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【電子書籍化】多元世界戦記 ~テイル奇譚~   作者: 篠原2
プロローグ 復活と脱出
1/495

発端

色々あって(ありすぎて)久しぶりの作品になります。

(この名前では初めての作品ですが…)

楽しんでいただけたら幸いです。

時は西暦二千四百二十二年。

人間界は西暦二千四百十九年に始まった地球圏戦争(第三次世界大戦)と呼ばれる大戦争で約五十億人もの死者を出しながら未だに戦争終結への道筋が全く見えない情勢にあった。

その一方で精霊界は魔界の軍勢からの猛攻撃を受け、その戦火は精霊界の各惑星国家のほぼ全域に拡大、至る所で戦闘行為が行なわれていた。

そんな精霊界の惑星国家の一つ、源聖エルヴァンディア王国の中の一国家、かつてフェリアシティ王国と呼ばれた土地の一角。

そこにある荒涼とした土地を耕す複数の人影があった。


「先生、こんな感じで良いですか?」


「あぁそうだな。それにしてもディアナちゃんは上手いなぁ…。あっという間に覚えちまったな」


「先生、僕のは?」


「うーん…まぁまぁだな」


「先生俺のは?」


「お前のは…駄目だな。むしろ悪くなってないか?」


「なんでだよ!?」


「畝を見てみろ」


「………見ました」


「感想は?」


「……ねじ曲がってます……」


「良いと思うか?」


「…思いません…」


「よろしい」


そんな周囲を気に掛ける事も無くディアナと呼ばれた少女は黙々と畝を作っていく。


「「綺麗だな-…」」


「お前らも見習え」


「「はーい…」」


ディアナが作る畝の見事さに一同が感嘆の声を上げる中、それまで黙々と作業をしていたディアナが突如としてその手を止めて固まってしまった。


「「「…どうしたんだ?」」」


心配になった一同が声を掛けるとディアナはお腹を抱えながら一同の方に振り向くとこう告げた。


「…お腹空きました…」


そう言われた先生と呼ばれる人物が、自身が持っていた時計に目を向けると時刻は一時を過ぎていた。


「ああ、もうこんな時間か…。よし、昼にするか!」


「「「はーい」」」


こうして一同は昼御飯を食べに近くの小屋に向かっていった。

小屋に着くと持っていた鍬等を小屋の入り口に立て掛け、小屋の中に入ると小屋の中に備え付けられていたテーブルに持ってきていた弁当を並べ椅子に座ると先生が一同を見回して、


「それでは、いただきます」


と言い、続けて一同も、


「「「いただきます」」」


と言ってそれぞれが弁当を食べ始めた。

昼食の時間は三十分程で終わりそれから午前中の作業の問題点やその改善案を話し合い更に三十分程が経過したところで先生が切り出した。


「さて、そろそろ作業を再開するか」


「「「はい、先生!」」」


先生の言葉に一同が元気に返事をして小屋を出て、立て掛けてあった鍬等を手に取ると午前中に自分達が作業していた場所の続きから作業を再開し始めた。


「やっぱり曲がる~」


「何でだよ…」


「先生、出来ました」


「ディアナちゃんは綺麗な上に速いんだよなぁ…」


「先生ー、こっちも出来ましたー」


「…うーん、出来たは出来たんだが…もうちょい綺麗な方が…。まぁ良いか…」


こうして午後からの作業も何事も無く進んでいた時だった。

突然遠くの方から航空機か何かの飛行音らしき音が一同の方に向かって徐々に近付いてきたのである。


「…何の音?」


「戦闘機かな?」


「それにしては音が大きいような…?」


「戦闘機が…複数…?」


一同が近付いてくる音の正体にそれぞれの考えを話す中、音の正体がどんどん近付いてきた。

そうして一同の頭上を飛んでいった音の正体。

それは全長約十八メートルの巨大人型機動兵器、『マシンアーマノイド』であった。

そのマシンアーマノイドが計六機、一同の頭上を越え更にその先へと飛んでいったのである。


「「かっけー!!」」


テンションが爆上がりしたのは一同の男児二人だった。

同じように見ていたディアナは特に感じる物が無いらしく黙ったままだった。

そして先生は一人声を出さずに考えていた。


(自警団仕様のマシンアーマノイドが六機だと…?それに彼らが向かって行った方角は…。まさか!?)


