010
シラキの奇跡の力で、公園が見えるあたりを動いているのが分かった。
おそらく、トリアードの奇跡の力で『精霊の宿り木』の居場所を見つけたのだろう。
だけど、ボクにはそれ以上の魔法があるのだ。
色と形、見たことがなくても感知することができる。ましてや、探すものが祭具だ。
位置精度はより正確に、かつ正しい場所を導き出すことができる。
その結果、ボクは森近くの一軒の小屋に近づいた。
人気のない畑が近くに見え、森らしき場所も近くにあった。
倉庫のような小屋に近づいて、戸を開ける。
「ここだな」
静かに戸を開けていた。
戸の奥には、一瞬だけど光っている何かが見えた。
その光はすぐに消えて、見えなくなった。
「誰かいるね」人の気配もした。
小屋の奥には闇が見えるが、かすかに明かりらしきものが漏れていた。
まるで蛍のように漏れる光のほうに、杖を突きながらボクはゆっくり近づく。
「犯人、出てこないと……」
「た、助けて……」
ボクがセリフを言い切る前に、一人の人間が迫ってきた。
闇の中から聞こえてくるのは、弱弱しい声だ。
迫ってきた人間は、ボクの体にそのまま抱き着いた。
「おわっ」小さな僕は、そのまま後ろに倒れてしまう。
抱き着かれて後ろに倒れて、ボクの顔あたりに押し付けられた女の胸のあたりが光っていた
(な、なんだ?僕の顔に、柔らかいものが)
布越しで、ボクの体に迫っていた。
「あっ、ライラクじゃない……」
「あ、ああ」これは間違いない、女の胸だ。
着物越しからも伝わる大きな胸がボクの顔に当たり、さらにその胸が光を放っていた。
「光るのか、あの胸は」
「え、これは」ボクの上に覆いかぶさった人物は、体を起こした。
ボクの上には、一人の女がのっかっていた。
青く長い髪は、左目を隠していた。
右目は、おびえた目で僕を見ているように見えた。
何よりも、水色無地の着物を着ていて、胸が光を帯びていた。
「お前は?」
「あたしは、オジミ」反射的に名乗った女。
「オジミ?」
「あなたはライラクじゃない、バンガディでもない。
あなたは、一体何者なの?」
「えと、ボクはフォーゴだけど……その降りてくれない?」
ボクは苦笑いをして、オジミという女にかけた。
オジミは、「すまない」と小声でつぶやく。
そのまま、ボクの体から素直に下りてくれた。
少しだけ、まだボクの胸が高鳴っていた。
オジミの光る胸が、ボクの顔にずっと当たっていたのだから。
「その光、精霊の宿り木か?」
「これは渡せません」胸にある光を隠そうと誤魔化す。
だけど、強い光を放つ宿り木の光を隠しきれていない。
「なんで盗んだ?」
「それは……」
だけどジミの言葉の前に、ボクは背後からドスドスと物音が聞こえた。
はっきりと気配を感じたボクは、オジミを抱きしめながら横に飛んだ。
「え?」オジミは驚いた顔を見せてボクに、そのまま押し倒された。
やはり、オジミの胸が当たってきた。
かなり大きなふくよかな胸が、着物越しに当たっていた。
だけど、それ以上に背中の圧力が迫っていた。
(これは、魔獣の殺気だ)
ボクは、後ろを振り返るとそこには巨大な牛が建屋を吹き飛ばしこちらを睨んでいた。
「で、出たっ!光の魔獣」
「ああ、しかし……まいったな」
ボクは魔力がまだ、回復していない。
気張っていないと、眠ってしまいそうなくらい体がダルい。
しかも体長二メートル以上で、茶色い毛並みの化け物牛だ。太い角もグルグルと巻かれた長いモノ。
光の魔獣と言われた巨大牛は、ボクらをしっかり視界にとらえていた。
(あんまり、魔法は使いたくないんだけどな)
ボクはそういいながらも、振り向いて立ち上がった。
杖を持ったまま、一つの魔法の詠唱を始めた。
魔力は、ほとんどない。トドメをさすほどの魔力は残っていない。
「土よ、かのものの足を……」
突進してくる巨大な牛。
そこにボクは、一つの魔法を完成させた。
同時に左足で、ぐるりと円を描いていた。
「『アースホール』」
すると、巨大な牛の足元にいきなり直径一メートルほどの穴が開いていた。
前足二つが、そのままいきなり開いた穴に突っ込んでいく。
牛の突進が止まると、オジミは驚いた顔を見せていた。
「これって?」
「魔法だ、とりあえずここを離れるぞ!」
ボクはオジミの手を引こうとした瞬間、一人の男が道のど真ん中に立っていた。
「やっぱりお前は、敵だったな」
そこにいたのは、剣をすでに抜いていたラクウだった。
近くにはランタンを持っていた、もう一人の人間を引き連れて。




