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多元世界戦記 ~テイル奇譚~   作者: 篠原2
プロローグ 復活と脱出

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魔王軍の動向と朗報

ポイント&ブックマーク登録ありがとうございます!

頑張ります!

テイル達が昼食を終わらせて午後からの演習を開始したちょうどそのころ、魔王城パンデモニウム玉座の間では大魔王フレイルと参謀長オブルクが会議をしていた。


「…テイルの魔力反応が最初に感知した位置から動いていない?」


「そのように報告がきましたが…」


「あれだけの挑発をしたから逃げられない、それだけの事ではないのか?」


「それにしても動かなさすぎではないかと。まあ、罠でしょうな」


「罠、ね…。何を仕掛けてくる?予想は?」


「…罠と言うかは微妙ですが…援軍を待っているのではないでしょうか?」


「…今の状況でテイルに援軍を出せる勢力があるのか?」


オブルクの言葉に眉をひそめながら聞き返すフレイル。

その視線に怯むこと無くオブルクが答えた。


「勢力はありませんが、テイルの姉妹達がいます。恐らくは彼女達の到着を待っているのではなかろうかと…」


「…姉妹達、か…。嫌なことを思い出させるな…」


「申し訳ありません。ですが必要な事ですから…」


吐き捨てるように言ったフレイルと謝りながら自身も嫌そうな顔を見せるオブルク。

二人の頭の中には数年前のテイルと姉妹達による魔界侵攻作戦でのほぼ一方的な蹂躙劇の様子が再現映像のように流れていた。

その記憶を頭の中から消し去るかのように頭を数回ぶんぶん振ったフレイルがオブルクに話し掛けた。


「ならば戦力の増強が必須だな」


「……冗談ですよね?」


オブルクにとっては悪夢のような発言であり悪い冗談だとの一言を期待して聞き返してみた。

しかしフレイルから返ってきた言葉にオブルクは絶望する。


「この状況で冗談を言うと思うか?」


「……冗談であって欲しいのですが…」


「本気だ。もう一度言う。戦力を増強する。これは決定事項だ。わかったな、オブルク?」


この言葉にオブルクは内心では無く実際に、盛大に頭を抱えて見せた。

そしてそのまま絞り出すように声を発したのである。


「…どこの戦力を引っ張る気ですか?四十艦隊をこれ以上動かすのは無理ですよ?」


「…ならば十二艦隊のいずれかを呼び戻す。これで良かろう?」


「………やはり正気ではありませんな」


「何度も正気だと言っているだろう」


フレイルの言葉にオブルクは再度頭を抱えしばらく悶えていた。

そして一頻り悶えた後でオブルクが今一番気になる事を尋ねてみたのである。


「…先方にはどのように説明されるつもりですか?」


「普通にテイルが出たと言えば良かろう」


「害獣扱いですな…。まあそれほど間違っていませんが。しかし先方がそれで納得しますか?」


「納得するだろう?先方にとってもテイル達は天敵なのだから、な…」


「なるほど…。わかりました。それで?どの艦隊を呼び戻しますか?」


オブルクも自身を強引に納得させたところで本格的に呼び戻す艦隊の選定作業に移るのだった。


「まあ…基本的には先方が難色を示しにくい艦隊である事が最低条件になるな」


「でしょうな。加えて確実に戦力になってくれなければ困りますな」


「ふむ、引き上げさせやすく確実に戦力になる艦隊か…。…そんな都合の良い艦隊がいるか?」


「…むう…………………あ」


「ん?どうした、オブルク?」


「いました。一艦隊。第十艦隊なら条件に当てはまるはずです」


「第十艦隊…。あぁそうか。そう言われてみればそうだった、な」


「ええ。それに恐らく艦隊司令もそろそろ帰りたがっている頃かと…」


「それこそ都合が良い、と言うわけか」


「はい」


「よし、では先方に話を通せ。出来る限り急いで、かつ慎重に、な」


「はっ!」


こうして先方との交渉を始めたオブルクはテイルの早期討伐の重要性、第十艦隊の部隊構成と戦力補填の必要性、そして第十艦隊総司令官が帰還を望んでいる、といった情報を駆使して第十艦隊の帰還という難交渉を成立させたのであった。

