011
夜の中だけど、ここは畑だ。
明かりがほとんどない暗い場所に、明かりを持った男と一緒に現れたラクウ。
ラクウの顔は、ボクに対して特に険しい顔に見えた。
「やっぱりお前は、グルだったのか!」再び叫ぶラクウ。
「グルって?」
「そこの女の仲間だろう、盗人の!」
怒りに震えたラクウが、剣を抜いて向かっていく。
すでに、彼の顔には冷静の二文字はなかった。
「ちょっと待ってくれ、あそこには光の魔獣が……」
ボクが指さす先には、前足を突っ込んでもがく光の魔獣がいた。
まだ、穴は有効で巨大な牛は足止めできているのだが。
だけどあくまで足止めだ。
後ろ足でもがいて、何とか立ち上がろうとする巨大牛。いつ出てくるか分からない。
「魔獣?ああ、いるみたいだな」
「ここは、まず一旦戦闘を休戦して……」
「残念だけど、そのまえに盗んだものを返してもらおうか」
ラクウが向き合うのは、ボクよりもオジミを睨む。
「できない」否定するオジミ。
胸にある光輝く宿り木を、着物の襟の中に隠す。
「ならば、ここでこいつには死んでもらう」
ラクウが振り上げた大きな剣、その剣先をボクに向けてきた。
「ボク?」
「まずは、お前からだ。
お前は人の姿に変化した魔獣だから、ここで払っておかないといけない」
「それはさせない!」
オジミはすぐさま腰にある刀を、左手で抜く。
ボクに向けられた大きく太い剣を、一回り細く曲がった刀で受け止めた。
「ほう、戦うのか?」
「まさか、今ライラクの剣士と戦って勝てるとは思っていない。
トリアードの加護の差で、叶わぬことはわかっている」
そういいながら着物の懐に右手を突っ込んだオジミは、何やら竹筒のようなものを取り出した。
取り出した竹筒を、ラクウの足元に投げるとそのまま煙が一気に出てきた。
「煙だと、くそっ!」
ラクウがいきなり現れた煙を、手で払う。
ボクもまた煙に視界を奪われる。そんなボクの右手を引っ張る手があった。
しなやかな女性の手は、オジミのものだとすぐにわかった。
彼女が煙の中を走り、ボクはそこについて走っていく。
夜の屋外で、ランタンの明かりをかき消した明かりがやがて晴れていく。
そこには、すでにボクとオジミの姿は消えていた。
残されたのはラクウと、ランタンを持った自警団の男。
そして、穴から復帰した巨大な牛が周囲を見回していた。
「ら、ラクウ様……あの……魔獣が」
「ああ、大丈夫だ。俺達には加護があるのだから。
光の魔獣は俺たちを襲わない」
巨大な牛は、ちらりとラクウを見ていた。
だけどすぐに何事もなかったかのように、ラクウ達から離れていく。
怯えているランタン持ちの男は、息を殺して見守っていた。
「ほ、本当ですね」
「だろ、しかし、バンガディは違う。
奴らは、トリアードの加護を受けていない種族なのだからな。
あの魔獣は、バンガディを襲うわけだ。
とにかく、奴らがバンガーゼに行くのを阻止しろ。
バンガーゼに行かれたら、俺たちには簡単に手が出せないからな」
ラクウは、そういいながらそばにいる自警団の男に指示を出していた。
だが、ラクウはまだ知らない。
事の顛末を、ずっと見ていた第三の目を。




