表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多元世界戦記 ~テイル奇譚~   作者: 篠原2
プロローグ 復活と脱出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/511

一対大艦隊、そして

「…ふぅ、戦術的に包囲する為に動き出してからは立ち回りが難しくなったわね…。トーブル隊長達の援護射撃も気にしていないみたいだし…。これはこのままの状況が続いたら厳しいかな…?」


現在の状況を分析したテイルはここからの展開を考えて軽く溜め息を吐いた。

さらにテイルは現在の戦場から少し離れた場所でテイル達だけではなくこの周辺一帯の包囲殲滅の為に動いている魔王軍艦隊の動きも確認、これにも溜め息を吐いた。

その溜め息は先ほどよりも大きな物になったのである。


「む~…すでに半包囲が完了か…。さすがにそろそろ援軍が到着してくれないとまずくなって来てるんですけどねぇ…」


ゆっくりと、しかし確実に前進し包囲態勢を確立させつつある魔王軍艦隊。

それを横目で見ながら愚痴るテイル。

そしてテイルは愚痴りながらも二機一組でワイバーンを包囲しようと行動してくるロイヤルガード隊の動きに対処、戦況は膠着状態になっていた。


「隊長、さすがテイルと言うべきか包囲どころか背後に回る事すらさせてくれませんね」


「ああ、厄介極まりないな」


「どうしましょうか?現状のままでも艦隊による包囲殲滅には移行出来そうですが」


「ふむ…。いや、艦隊に援護射撃の要請をしよう」


「え?」


「通常誘導弾頭、魔法誘導弾頭による援護射撃を要請して確実にテイルを落とす。良いな?」


「なるほど。了解しました」


「うむ。では早速艦隊に援護射撃の要請をする。……」


「艦長、通信です」


「誰からだ?」


「ロイヤルガード隊長、モーンライン中佐からです」


「ふむ?すぐに繋げ」


「はっ!」


「…こちらロイヤルガード隊長、モーンライン中佐であります。突然の通信、失礼します」


「いや、構わんよ。それで何かな?」


「はっ、用件はテイル機への砲撃をお願いしたく通信させていただきました」


「ほう?…しかし何故?」


「現在テイル機の包囲攻撃の為に動いているのですが背後に回る事すら出来ず、その為に皆様の援護射撃をお願いしたく…」


「なるほどな…。しかしこの距離からの砲射撃は貴官達も巻き添えにする可能性があるが…?」


「はい。ですから援護射撃の内容は通常誘導弾頭と魔法誘導弾頭による物に限定していただきたいのです」


「なるほど、そういう事であれば問題は無いな。よし、わかった。早急に援護射撃を開始するとしよう」


「よろしくお願いいたします」


こうして通信を終わらせてから約二十秒後、ワイバーンへの魔王軍艦隊からの砲射撃が開始されたのである。


「くっ!この状況で艦隊からの砲撃か…。仕方ない、ギガストーム!!」


魔王軍艦隊からの砲撃への対抗策としてワイバーンの後方に超巨大竜巻魔法ギガストームを発動させて艦隊からの砲撃を食い止め始めたテイル。

しかしテイルはギガストーム発動の為に一瞬だけ動きを止めてしまったのである。

そしてロイヤルガード隊長はギガストーム発動の為にテイルが動きを止めたその一瞬の隙を見逃さなかった。

