第十三話 喜びと思い出の美酒
第十三話 喜びと思い出の美酒
白櫻の祖父は、花護目としての知識をはじめ、様々な事柄に対しての知識が豊富で有名なのだが、それと同じくらい、酒造りの名人としても有名なのである。彼が作る酒は、美酒として名が高く、多くの妖達に好まれている。桃桜酒もその一つである。
「五年前って・・・。」
「そう。白櫻と桃姫が花護目になった年じゃな。」
白櫻と桃姫は同じ年に先代から花護目の役目を譲り受けた。それが五年前。
白櫻の祖父が五年前に作った桃桜酒は、二人がはじめて花護目として、花便りとして持ってきた花を使って作ったものである。
「孫がはじめて、花護目として花便りを送ったのじゃ。記念に残しておきたくてのう。」
そう言って愛おしそうに酒壺に浮かぶ桜の花びらを見つめた。
居なくなった両親に変わって白櫻を育てた祖父にとって、白櫻の成長はとても喜ばしいものであった。
今年は白櫻にとって試練の年となった。大樹が蕾から花を咲かせるまで時間がいつもよりかかってしまったからだ。花護目は大樹の些細な変化や異変に敏感でなければならない。なぜなら、その些細な事が、大樹にとって命取りになる可能性があるからである。
しかし、白櫻はその試練を乗り越えた。その結果、大樹は例年通り、花を咲かせた。白櫻の祖父はそれが何より嬉しかった。白櫻は花護目にはならないと言っていた時期もあった為、なおさらである。
「白櫻よ、よく乗り越えたのう。」
「別に・・・。」
祖父は微笑みながら、白櫻を褒めた。白櫻は照れ臭くなり、そっぽを向いた。
「さて、今年も各園の花便りが届けられたのじゃ。今日はこの酒を飲んで祝おうぞ。」
白櫻の祖父はそう言って、準備を始めた。三人も手伝おうと動いたのだが、白櫻がある物を見つけ、固まってしまった。
「白櫻?」
緋梅が気づき、声をかけた。桃姫も気づき、近づいてきた。
「・・・じいさん、その左手に持っている物は何だい。」
白櫻の言葉に、桃姫と緋梅の視線は、祖父の左手に向けられた。二人は、顔を引きつらせ、固まった。白櫻は呆れ顔で、ため息をついた。そして、緋梅は桃姫の後ろに隠れるかのように立ち、桃姫は白櫻が持ってきた花便りの枝を握りしめ、白櫻に問いかけた。
「ねえ、白櫻。貴方のおじい様が持っている物って、まさか・・・。」
「二人が思っているので、間違いないよ。」
白櫻は頭を抱えた。そんな三人に気づいた白櫻の祖父は、
「これは先日作った酒のつまみじゃよ。うまくできておるじゃろう。」
花の章第十三話を読んでくださり、ありがとうございます。
今回のお話も過去のお話となりました。
それでは今回の花の章ちょっこと説明書
今回は、白櫻の祖父が作るお酒について。
白櫻の祖父は、今回のお話でもありました通り、酒造りの名人です。普段、自分が飲むお酒は自分の手作りなんです。お酒を造るのは、かなり容易な事ではありません。それは何か作ることに関して全てです。白櫻の祖父もお酒を造れるようになるまで、かなりの時間がかかりました。その時間があったからこそ、名人と呼ばれるまでになったのです。ちなみに白櫻も祖父の造ったお酒はおいしいと言っています。そして、初めて造ったお酒は奥さん(白櫻の祖母)と一緒に飲みました。(このエピソードもいずれは書きたい。)
花の章第十三話「喜びと思い出の美酒」を読んでくださり、ありがとうございます。
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