そして考えた結果、ある可能性にたどり着いた先生は慌てて皆に話し掛けた。


「皆急いでここから離れるぞ。最悪の場合この辺りも戦場になる」


「戦場?戦争になるの?」


「さっきの奴等が飛んでいった方角は魔族の支配地域だ。それに自警団仕様とはいえマシンアーマノイド六機は異常だ。十中八九戦闘になる。この辺りに来るまでに逃げるんだ、良いな!?」


「「「は、はい!」」」


こうして一同は鍬等の道具を纏めると小屋の近くに停めてあった車に乗り込むとすぐにこの場を離れ始めた。

そして一同が農作業をしていた場所から離れだして約十分後、この地域一帯に避難警報が発令されたのである。


「避難警報!?本格的に戦争になるの!?」


「わからん!わからんがとにかく逃げるぞ!!」


住民に避難を促す自警団の車数台とすれ違いながら一同の乗った車が指定された避難場所まで猛スピードで駆け抜ける。

そして避難場所の近くまで無事にたどり着いた一同はすぐに避難場所である地下シェルターに向かって行った。

そこには既に多くの住民が押し寄せており一同が無事にシェルターに入れるかは微妙な状況だった。


「…先生…」


「…これは不味いかな」


すぐに良くない事態だと判断した先生は避難している住民の整理をしている自警団と話をしにいった。


「すまん、先に行かせてくれ!」


「それは駄目です!全員がきちんと順番を守って貰わないと!」


「それはわかってる!わかってるがそこを何とか頼む!」


「駄目ですって!」


「おい、何やってる!?」


先生と自警団員が押し問答をしているところに隊長格と思われる自警団員がやってきて二人の押し問答に参加してきたのである。


「すいません。ですがこの方が先に行かせて欲しいと無理を言われるもので…」


「説明する事は出来んのだが急いでるんだ、頼む」


「申し訳ありません、規則ですから」


「……あんたベテランっぽいな?」


「…え?…えぇ、まぁ…」


「…王国時代に兵士だったとか?」


「…えぇ、そうですが…?」


「…なら…権力を使わせて貰うか…」


そう言うと先生は周囲の人の目を気にしながら懐に手を入れるとある物を取り出しベテラン自警団員に見せながら再度頼み込んだのである。


「…私はこういう者だ。先に行かせてくれ、頼む」


「…?…な!?」


そう言って見せられたある物に驚愕するベテラン自警団員。

そのベテラン自警団員に先生は再度頼み込んだ。


「頼む、先に行かせてくれ」


「……わかりました。どうぞ」


「隊長!?」


こうして今度は部下が驚く中、先生はディアナ達を連れてシェルターの中に入っていった。


「隊長、何で…」


「後で説明する。…今は仕事の続きだ」


「…隊長」


「…すまんな」


隊長のその一言で部下の自警団員は今はこれ以上の問答は出来ないと判断して自分の仕事、避難民のシェルターへの誘導を再開させるのだった。

一方で順番抜かしをした形の先生にディアナが不安そうに声を掛けた。


「先生、大丈夫なんですか…?」


「ああ、大丈夫だ。何も問題は無いぞ?」


「そうなんですか?」


このディアナの言葉に反応しようとした先生に別の少年が声を掛けた。


「それより先生、何を見せたんだ?」


「そうそう、自警団の人があっという間に先に行かせてくれたし…」


「…先生?」


少年の質問にディアナも興味津々な様子で先生を見る。

その複数の視線に後ろめたい感情を抱きながら先生は、


「…まぁ、昔ちょっとした知人から貰ったフリーパス券?みたいな物を使っただけだ。そう気にするな」


と、言うとそのままどこか遠くを見るような感じで思い切り目を反らしたのである。