間髪入れずにロイヤルガード隊長が部下に叫ぶ。


「テイル機の最も近くに二機!そのままテイル機に接近戦を仕掛けろ!」


「「ええ!?」」


「焦るな、何も撃墜しろとは言っていない。攻撃を防御させてテイル機の動きを止めさせるのが目的だ」


「「なるほど!了解です!」」


こうして隊長の指示を受けた二機がワイバーンへ突撃、それぞれがレーザーソードでワイバーンに斬りかかったのである。


「ちぃっ!」


舌打ちしながらもレーザーソード二刀流でロイヤルガード隊二機の攻撃を受け止めたテイル。

こうして狙い通りに動きを止めたワイバーンを見てロイヤルガード隊長が部下達に叫んだ。


「各機包囲殲滅!急げ!!」


「「「「「「「了解!!」」」」」」」


隊長の指示でワイバーンに殺到するロイヤルガード隊一同。

さすがにこの状況にはこれまで以上に焦ったテイルがボソッとある事を呟いた。


「まずいなどうするかな…。いきなり奥の手を使うって訳にもいかないし…。ってこんな事言ってる場合じゃないか!魔法弾幕!ファイアボール!」


迫り来るロイヤルガード隊に向けてファイアボールを乱射して接近を阻止しようとするテイル。

その魔法弾幕を受けてワイバーンへの前進行動を妨害されるロイヤルガード隊員達に隊長からの指示が飛ぶ。


「慌てるな、落ち着いて防御しながら少しずつ前進し、確実に包囲するんだ」


「「「「「「「は、はい!!」」」」」」」


ロイヤルガード隊員達は隊長の指示通りにテイルの魔法弾幕を防ぎながらワイバーンにジリジリと近付いていったのである。

その様子にテイルは思わず、


「うわぁ、次々対処されていく…。このままだと本格的に奥の手を使わされてしまう…?絶対嫌なんですけど…」


と、呟いたのである。

そんなテイルにトーブルから通信が入ってきた。


「テイル様、今いいですか!?」


「よくないです」


「……緊急事態なのでこのまま続けます!テイル様!我々の後方から所属不明のマシンアーマノイドがこちらに接近してきています!」


「…!…数は!?」


「…えっ…と…三十機です!」


「三十か…」


「テイル様、どうしますか!?」


「…信号弾を」


「…え?」


「信号弾を撃って!早く!」


「え!?で、ですが内容は!?」


「『非常事態、援護求む』で!急いで!」


「わかりました!」


こうしてトーブルがすぐに信号弾を準備して発射、戦闘地帯の空に信号弾の光が輝いたのだった。


「テイル様、あれは味方なんですか?」


信号弾を撃ち上げたトーブルがそうテイルに尋ねた。


「多分ね。それと援護射撃の目標を敵艦隊の砲弾の迎撃に変更。よろしく」


トーブルの問いにそう返すとテイルはトーブルの返答を待たずにロイヤルガード隊との戦闘に意識を戻すのだった。



----------



一方、接近中の所属不明機体群



「見えましたねぇ、あれですかぁ」


「そのようですね、姉上」


「…テイルは…大丈夫なの…?」


「まあ、テイル姉の事だから大丈夫じゃない?」


「…お姉様…どうかご無事で…」


戦闘地帯に接近してきている三十機のマシンアーマノイドの先頭にいる五体のマシンアーマノイドのパイロット達、詳しく言えばテイルの姉妹達がこんな会話をしている中、トーブルが発射した信号弾の輝きが彼女達の目に入ったのである。