ただ即時帰還はさすがに無理だと言われてしまいテイル討伐艦隊への合流はどれだけ早くても総攻撃開始の直前というギリギリのタイミングになってしまったのは彼らにとっては誤算ではあったが。

ともかくこれで魔王軍のテイル討伐艦隊の最終的な投入戦力の全てが決まったのだった。



----------



一方その頃シェルター(?)内では…



魔王軍のテイル討伐艦隊がエルヴァンディア王国の大地の一角に集結しつつある中、テイル達は時間的に最後の実戦演習を終わらせて少し遅くなった夕食を食べて入浴、その後トーブル達は泥のように眠りに就いた。

先生も同様に眠りに就く中、テイルはいつもの長風呂を終わらせて一人シェルター(?)の外で夜風に当たっていた。


「ふぅ、風が気持ちいい…」


テイルはそう呟きながらある一点にその視線を向けた。


「…徐々に魔力を持っているモノの数が多く、魔力自体が大きくなってきている…。明日の朝か…遅くても昼には攻撃が始まりますね…」


テイルが視線を向けた先には魔王軍テイル討伐艦隊の集結地点があったのである。

そして集まりつつある魔王軍テイル討伐艦隊の魔力を感じ取っていたテイルが溜め息混じりに呟いた。


「…これは予想以上に戦力を集めてきましたねぇ…。ちょっとまずいかな…?」


テイルのこの発言にはテイルも知らなかった魔王軍のある事実が大きく関係していた。

テイルが記憶を上書きされて別人となっていた三年の間に魔王軍は艦隊の再編成を行った際に最大兵力の増大も同時に行っていたのである。

当然テイルがこの事実を知ることは無く、三年前の最大兵力基準で考えていたために起こった誤算なのであった。


「どこにいるかわからない援軍を頼りにするような作戦は立てたく無いんですけど…この状況だとそれも致し方無し…ですかねぇ…」


テイルはそう呟いて溜め息を一つ吐くとシェルター(?)に向けて歩き始めたのである。


「…場合によっては私がフルパワーで暴れるしかない…かな?…本当に最後の手段になるのだけれど…」


テイルがそう呟きながら歩いていたその時、テイルの目の前に一人の男が音も無く現れたのである。

その男にテイルはほんの一瞬警戒して見せたのだがすぐに警戒を解いて抱きついたのである。


「シャドウ!無事だったんですね!!」


「ええ、なんとか。他の者達も全員無事です」


「…そう…皆無事なのね…良かった…」


シャドウの言葉に心からの安堵の声を発したテイル。

しかしそれもつかの間の事ですぐにテイルはシャドウに今一番気になっている事を尋ねたのである。


「それで皆は今どこにいるの?…出来ることならここに向かっているって言葉が聞きたいのですけど…そんな都合の良い話って…ありませんよね…?」


恐る恐る尋ねたテイルだったがシャドウの返答はテイルにとって百点満点の答えだったのである。


「いえ、都合の良い話はありますよ?」


「…!…と言うことは!?」


「皆様こちらに向かっています。それをテイル様に知らせる為に私が先行したのです」


「…皆様というのは…姉様達やエスト達も、ですか?」


「はい。三年前の戦いでの王国軍の主力部隊員であった皆様です」


「…その中にマヤさん達はいますか…?」


「ええ、います。六人全員でこちらに向かっています」


この言葉を聞いたテイルは派手なガッツポーズをしながら、


「よぉーーーし勝ったぁ-----!!!」


と、大絶叫したのである。

そんな明らかにテンションが上がったテイルにシャドウは冷静に声を掛けた。


「まだ勝つと決まったわけではありません。嬉しいのはわかりますがあまりはしゃぎすぎないようにお願いします」


「うふふふ、わかってるわ。まだ到着していないものね。でも、それでも光が見えた事は間違いないわ。シャドウ、すぐに皆のところに戻って出来る限り急がせて。明日のお昼までに間に合いそうに無いなら最悪ジェーン姉様だけでも先行してもらうようにお願いしてくれるかしら?」