その様子を不審がって更に質問しようとしたディアナ達だったが先程のベテラン自警団員とその部下がディアナ達のいる場所にやって来た為に中止となった。


「やぁ、避難誘導は無事終わったみたいだな」


「ええ、全員無事に」


「それは良かった」


「ありがとうございます。…で、先程の事について色々と聞かせてほしいのですが…?」


「…さっきもこいつらに聞かれて困ったんだよ。出来れば詮索せんでくれると助かる」


そう言って先生が視線を向けた先にはディアナ達が興味津々といった表情で先生を見詰めていた。

その様子を見たベテラン自警団員は今はこれ以上の質問を止める事を決意して以後はディアナ達の側で避難警報が解除されるのを待つ事にしたのだった。



----------



一方その頃地上では……



「隊長、終わりましたぜ」


「ご苦労」


「ったく、雑魚共が手間取らせやがって…」


「ふむ、まだまだ訓練が足りんらしいな?」


「た、隊長!?い、いえ、そんな事は!」


「ならば雑魚に苦戦などするな」


「…了解しました」


ディアナ達が避難したシェルターの上空でホバリングしながら会話する八機のマシンアーマノイドのパイロット達。

第一目標である敵先遣部隊の殲滅任務を完了させた彼等は次の攻撃目標に関する情報の再確認を始めたのである。


「隊長、次の攻撃目標は地下でしたね?」


「ああ、そうだ」


「フェリアシティ王国の秘密兵器がかつての王国の土地の地下にある、ねぇ…?マジなんすか…?」


「有ろうが無かろうが関係ない。この周辺一帯を破壊すれば良いだけだ」


「了解っす」


「隊長、航空機隊への指示はどうしますか?」


「居住区域への爆撃が終わり次第順次帰投させろ」


「了解です」


「…にしてもこんなボロボロなのに何でわざわざここに家建てるんすかねぇ?」


「…どれほど荒れ果てていても故郷は捨てられん、そういう事だろう」


「そんなもんっすか…」


「そんなもんだろう…。…さて、無駄話は終わりだ。仕事の続きを始めるぞ」


「はい!」


「了解!」


「うっす!」


隊長の言葉に部下達が応える。

続けて隊長が全員に攻撃命令を下す。


「総員、大型バンカーバスター発射用意」


「「「了解!発射用意!」」」


「大型バンカーバスター…発射!!」


「「「大型バンカーバスター、発射!!」」」


…こうしてディアナ達が避難しているシェルターの近くに大型バンカーバスターが撃ち込まれたのだった…。



----------



一方その頃シェルター内では……



ディアナ達の避難しているシェルターの上部からズドドドドドドーーーン!!!!!!!という凄まじい爆発音が響くと共にシェルターの上部からミシミシ!!とシェルターが激しく軋む音が聞こえてきた。


「キャアアアアア!!」


「お母さん怖いよ-!!」


「僕達死んじゃうの!?」


突然の爆発音と衝撃に避難している者全てがパニックになる中、先生がベテラン自警団員に声を掛けた。


「今、何をされたか分かるか?」


「…はっきりとは言えませんが…バンカーバスターを使用したのではないかと…」


「…バンカーバスター?…それは…どういった物なんだ?」


「地中貫通爆弾と言って地下深くの目標を破壊する為の専用の武器です。種類にもよりますが中には地下七十メートルまで到達する物もあるとか…」


「地下七十メートル!?嘘だろ!?」


「そういう物もある、という話です。実際に今使われている物かどうかは…」


ベテラン自警団員が話していたその時再びズドドドドドドドドーーーン!!!!!!!!という凄まじい爆発音とシェルターが軋むミシミシミシ!!!という音の二つが聞こえてきた。


