054
森のほぼ中央に、トリアードの眠る大樹が生えていた。
神聖という言葉が、ぴったり当てはまる空気感だ。
グレゴリアムとの戦いの後、大樹のそばはひっそりとしていた独特の空間。
少し広場が開いていて、日が射してくる。
「やっぱりここにいたのか」
ボクは、一人の人間を見つけた。
大樹を見上げている、着物を着た黒髪の女。
「オジミ」
「フォーゴか、木は……この森は巡る」
「命の輪廻か?」
「ああ、バンガディの古い言い伝えだ」
オジミの顔は、灌漑に浸っていた。
「だが、今ならその話も理解できる」
「オジミ、これからどうするんだ?」
「バンガディか?」
彼女の一族は、多くが滅ぼされた。
グレゴリアムとの関わりもあり、ライラクとの力関係は弱まっていた。
それでも、バンガディの種族は風前の灯火だ。
「向こうの長も、しばらくはあたしたちのほうに手を出さないみたい。
最も、ライラクだって長がいなくなって大変だろうし」
「戦うのか?」
「加護を得られなければ、いずれ戦うこともあるかもしれない」
オジミは、悲しげな顔を見せた。
「そうか……」
「だが、それは遥か未来の話になるだろうな」
オジミの言葉に、ボクは驚かされた。
「どういうこと?」
「今は、戦うことよりも和平を結んでいる。
恒久的……とまではいかないが戦うことはないだろう」
「そうか……それはよかった」
「これもお前のおかげだ」その言葉は早口で、小さい。
「オジミ?」
「感謝している」背を向けたオジミは、つぶやいていた。
「ああ、ボクも助かった。シラキと仲良くな」
「無論だとも、あんなかわいい子」
「え?」
「いや、何でもない。フォーゴ、それより本当に行くのか?」
「うん」オジミは振り返り、ボクを見ていた。
冷めた目だけど、どこか悲しそうな顔をしているオジミ。
「大丈夫、ボクもいつか帰ってくる。必ず」
「フォーゴ、そうだな」彼女の顔は、何かを吹っ切った顔にも見えた。
「わかった、この森は……バンガディは任せておけ」
「ああ、それじゃあな」
ボクはこうして、大樹とオジミに背を向けた。
それは、ボクの旅の続き。
魔王の卵を撲滅するために、ボクは旅を続けていくのだった。