「わかりました」


「任せたわよ」


「はい。それでは」


そう言ってシャドウは現れた時と同じように音も無くその姿を消したのである。

その様子を見ていたテイルは感慨深げに呟いた。


「さすがはシャドウ、相変わらず一瞬で姿を消す技術が抜群に上手いわねぇ…」


そしてテイルもその言葉を最後にシェルター(?)の中の自身の部屋へと戻り翌日に起こるであろう戦いに向けてゆっくりと休む事にしたのだった。

そして翌朝、普段通りに目を覚ましたテイルはいつも通りの行動パターンで朝を過ごしていた。

そのため先生やトーブル達は魔王軍艦隊がすぐそこまで接近している事に全く気付かなかったのである。

一方のテイルもシェルター(?)の警報が作動するまでは先生やトーブル達にギリギリまで普段通りの生活をしてほしいとの思いから彼等に知らせようとはしなかったのである。

テイルのこの配慮(?)もあってシェルター(?)内には穏やかな空気が流れていた。

またこの時トーブル達にテイルがあることを告げたのである。


「トーブル、それに皆も聞いてください。今日の演習は中止にします」


「「「「「「「えっ」」」」」」」


「それは…どうしてですか?」


「私の予想通りに魔王軍が動くなら今日攻撃を仕掛けてくるはずです。ですから今日はいつ攻撃が始まっても良いように体を休めておいてください」


「「「「「「「えっ!?今日来るんですか!?」」」」」」」


「ええ、まず間違いなく来るでしょう。ですから今日はいつでも出撃出来るようにしながらゆっくりしていてください。良いですね?」


「「「「「「「わ、わかりました…」」」」」」」


テイルの言葉でトーブルと部下達はそれぞれに体を休めたり自分が搭乗するマシンアーマノイドの整備の手伝いをしたりと来る戦いの時まで様々な過ごし方をするのだった。

そしてトーブル達を休ませたテイルは一人シェルター(?)の外に出て見張り役をする事にしたのである。

そしてテイルが単身見張りを始めて二時間が経過し時刻が午前十一時になった時、テイルの魔力探知でしか反応が無かった魔王軍艦隊がついに動き始めたのである。

まずは当初の予定通りにロイヤルガード三十名がマシンアーマノイドに搭乗しテイル目掛けて突撃を開始、同時に集結していた大艦隊がテイル達を包囲殲滅するために密集隊形から横一列の隊形に変更、最も端に展開した艦からゆっくりと前進を始めたのであった。

これを確認したテイルはすぐにトーブルに通信を入れたのである。


「トーブル隊長、聞こえますか?」


「テイル様!はい、聞こえます」


「敵艦隊が来ます。総員出撃をお願いします」


「…!……わかりました、総員出撃します!」


「頼みます」


この一言でトーブルとの通信を終わらせたテイルはロイヤルガードが接近してくる方向に視線を向けると自身の左腕を天高く掲げると力強く叫んだ。


「いきます、ワイバーン!!」


テイルがそう叫ぶと同時にテイルが左手の中指に嵌めていた指輪が激しく輝き、その光が辺り一面を包み込んだのである。

そしてその光が収まった時、テイルの背後にはワイバーンが出現していたのである。

そしてテイルは、


「はっ!」


という声を上げると同時にワイバーンのコクピット部分の位置まで軽く飛び上がりコクピット部分の外部装甲に手を掛けるとそのままハッチを開いてコクピットに乗り込んだのである。


「ワイバーン起動…いきます!」


テイルの声と同時にワイバーンが起動、テイルとワイバーンはそのまま臨戦態勢に移行したのである。

そしてテイルとワイバーンの臨戦態勢移行から約十分後にトーブル達もシェルター(?)内から出撃、テイルと同様にそれぞれのマシンアーマノイドを呼び出して搭乗、それぞれがテイルの背後を固めるように布陣するとトーブル達もテイルが見詰める先に視線を向けて魔王軍艦隊が現れるのを待ったのである。

