031
ハジカミに攻撃されて、大けがを負ったムリロジ。
布団に寝かされた老人は、体を起こしていた。
包帯を巻かれて、弱々しいムリロジはそれでも鋭い目でボクを見ていた。
「なんですか?」
「ライタルクに、行くのか?」
「ああ、知り合いもいるな」
「ライラクなのか?お主?」
ムリロジが睨んでいた。警戒心を、あらわにしているようにも見えた。
空気がヒリつくテント内、オジミはオロオロしていた。
「違うよ、ただボクはライラクで一人の少女に助けられた。
シラキという少女にね」
「シラキ……お前が」
シラキの名前に、ムリロジもオジミも反応した。
それもそのはずだ。シラキこそ、唯一のこの大森林内で生きている巫女なのだから。
「なぜ、お前がライラクの巫女に?」
「助けられたのだから仕方ない。
ボクは美少女に助けられる運命にあるようだ、かわいいからね」
「その一言は余計です」
オジミが、なぜかボクを冷たい目で睨んできた。
「まあ、彼女を救うのもボクの目的の一つではある。
シラキって、本当にかわいいから。マジ天使だから」
「本当に、お前は助けるつもりか?」
「儀式を終わらせるのは、ボクの目的。
ついでに、ライタルクに戻ってボクの目的の魔王の卵を除去できれば最高だ。
うん、ボクは実についているよ」笑顔で言うボク。
「ライラクを、このまま敵に回すというのか?」
「まあ、シラキを苦しめているならそうするし。
魔王の卵が、裏で糸を引いているならシラキに関係なくボクは戦う。
それがライラクであっても、関係ないね」
「愚かな……」ムリロジが、元気なく言葉を吐いた。
だけど、ボクは笑っていた。
「一体何が、愚かなんだい?」
「ライラクは、今やこの大森林で最強の加護を得た選ばれし民になる。
儀式を行えば、何人たりともライラクに逆らうことはできぬ。
我らは魔獣に滅ぼされて……」
「で、滅びを待つのかい?」
ボクの言葉に、ムリロジは深いため息をついた。
「もう、終わったのじゃ。儀式が行われば……いや、儀式は行われる」
「どこで行うんだい?」
「『大樹の天秤』」
「じゃあ、そこに行けばシラキに会えるんだね」
ボクは嬉しそうな声で、言葉を返した。
「やめておけ、あそこにはライラクの警備兵が守りを固めている。
お前が勝てる見込みは……」
「ならば、あたしが行きます!」
そこで叫んだのは、オジミだった。
「オジミ……」
「ムリロジ様、儀式が完成されればあたし達は確実に滅びます。
だとしたら、今しかチャンスはありません。彼の言うとおり……」
「だが、バンガディに余っている戦力は無い。
戦える者も、誰も残っておらぬ」
「あたしは戦えます」
オジミは胸を張って、ムリロジに言い返す。
「オジミ……しかし戻ったばかりで傷も負っているのでは無いのか?」
「はい、でも今……ここで戦わなければ終わってしまいます。
痛いとか、言っていられません」
オジミの左脇腹にも、包帯が巻かれていた。
止血はしてあるが、傷は残っている少女。
「オジミ……」
「それに、フォーゴは『大樹の天秤』を知らないでしょう」
「あ、そういえばそうかも」
「フォーゴ、ここはあたしに先導をさせなさい。
大丈夫、いい近道を知っているから」
「それは頼もしいね。なんかオジミとまたデートできるの、楽しみだよ」
「で、デートじゃ……ありません。軽薄です」
相変わらず冷淡な目で、ボクを見てくるオジミ。
それでも、いつも通りのオジミの反応で安心した。
「そうじゃな、オジミ……フォーゴ殿……頼めるか?」
「ええ、任せてください。オジミはいい嫁に……」
「なりませんから、行きましょう!」
オジミは、すぐにボクを置いてテントを出て行く。
着物姿のオジミを出て行き、ボクも小走りで出て行った。
そんなボクらを、一人ムリロジが布団の上から見ていた。
(大丈夫なのだろうか)一抹の不安を残しつつ、ボク達を見ながら。