「あらぁ、信号弾が…」


「『非常事態、援護求む』…ね…」


「…テイル…危ない…?」


「いや、普通に戦っててテイル姉が危なくなる事ってないでしょ?」


「…え…ではあの信号弾は…?」


「テイル姉の事だからいつも通り限界まで手加減してるだけじゃない?」


「うーん…確かにあの子ならあり得るわねぇ…」


「いつも通りでは困る事態もあるんだがな…」


「…それより…早く行かないと…」


「クオン姉様の言う通りです。急がないとお姉様が…」


「…でも…もう限界まで急いでる…」


信号弾の伝達内容について五人が意見を交わすなか、それを黙って聞いていた一人の男が声を上げた。


「それならジェーンがネオヒューマン能力を使い先行、それ以外の皆はこれまで通りに急ぐ、これで良いんじゃないか?」


この提案を聞いた五人はそれぞれに、


「確かにエストの言う通りかもねぇ」


「結局いつも通りじゃないか?」


「…私は…それで構わない…」


「おー、頑張れージェーン姉ー(棒読み)」


「私もエストさんの意見に賛成します。ジェーン姉様、お願いします」


と、自身の考えを述べたのである。

そして名指しされたジェーンが、


「一人棒読みの奴がいたがそれについてはこの戦いが終わった後で当人をボコるとして…わかった、行ってくる。ただお前達も急げよ?」


と、言って現在の高速飛行態勢のままで、


「ネオヒューマン能力発動!」


と、叫んだのである。

そして次の瞬間にはジェーンと、彼女が搭乗していたマシンアーマノイドの姿は戦闘地帯に接近している部隊の中から消えたのだった。



----------



一方、戦闘地帯



「くっ、さすがに二機まとめて押し返すのは厳しいかな…?」


信号弾を撃ち上げた直後、テイルはワイバーンを押し込んできているロイヤルガード隊のマシンアーマノイド二機を押し返そうと奮闘していた。

その間も接近してくるロイヤルガード隊のマシンアーマノイドに向けてファイアボールを乱射しながら、艦隊の援護射撃の妨害の為のギガストームを発動させているテイル。

三ヶ所に同時に集中しなければいけない過酷な状況ではあったがなんとか持ちこたえていた。

そんな中、艦隊の援護射撃の内の一発がギガストームの防壁を突破してワイバーンの背部バックパックに直撃したのである。


「つっ、ギガストームと下からの迎撃射撃をすり抜けた!?」


正確にはすり抜けたわけでも突破したわけでもなく、たまたまギガストームの外縁部を通ってきたトーブル達にも予想外の一発が直撃したという話なのだがここではそれは重要な話ではない。

重要なのは援護射撃の一発が直撃した事でテイルの集中力が一瞬途切れてしまった、という事である。

そこで生まれた隙をまたしてもロイヤルガード隊長は見逃さなかった。


「全員突撃!包囲殲滅だ!急げ!」


「「「「「「「おおおう!!」」」」」」」


隊長の指示で再度ワイバーンに殺到するロイヤルガード隊。

この動きに即座に対処出来なかったテイル。

そして敵機の異常接近を報せる警報が鳴り響く中、テイルはボソッと呟いた。


「信号弾は見ましたよね、ジェーン姉様…。そろそろ来てくれても良いんじゃないですか…?」


そんな事を呟く間にも接近してきたロイヤルガード隊のマシンアーマノイド数機が手にしたレーザーソードをワイバーンに向けて振りかぶり……そのままの状態で動きを止めてしまったのである。

これを見たロイヤルガード隊長は当然(?)部下達に怒声を飛ばしたのである。


「お前達何をしているんだ!?テイルは動けないんだから早く攻撃するんだ!!」


「た、隊長…そ、それが…」


「何だ!?」


この次に発せられた言葉に隊長と他の隊員達は激しく困惑する事になる。


「機体が動かないんです!」


「…は?」


「こちらもです!テイルの機体に斬りかかろうとした時に突然…」


「…何だと?」


「隊長!テイル機の身動きを止めている自分の機体もそうです!全く動きません!」


「どういう事だ…?いったい何が起きているんだ…?」


このようにロイヤルガード隊員達が困惑する中、何が起きているのかを察したテイルが少し後ろに下がるとワイバーンの手持ちの武器をレーザーソードからレーザーライフルに持ち替えると動けなくなっている機体に向けてレーザーライフルを一発ずつ発射したのである。