テイルは特に気負わずに、トーブル達は固唾を飲んで魔王軍艦隊の接近を待つ中、唐突にテイルが口を開いたのである。


「…来た」


「「「「「「「!!」」」」」」」


テイルがそう言った数秒後、ワイバーンのレーダーに魔王軍ロイヤルガードが操るマシンアーマノイド三十機が次々と表示されていったのである。

その様子を確認したテイルはトーブル達に指示を出し始めたのである。


「トーブル隊長、皆さん、レーザーキャノンの発射準備をお願いします。準備が終わりましたら私の合図で一斉掃射を始めて下さい」


「テイル様はどうされるのですか?」


「私は皆さんの一斉掃射に合わせて敵部隊に突撃を仕掛けます。その後は敵部隊のど真ん中で三十対一の乱戦に移行するつもりです」


「…その状況になっても撃ち続けろと言われますか?」


「当然です」


テイルのこの一言にトーブル達がほぼ当たり前のように浮かんだ疑問を、トーブルが全員を代表してテイルに尋ねたのである。


「…我々がテイル様を誤射した場合はどのように謝罪すれば良いのでしょうか…?懲役五十年とか百年とかでしょうか…?」


「……ぷっ、あはっ、あはははははっ!!」


「…テ、テイル様…?」


トーブルが尋ねた疑問に大笑いしたテイルは笑い終わるとすぐにトーブル達の疑問、と言うよりも不安視している事への返答を始めたのである。


「ごめんなさい、ごめんなさい。…それにしても…笑った笑った。面白かったわよ、トーブル隊長?」


「いや、面白がられるような話ではないのですが…」


「面白い話じゃない。ねぇ?」


「いえ、我々は真剣に…」


「ふぅん?それじゃあ聞くけど演習の最中に私に一発でも当てる事が出来た人がいましたか?」


「え?いや、それは…」


「誰も出来なかったでしょう?」


「は、はい…ですが…」


「それに今から始まるのは実戦です。演習の時以上に集中して戦います。絶対に当たる気はありませんよ」


「ですが…」


「それに三年前の戦いでは三百六十度全方位からの一斉掃射を避けきった事もありましたしね。今回程度ならどうという事はありません。気にせずに撃ちなさい」


「ですが…」


「…トーブル隊長」


「…は、はい…」


「命令です。気にせずに撃ちなさい」


「しかし…」


「命令です!気にせずに撃ちなさい!」


「は、はいぃ!!」


始めの方は渋っていたトーブルだったが最終的にはテイルの二度目の命令の勢いに押し切られてしまい気にせずに撃つ事を約束させられてしまったのである。

その事実に頭を抱えるトーブル達にテイルは穏やかに話し掛けたのである。


「私は心配していません。皆さんはあの演習を最後までやり遂げたんですよ?その皆さんが私を誤射するなどあり得ません」


「「「「「「「テイル様…」」」」」」」


「私は皆さんを信じています。大丈夫。演習通りにやれば今の皆さんなら必ず成功させられますよ」


「「「「「「「テイル様…」」」」」」」


「それに皆さんが撃つレベルのレーザーキャノンの威力なら私の魔導シールドを貫通させる事は出来ませんからね。万が一があっても大丈夫ですよ」


「「「「「「「えぇ…」」」」」」」


と、トーブル達がテイルの最後の言葉にドン引きしたその時。

ワイバーンのレーダーから敵部隊が射程距離内に近付いてきた事を知らせる警報音が鳴り響いたのである。


「来ましたか。では皆さん一斉掃射をお願いします。私はそれと同時に敵部隊に突撃を仕掛けます」


「「「「「「「…了解しました!!」」」」」」」


「お願いします。それとわかっているとは思いますが休まずに撃ち続けると砲身が使い物にならなくなりますからね?適度に冷却作業をしてくださいね?」


「「「「「「「わかりました」」」」」」」


「その辺りの指示はトーブル隊長に任せます。お願いしますね?」


「了解しました」


「よし、では始めましょう。一斉掃射、開始!!」


「「「「「「「掃射開始!!」」」」」」」


こうしてトーブル達のレーザーキャノン一斉掃射が開始されたのだった。

それを見たテイルも作戦行動を始めるのだった。


「さて、それでは…テイル・フェリアシティ!マシンアーマノイドワイバーン!いざ、推して参ります!」


テイルはこう名乗りを上げると予定通り魔王軍ロイヤルガード隊に突撃を始めたのである。

こうしてテイル達と魔王軍艦隊の戦いの火蓋が切られたのであった。

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