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大森林で出会う  作者: 葉月 優奈
二話:敗者の里の人と出会う
19/54

019

立ちつくすオジミの持っている刀は、黄色い血がしたたり落ちていた。

それ以上に、立っているオジミの目が鋭い。鋭いが、彼女は負傷したままだ。

雰囲気も異様で、威圧感を放っているかのようだ。

巨大牛は、オジミの一撃を受けて怯んでいるようにも見えた。


「オジミ?」

だけどボクの言葉に、オジミは一切反応しない。

ボクを完全に無視して、巨大牛を黙って見上げていた。

怪我を負ったオジミは、それでも巨大牛に無言で飛び込んでいく。


「無茶だ!」と叫ぶボク。

ボクの制止を振り切るオジミは、先ほどのスピードよりさらに早く、高くジャンプをした。

巨大牛は、右脇腹に黄色い血を流したままオジミを追いかけていく。


双方、怪我を負っていた。動くだけで、血が流れる。

血が流れる中で、赤と黄色の血が土を濡らしていく。

それでも、オジミは広い洞窟の壁を伝いながらジャンプで近づく。


巨大牛も、大きな体を洞窟の壁にぶつけていた。

巨大牛の体当たりで、オジミを叩き落とそうとする。

でもオジミは、両足で壁に貼りついていて、落ちない。

次々と壁に飛び乗って、巨大牛の動きを避けていく。


(さっきの攻撃はオジミの刀か、一体どういうことだろうか?)

だけどボクはそんな戦いを、ぼんやり見ている訳にはいかない。

敵がボクを襲わない以上、魔法の詠唱ができる隙があった。


怪我をしたオジミは、巨大牛を引きつけていた。

素早く動き、壁か壁に飛び乗っていく。


それでも巨大牛は、次々と重い攻撃を繰り出す。

オジミは、巨大牛の背後を取ろうと巨大牛の右横の壁に飛び込んでいく。

だが、巨大牛はその僅かな隙を逃さない。


「っ!」巨大牛が黄色い血の出る大きな脇腹で、狭いオジミの進路を防ぐ。

巨体を生かしたタックルで、オジミごと強引に壁に押しつけてきた。

右脇腹のタックルをさせたオジミは、壁に叩きつけられてそのまま落下。

左膝を曲げて膝をつく、着地の衝撃を抑えたオジミ。


だけど、巨大牛はすぐさまオジミを蹴り飛ばそうとした。

太く大きな右足で、オジミを蹴り飛ばそうと足を伸ばす。


それでも、オジミは鋭い目で巨大牛の足を後ろに飛んでかわした。

巨大牛の右前足が、巨大牛の前で前のめりに突っ込む。

足に力を入れて、なんとか踏ん張る巨大牛。


「木の根よ、かのモノの動きを封じよ。『ウッドバインド』っ!」

オジミと巨大牛の戦いのやりとりを、遠くで見えたボクが一つの魔法を完成させた。

両手に持った杖を、前に突き出しグルグルと宙で回す。


すると、洞窟の壁や天井にある巨大な木の根っこが別の生き物であるかのように伸びていく。

伸びた木の根っこが、前足でバランスを崩す巨大牛の体を掴んでいく。

四本の足に、太い木の根っこが何本も絡み合っていた。

巨大牛の体の自由を、ボクの魔法で奪っていく。


「オジミ、いけるか?」

ボクの言葉に、彼女の返事はない。

だけどオジミは、ボクの言葉をすぐに理解して静かに刀を抜いた。


巨大牛の目の前に立ち、しゃがむオジミ。

縛られた巨大牛は、木の根っこを振りほどこうと歯を食いしばった顔に変わっていた。

オジミは、そのまま牛の顔に飛び込んだ。

刀を抜いて、その刀を牛の顔の前で弧を描くように刀を動かす。


しなやかに、アクロバティックに背面跳びをしたオジミ。

そのまま、着地と同時に刀を鞘に収めていた。


同時に、牛の顔には三日月のような斬り後が見えた。

斬られた牛の、太かった右角も折れて落ちていた。

同時に牛の顔から黄色い血が勢いよく飛び出してきた。


「オジミ……」

ボクは、彼女に声をかけた。

だが、オジミは呼吸を突然乱していた。

怪我をしたのを急に気づいたかのように、いきなり左脇腹を押さえてその場に倒れてしまった。



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