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大森林で出会う  作者: 葉月 優奈
二話:敗者の里の人と出会う
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023

――小瓶の薬を飲んだ瞬間、私は意識が飛んでいた。

そして、次に意識を取り戻した瞬間に私は暗闇の中にあった。


暗闇が晴れると、そこは森の中だ。

ただ、そこは鬱蒼とした森の中ではない。

木々が立ち並ぶ中でも、日が差し込む程度にそこだけ樹がない広場。

広場の中央には、一本の大きな大樹の前に私は立っていた。


「ここは……なぜ」

「君は、この力が好きなのかい?」

大樹の後ろから出てきたのが、フォーゴだ。

いつも通りの白いシャツに、深緑の短パン。杖を持った茶髪の青年。

だけど薄ら笑いの顔ではなく、真剣な真顔で私の方を見ていた。


「あなたは、なぜ?」

「君の答えを、まだちゃんと聞いていないから。この場所で、聞こうと思ってね」

「『大樹の天秤』で?」

私は、この場所を知っていた。

それは初めて奇跡の力を得たときに、多くの大人と一緒に来た森の奥。

森の周囲は、木々が立っているが不自然なほどの小さな広場。

他の木々が避けるような中で、一本だけ立っている大きな樹が見えた。


太く大きな樹には、僅かに枝が二本だけ。

右と左に、太い枝が伸びた大樹。

人間の手のように伸びた二本の枝、左の枝は上に伸びて、右の枝は垂れ下がっていた。


「この大樹は、トリアードを守護する民の力関係を示す天秤……それが『大樹の天秤』」

「君にも、天秤があるんじゃないのか?」

「私の天秤?」

フォーゴは、静かに頷いた。


「君には、二つの選択肢がある。

巫女として儀式を行うか、君の好きな奇跡の力で多くの人を救うのか」

「私の好きな……奇跡の力」

そうだ、私は奇跡の力が好きだ。


人を癒やし、笑顔にする力。

巫女であり、この特殊な力で多くの人を救ってきた。

トリアードに加護を取りつけることで、私は巫女としての力を失う。

奇跡の力を失えば、私は普通の女に戻ってしまう。


「巫女で、あり続けたい……」

「だとすれば、その力を失うわけにはいかないよね?」

「それはできない」私は、巫女の存在を理解していた。

トリアードの加護は、ライラクが種として残るために必要だ。

バンガディより、よりよい生活……よりよく生きるためにライラクが、加護を手に入れないといけない。

巫女の伝統は、二百年以上続く歴史だ。

ライラクが、この呪われた森で生き残る唯一の方法。

トリアードを守護する二つの民は、加護を競い合ってライラクが今の繁栄を手にしているのだから。


「私が巫女として……義務を果たさないといけません」

「その葛藤を、君はボクの前で口にした」

「フォーゴさん、あなたに何が……分かるのですか?」後半のトーンが、明らかに弱くなる。

心と裏腹に、自分の中に不安があった。

言い切れない自分が、そこにはいた。


「多分、分からない。

ボクはそんなつまらないことで、悩んだこともないから。

ボクが身につけたこの力は、ボクが手に入れた望んだ力。

君の奇跡の力も、そうじゃないか?君が得た力じゃないのか?」

「うん!私の力」

「だったら、迷うことは……」

「だから、困るのよ。私の力は加護で使うし、それでも奇跡の力は好きで……」

「それでも、答えは出ているはずだ。

ここにボクがいると言うことは……ボクは……」

だけど、私の目の前のフォーゴが薄くなった。

幻影のフォーゴの姿が、存在が、消えていく。


「ちょっと、待って!まだ問題は何も解決していない!」

「大丈夫、君はもう迷っていない。だから……」

最後に何かを言ったようだけど、フォーゴの言葉は私に届かなかった。

それと同時に、私の周りが白い光が迫ってきた。

森の景色が高速で動き、何かに引き寄せられていく。

そうだ私は、この変な世界から現実に引き戻された――



現実に戻った時は、私の体はベンチの上にいた。

ベンチの上では、ラクウが心配した顔で私を見ていた。


「大丈夫か、シラキ」ラクウの心配する声が、私に向けられていた。



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