042
トリアードというのは、森の精霊。
この森で、絶大な影響力を持つ。
この大森林の全ての人間は、トリアードを崇め奉っていた。
まさに、この大森林の中でトリアードは全知全能の神だ。
手を上げて、枝が迫る。狙うのはボクだ。
「やっぱりね」
走りながら、ボクは枝から枝越しに逃げていく。
軽快に走りながら、右手に杖を持って駆け抜けていく。
それでも、狙いの精度は悪く……攻撃は当たらない。
(ん、攻撃の精度が低いな)
ボクはそう思いながらも、走って距離を取っていた。
状況を理解できていない、シラキ。
その場に立ち尽くすシラキは、ボクを狙うトリアードをぼんやりと見ていた。
「巫女よ、感謝する。精霊トリアードを呼び出してくれたことを」
「どうしてそんなことをするの?」叫ぶシラキ。
「体だよ」精霊女王のトリアードは、男の声で答えた。
宿り木を持ったシラキは、悲しそうな顔をしていた。
「体?」
「俺の名前は、グレゴリアム。神に嫌われし者、疎まれた存在」
「本当に、魔王なのですか?」
「魔王……いい響きだ。
この地を根城にして新たな魔王になるのも、いいかもしれない」
不敵に笑ってみせる、トリアードの姿をしたグレゴリアム。
その邪悪さは、私にも分かる。極めて危険で、邪悪な存在。
「シラキ、そいつから離れろ!」
走り回るボクは、叫んだ。
トリアードのそばにいるシラキは、呆然と見上げていた。
ボクの追撃が弱まる反面、枝の何本かがシラキに向いてきた。
「でも、もう巫女は必要ないからな」
「え?」そのままトリアードが枝を操る。
太い枝を、シラキに向けて突き刺してきた。
ボクは迷うこと無く、シラキの方に駆け込んだ。
キョトンとした顔で、立ち尽くすシラキ。
ボクはそのまま、シラキのそばに走っていた。
(こんなこと、天才魔法使いのすることじゃないよな)
ボクは、走ってそのままシラキに向かって飛びついた。
飛びつかれたシラキは、驚きの顔でボクを見ていた。
ボクはシラキに飛びついて、そのまま太い枝に倒れ込む。
シラキは、驚きの顔でボクの方を見ていた。
「フォーゴさん!」現実を理解したのか、シラキが叫ぶ。
彼女が先ほどまで立っていたあの場所には、砂埃が舞い上がった。
トリアードの枝が、槍のように突き刺さって枝の地面を貫通していた。
「大丈夫か、ううっ……」
ボクは、右足に痛みがあった。
転んだ擦り傷ではない、枝の針の一本が右のすねをしっかり貫通していた。
血が流れ、動くだけで痛い。
「フォーゴさん?」
「平気平気……それよりシラキ……」
左目をつぶり、痛みを必死にこらえるボク。
シラキは心配そうな顔で、ボクを見ていた。
「待ってください、今傷を……」
シラキが倒れる僕から抜けだし、ボクの右足に右手をかざす。
その瞬間、暖かい光がボクの右足に流れ込んできた。
(どういうことだ?)
ボクは疑問が残りながらも、シラキの奇跡の力で傷が治っていくのが見えた。




