実際にワイバーンの挙動は踊っていると言っても差し支えないものだった。
その華麗さは目の前で味方機が撃破されているのに敵パイロット達がワイバーンの挙動に声をあげるのも忘れて見惚れるほどであった。
その結果自機が斬られる直前まで声をあげるのを忘れており斬られ始めてようやく声をあげようとするも結局間に合わず声をあげる事が出来ずに斬られていっていたのであった。
またこの二人の戦い方に圧倒されていたのは敵部隊だけではなかった。
テイルとエストの後ろを任されたシャドウと近衛隊も敵部隊と同じように圧倒されていた。
「相変わらず凄まじいなあの二人は…」
「あれだけの数に囲まれてるのに囲まれてる二人よりも囲んでいる敵部隊の方が可哀想になってくるな…」
「ていうかこれ、俺達が行く必要あるのか?」
「無さそうな気がするが…」
「だよなぁ…」
近衛隊のメンバーからこのような声が上がり近衛隊がテイルとエストの後に続いて敵部隊へ突撃を仕掛ける事に躊躇する中、ここまで近衛隊の話を黙って聞いていたシャドウが口を開いた。
「テイル様が我々に下した指示はテイル様、エスト様の後に続いてお二人が撃破出来なかった敵機を撃破する事、これのはずでしたが?」
「それは…そうだが…」
「このまま何もしないままでは無事脱出成功となった際に我々だけが命令違反で裁かれますな」
「う…」
「私は裁かれたくないのでテイル様の指示通りに動かさせてもらいます。皆様はお好きなように。それでは」
そう言うとシャドウは躊躇する近衛隊達をその場に残してテイルの指示通りにテイルが撃破しきれなかった敵機の撃破に向けて動き出したのである。
これを見た近衛隊も、
「…行くか」
「そうだな」
「近衛隊の俺達だけが命令違反はさすがにまずいからな」
「さすがにというか普通にアウトだ」
「…だな。よし、行くか!」
「「「「「「「おう!!!」」」」」」」
ここまで躊躇していた近衛隊もシャドウの言葉と行動を受けてようやくテイルの指示通りにテイルとエストの撃破しきれなかった敵機の撃破に向かっていったのである。