004
ボクが次に目を覚ましたときは、体はベッドの上にあった。
「え?」驚きがあったボクのさらに目の前には、もう一つ驚くことがあった。
ボクの目の前には、金髪少女のドアップがあった。
青く大きな垂れ目に、長いサラサラの金髪。
清楚な若い女のドアップを見て、ボクは単純に驚いた。
「おわっ!」取り乱したボクは、思わす体を起こした。
だけど、大きな彼女の頭にぶつかった。
ゴチン、鈍い音がした。
「きゃっ!」
「うわっ」お互いの頭が当たり、互いに違った。
ベッドの上にいたボクは、頭を抱えた。
「痛いですよ……」女の子も頭を抱えて痛がる。
「なんか、ごめん」
「うん、でも……」
頭を抑えていた金髪の女は、痛みが落ち着いたのか穏やかな顔を見せた。
彼女の背後には、木製の天井や壁が見えた。
壁の外には、大きな窓も見えていた。
時間は昼間なのだろうか、日が窓に差し込んでくるのがみえた。
「無事で良かったです」金髪少女は、すぐに笑顔を見せてくれた。
「かわいい」
「え?」
「あ、いや、すごい……かわいい子だ。ここは天国か?」
「違いますよ」少女は否定した。
「だったら、そういう店か?女の子が世話や解放をする」
「何の店ですか?」きょとんとした顔で、金髪の少女が首を捻った。
「いや、その……なんでもない。
それより、ここは一体どこなんだ?」
「その前に、まずはあなたが名乗るべきではないでしょうか?」
「ああ、そうだったね。ボクはフォーゴ・エウメデス。
旅をしている、ただの魔法使いさ」
体を起こしたボクは、右手人差し指を口元に持ってきて右目を閉じてウィンク。
しかしボクの姿を、少し険しい顔で見ている金髪少女。
「あ、今の自己紹介ですか?フォーゴさん」
「まあ、そんなところだよ。君は?」
「私は、シラキ・ハーベルデルスです。このライタルクに暮らすモノです」
「シラキ……ハーベルデルス?ライタルク?」
だけど、ボクが疑問をするよりもまずは大きな腹の音が聞こえた。
グウウッと空腹が、ボクの背中とお腹をくっつけそうになる。
「これ、食べてください」
シラキがすぐそばにあるトレーを、ベッドの上にいる僕の前に差し出す。
そこにはパンや、木の実が山ほど摘まれていた。
ボクは、圧倒的空腹の前に、パンや木の実をむさぼり食べていく。
なんてうまいんだろうか。
それでも空腹が勝るので味わう余裕もないけど、次々と口の奥に、腹へと押し込んでいく。
「あらあら、凄い食欲ですね」微笑むシラキ。やはり穏やかでかわいい。
「飢えていたからね」ボクは食事を食べる手を、止めない。
パンをむさぼり、木の実を口に頬張っていく。
あっという間に、全てのトレーの上にあるパンも木の実も平らげた。
「あなたが、大森林で倒れていたところを助けたのです」
「そうか、ボクはどうやらツイているようだ」
木の実を丸呑みしたボクは隣にいるシラキを、チラリと見ていた。
ベッドの隣で立っているシラキは、純粋にかわいい。美少女だ。
ピンクの花の髪飾りを金髪で、清楚な顔つき。
白いブラウスを着ていて、長いスカート。完全に美少女だ。
「ツイている?」
「美少女に助けられるとか、ベッドで看病されているとか、やっぱりボクは持っているな」
「何を持っているんですか?」
「ああ、いや……君がかわいいからね」
「人を見た目で判断するなんて、最低ですね」
美少女シラキは、ボクを侮蔑する目で見ていた。
「あ、マズかった?ごめん」素直に謝った。
「いえ、私の方こそごめんなさい。ちょっと前に似たようなことを言われたので。
それにあなたの寝言……ですけど」
「寝言?」
「何か、うなされていたようですね。
まるで、『大森林の呪い』にかかったのではないかと……」
「『大森林の呪い』?」
「この森『トリアード大森林』には、いにしえより呪いがかかっています」
「『トリアード大森林』?」
「はい、『トリアード大森林』です」
その名前は、初めて聞いた名前だ。
この大森林は、世界のほぼ中央にある。
いくつもの国にまたがっているが、特定の名前はついていない。
世界の各国は、『大森林』とか『樹海』とか呼んでいるが未開の地とも言われている。
ボクもこの大森林に入る前に、いろいろと情報を集めていた。
だけど、モンスターの聖域という情報以外得られるモノがなかった。
この大森林に現れるモンスターは、かなりの強敵だ。
普通の世界に現れるモンスターよりも、独特の進化をしていてかなり強い。
それだけに、各国も調査が進んでいないのだろう。
「いろいろ驚きなのだけど、君はここの大森林に住んでいるの?」
「そう、私は『トリアード大森林』のライタルクに住んでいます」
「ふむ。君は、この大森林を出たことは?」
「ありません」キッパリ否定するシラキ。
シラキの言葉を聞きながら、ボクは頭の中を巡らせた。
考え込むボクを見ながら、シラキは不思議そうな顔でボクを見ていた。
「どうした、やっぱりかわいいボクに見とれているの?」
「そ、そんなことはありませんよ!」否定したシラキは、かわいく口をとがらせた。
「じゃあ、なんでボクを見たんだい?」
「いえ、あなたはどこから来たのですか?」
「ボクかい?ボクはこの大森林の外から来たんだ」
「どうして、この呪われた森に?」
「単なる迷子さ」だけど、これは嘘だ。
「そう……迷子。それは仕方ないですね」シラキは、素直に信じてくれた。
それでも、ボクはある仮定を頭の中で組み立てている。
(この集落が……大森林の中に人が住んでいるとなると……ヤツがいるかもしれない)
だから、素直に目的を話すことはできない。
シラキを観察しながら、探りを入れることにした。
「ねえ、それより不思議な力を持っている人とか……心当たりない?」
「多分、それは私です」
シラキは、自分の顔を指さしていた。
あっさりと白状したことで、ボクは首をかしげた。
「シラキさん、君が?どんな能力を?」
「それは……待って!」
シラキがいきなり、ボクの事を制した。
「シラキさん?」
「フォーゴさん。私……呼ばれたから、行かなくてはいけません」
「行く?呼ばれた?」
だけど、この部屋にはボクとシラキしかいない。
声は聞こえなかったし、人の気配もない。
それでも、シラキは静かな空間の中で耳を澄ましていた。
「何も聞こえなかったよ?」
「私、行ってきますね!」
何やら、ボクから避けるようにシラキが背を向けた。
そのまま、シラキが部屋を駆け足で出て行く。
ドアを開けたまま、急いで部屋の外に消えていった。
一人ベッドに残されたボクは、苦笑いをしていた。
(嫌われた……かな。師匠にも、あんな大事なことを言われたのに)
しばらく、ボクは空になったトレーを見ていた。
お腹は満たされたけど、寂しさが残った。
数秒後の沈黙の後、開いたドアの方から人の気配がした。
「やあ、やっと目を覚ましたのか」
ドアを開けると、一人の男が部屋に入ってきた。