するとレーザーライフルが直撃した機体、その数六機が全て再生不可能な程にバラバラになったのである。


「「「「「「「なっ…!?」」」」」」」


その光景を見たロイヤルガード隊長と隊員達は一言声を上げて絶句し、バラバラになった機体の隊員達は、


「「「「「「…へ?あ…」」」」」」


と、いう一言を上げた直後、機体が爆発、その爆発に巻き込まれて全員が命を落としたのである。

その様子を呆然と見詰めるロイヤルガード隊長と隊員達を横目にテイルは何処へともなく声を掛けた。


「ありがとうございます、ジェーン姉様。助かりました」


「それはどうも。ただ、感動の再会の場で、いつも通りの説教をする事になるとは思ってなかったんだけど?」


テイルの声掛けに何処からともなく返ってきたジェーンの言葉にテイルはてへぺろしながら、


「だって弱いものいじめは嫌いですし。それに…」


と、こう言って一呼吸置いて、


「秒殺しすぎたらワイバーンの進化の速度が遅くなります。それは出来る限り避けないと」


と、答えたのである。

テイルのこの言葉にジェーンは溜め息を吐きながら、


「…今はとりあえずそういう事にしておこうか。…さて、それじゃそろそろ始めるとしようか、テイル?」


と、テイルに声を掛けたのである。

これにテイルも、


「ええ、お願いします、ジェーン姉様」


と、応じてレーザーライフル二挺を構えるワイバーン。

一方で突然味方機六機がバラバラになって爆発してしまったロイヤルガード隊長と隊員達はテイルとジェーンの会話が終わった現在も混乱の渦中にあった。

そんな混乱真っ只中の隊長だったが原因がテイルにあるだろうという事にはなんとか辿り着けたようでワイバーンに通信を繋げてテイルが何をしたのかの確認をしようとしたのである。


「…ん?通信?それも知らない端末から……あ、いや、このパターンは魔王軍の…。という事はロイヤルガード隊長機からかな?」


こう呟きながら通信回線を開こうとしたテイルにこの呟きを聞いていたジェーンが声を掛けた。


「こっちとの回線は切る?それとも繋げたままにしておく?」


この言葉にテイルは少し考えて、


「繋げたままでお願いします」


と、答えるとロイヤルガード隊長機からの通信を繋げたのである。


「こちら魔王軍ロイヤルガード隊長、モーンライン中佐である」


「…テイルです。どう言った御用件でしょうか?」


「貴女は先ほど何をした?ほぼ身動きの取れない状態でマシンアーマノイド六機をバラバラにするなど不可能だと思うのだが?」


「…それに答える前に一つ宜しいですか?」


「何かな?」


「話してくれないかもしれない、とは考えなかったのですか?」


「…う?」


「私が大ピンチから脱出した方法とか、そう簡単に教えると思ったのですか?」


「…あ」


「かなり混乱しているようですね」


「…くっ」


「ですが今の私は機嫌が良いので教えます」


「何!?」


「やったのは私ではありません」


「…は?」


「別の人物です」


「別の人物…だと?どこにもいないではないか!」


「いますよ、そこに。ギガストームの竜巻の中に」


「「「「「「「何!?」」」」」」」


テイルの言葉にロイヤルガード隊全員がギガストームに目を向ける。

すると少し間を置いてギガストームの竜巻の中から一体のマシンアーマノイドが現れた。


「…本当にいたのか…。それでお前は誰だ?我々の知っている者か?」


現れたマシンアーマノイドにモーンラインがこう問い掛けた。

その問い掛けに現れたマシンアーマノイドのパイロット、ジェーンがモーンラインの問いに答えたのである。


「私はフェリアシティ王国第二王女ジェーン・フェリアシティ。これで良いか?ロイヤルガードの…モーンライン中佐…だったか?」


「ジェ、ジェーン・フェリアシティだと!?そんな馬鹿な!?」


ジェーンの答えに驚愕して悲鳴じみた声を上げるモーンライン。

そしてジェーンの登場に怯え始めるロイヤルガード隊員達。

そんなモーンラインとロイヤルガード隊員達を見ながらジェーンは先ほどのモーンラインの発言に少々不満そうな呟きを漏らしたのである。


「馬鹿な、か…。失礼だな。まあ…良いか」


ジェーンはこう呟いた後、テイルに攻撃開始の為に声を掛けた。


「テイル、準備は良いか?」


「ええ、いつでも」


「そうか。では始めよう」


「その前に」


「うん?」


「確認なんですけどフォーメーションは昔と同じように私が後衛、姉様が前衛で良いんですよね?」


「…ここでぶっつけ本番で違う事をするのか?」


「………これまで通りのフォーメーションで行きましょう、姉様」


「…ふふっ、了解。ではあらためて…行くぞテイル!!」


「ええ、ジェーン姉様!!」


少し考えて発せられたテイルの言葉に小さく笑い声をあげて了承し自身にとっては戦闘開始の、テイルにとっては戦闘再開の号令を発したジェーンとそれに応じてレーザーライフル二挺を構えて戦闘態勢に戻ったテイル搭乗のワイバーン。

そしてジェーン到着のショックから立ち直れていないロイヤルガード隊に向けてジェーン搭乗のマシンアーマノイドが襲い掛かっていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