「キャアアアアアアア!!!」


「うわーーんお父さーん!!!」


「まだ死にたくないよ-!!!」


再び響いた死を予感させる二つの音に避難民達が再びパニックになる中、一般自警団員とベテラン自警団員の二人は比較的冷静に状況の確認を始めた。


「…隊長、さっきより爆発音が近かった気がするんですが…」


「…ああ、近かった」


「…という事は…?」


「一発目よりも掘り進んでいる、という事だ」


「そ、それではこのまま撃たれ続けたら…」


「…シェルターまで到達するだろうな…」


「…このシェルターってバンカーバスターに耐えられるんですか…?」


「…難しいだろうな…」


「ええ!?」


「そもそもバンカーバスターはシェルター等を破壊する為に作られた物だ。直撃すれば破壊される可能性は高いと思って良いだろうな…」


「…そんな…。それじゃあここから逃げた方が良いのでは…?」


「地上に出た時を狙い撃ちされればあっという間に終わるぞ…?」


「……そんな……」


「…奴等が我々をここに追い込んでバンカーバスターを使い始めた時点で詰みだったのだろうな…」


「……………」


ベテラン自警団員の説明に絶望感を深める一般自警団員。

その二人の話を横で聞き、一般自警団員の心が折れる様を見た先生は一瞬だけディアナに目を向けて一人静かにある事を考え始めた。


(…この状況を覆す手は有る。あの方なら一切の躊躇無くこの場にいる全員を助ける為に動かれるだろう。だがそれは同時にこの娘の平穏な生活の全てを奪い去る、という事と同じという事だ…。すぐには決断出来ん…。だがもう時間が無い…。どうする?…どうする!?)


先生が苦悩を深める中ディアナが口を開いた。


「…先生、何か私に言いたい事があるんじゃないですか?」


「…え?」


「違いますか?」


「い、いや…」


「…先生」


「…何だ」


ディアナは一呼吸置いて先生の目を真っ直ぐに見詰め、話し掛けた。


「…死んでしまったら、全部終わるんですよ?」


「………」


「話して下さい」


このディアナの言葉に先生は大きな溜め息を一つ吐くと観念したように話し出した。


「…一つだけ…たった一つだけだが、この状況を覆す手が有る」


「な!?」


「はぁ!?」


先生の言葉に反応したのはベテラン自警団員と一般自警団員だったが先生とディアナはそれを無視した。


「どんな方法なんですか?」


「…その前に確認だ、ディアナ。その方法を教えたらお前はそれをやるのか?」


「やります」


「それがどんな方法でもか?」


「やります」


「その結果、お前が死ぬ事になってもか?」


「それでここにいる皆が助かるなら構いません」


このディアナの返答に先生は心の中で頭を抱えて心の中で呟いた。


(全て即答か…。やれやれだな…)


そうして再度大きな溜め息を吐くとディアナに告げた。


「…わかった。それじゃ始めるか…」


先生はそう言うとディアナの目の前にしゃがむと右手をディアナの顔に触れさせ、左手をディアナの耳のすぐ近くで止めたのである。


「…?…あの、先生?」


そして困惑するディアナに声を掛けた。


「大丈夫。さぁ私の目を見て」


「…は、はい…」


「よし。今から三つ数えると貴女の記憶が戻ります。いきますよ?三、二、一、はい!」


そうしてはい、と言ったと同時に先生はディアナの耳のすぐ近くに止めていた左手の指を鳴らしたのである。

その瞬間、ディアナは一度ビクッ!と身体を震わせた後は何も言わずに一点を見詰めたままピクリとも動かなかった。


「…さて、催眠術は解けたかな?」


そのディアナの様子を見ていた先生が一言呟くとディアナに問い掛けた。


「…わかりますか?…『テイル』様?」

次話投稿はストックがある限り二日に一度のペースにしようと思っています。

ですので次話の投稿は二十二日金曜になります。

よろしくお願いします。

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