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大森林で出会う  作者: 葉月 優奈
二話:敗者の里の人と出会う
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ボクは、横たわるオジミを看病していた。

真っ赤な血が脇腹や口から流れ、苦しそうな呼吸を見せていた。

少し離れたところで、顔が切られて黄色い血だらけの巨大牛……光の魔獣(ゴールドバッファロー)の骸が転がっていた。


「ボクには、『奇跡の力』はない」

「大丈夫だ」意識が微かにあるオジミは、弱々しい声でボクに応えた。

「まあ、それでもボクは旅慣れているからね」

「何をしているのですか?」オジミの着物を、ボクは脱がしていた。

「応急処置だ、しないといけないだろ」

オジミは冷めた目で、ボクに言ってきた。

だけど、ボクは傷だらけで動けないオジミをよそに体を動かす。


「こら、やめろ。ううっ……」

痛そうな顔で、嫌がるオジミ。

それでもダメージが大きい彼女は、素直にボクに身を任せていた。

ボクは嫌がるオジミの体を、自分の方に向けさせた。

左脇腹を見て、赤い血が流れていた。

血だらけの着物の帯を、腰からずらす。


「ああっ、フォーゴ……痛い」

「酷い怪我だね」

着物のオジミの服、傷の辺りを脱がす。

左脇腹が見え、角が突き刺さった跡と擦り傷が見えた。


「いいわよ、こんなの……」

「よくない、オジミは女だから!」

「女だから……男に触られたく……ないのに」

照れた顔で言葉を濁すオジミ、それでもボクは自分のシャツを破く。

そのまま、腰にあるポーチから一つの薬品を取り出した。

破いた布に薬を染みこませて、患部に当てていた。


「あっ!」かわいい悲鳴をもらすオジミ。

ビクンと、小さく揺れていた。

ボクはそのまま着物の帯を、傷当てをした場所に固定するようにずらしていく。


「帯は絶対ずらすなよ、薬の効きが悪くなるから」

「うん」オジミは、照れた顔を見せた。

「師匠特性の魔法薬(ポーション)だから、傷の回復は早いと思う」

「そうなの?」

オジミは疑問の顔で、ボクの顔を逸らす。

少しすねた顔が、女性らしくかわいい仕草だ。

先ほどまでに、巨大牛と戦った殺意みなぎる目つきとはまるで違う。

同一人物とは思えないほどの、落ち着きというか……照れた様子でボクに背を向けていた。


「でも、ありがとう」着物を整え、すぐに立ち上がるオジミ。

血で濡れた着物だけど、止血はできている。

「歩けるか?」

「無論だ、ここまで来たら絶対に帰らないといけない」

彼女の胸には、光り輝く精霊の宿り木(ホヤ)がある。

奪ってきたこの宿り木を、彼女は命がけで運んできた。

オジミが大事そうに持つ光る宿り木、ボクは気になったことを口にした。


「そういえば、その宿り木は巫女が使うんだろう。

バンガディにも、巫女はいるのか?」

「いません」即座に否定のオジミ。

「いないのになぜ?」

「精霊の日まで、儀式を行わせてはいけないから。

別に|あたし達『バンガディ』が使うわけではない。

そもそも、あたしたちバンガディは精霊の宿り木(ホヤ)を使えない」

首を横に振るオジミ。


その後、数秒間沈黙が続く。

地下樹洞に、ボクとオジミの足音だけが響く。


「巫女が、生まれないのか?」

「詳しくは、御館様に聞いてくれ」

「え?」オジミは、吐き捨てるように言う。

その後、ボクらの前には光が差し込んできた。

光のある方を、ボクとオジミが突き進む。


突き進んだ先は、地下樹洞を抜ける上り階段。

木製の階段を抜けた先には、外に続いていた。

外を出た先の空は、朝日が既に出ていた。

朝日を見ながら、オジミは一言、こう言った。

「ライラクの巫女は、生まれすぎるのよ」と。



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