表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/108

第七十七話……烏賊市場の政庁

朝焼けの海は美しい。

のちに雨が降ることがわかっていても。





 日の出が美しい大海にて、荒々しく波を刻んで走るブタ船団旗艦エウロパ号と僚船群は、海図に印をされていた岩礁を左へ回頭した。

 だんだんに整備された入り江が見えてきた。



「殿、海図の通りですと、ここがアルサン侯爵領東端の港町ジャムシードでございますな」


ヴェロヴェマは少し疑った意趣を覗かせた。

 彼らは陸戦の勇士であって、海の上はやはり心なしか心配の様だった。ブタは珍しくそれを感じ取り、


「ちゃんと地図はあってるブヒ~♪」


とわざと明るく笑って見せたところ、船倉からザムエルが上がってきて、


「カッカッカ! そうでしょうとも、殿が天国と言えば、そこが地獄であってもそこは天国と思うのが臣と申すもの!」


ザムエルは大いに笑い、そして皆を和ませた。


「流石は伯父貴よの」


 ヴェロヴェマは静かに『参った』といった表情でつぶやいた。

 彼らに特に縁戚関係はないが、古くからのブタ家臣からザムエルは次第に伯父貴と慕われてきていた。




――接岸後。


「殿、私どもはこれから港湾事務所に行って入港手続きをしてまいります」


 そう言ってザムエルとヴェロヴェマはブタ達と別れた。

 ここは完全に人間の文化圏なので、骸骨姿のザムエルは鉄仮面に季節外れの厚手のフードといった格好だった。



 ブタはジャムシードの政庁が開くまでには少し時間があったので、ウサたちと相談をし、朝の魚河岸を見て歩くことになった。



「いらっしゃい!」


 威勢のいい女性の声が響く。

 市場は活気にあふれており、とてもこれから戦が行われるような気配ではなかった。



「あ、あの……、このへんの戦とか、どういう情勢ブヒ?」


 ブタが若い男の仲買人らしき男に尋ねた。


「戦? ああ、らしいね」

「でもさそれで特に我々の仕事が変わるわけでないしね」


 若い男は忙しそうに箱を並べながら答えてくれた。


 忙しない若い男が言うには、アルサン侯爵側も反乱勢力側もこの港の重要性は嫌というほどわかっており、とくに反乱勢力側の領主の中には漁業で生計を立てている漁師の親玉みたいな海賊領主もいるとのことだった。

 当然、魚を現金化できるこの港の住民に矛は向けにくい。

 更にはこの港町ジャムシードより東は、海の中に島がぽつぽつと続いている地勢らしい。


 若い男は『忙しいから、またな』とブタに手振り、急いで魚の入った箱を担ぎ、仕事仲間のところへ戻っていった。




「ブヒ!?」


 ブタがリーリヤたちの元へ戻ってみると、リーリヤとポコが小さな真珠のアクササリーまみれになっていた。



「ウサちゃんが買ってくれたの~♪」

「ぽこ~♪」


 <(`^´)> 喜ぶ二人に、威張るウサギ。



「また来てね~」


 真珠アクセサリーを扱う行商人のおばあちゃんが、笑顔で手を振りながら離れていった。

 ちなみにウサはブタ領鉱山関連の最高責任者であるので、お小遣い制のブタよりよっぽどお金持ちだった。




「殿、こちらでしたか?」


 ブタはリーリヤたちと早めのお昼をジャムシードの出店で食べていると、エーデルハイトがやってきて声を掛けてきた。

 なにしろこの港町で二足歩行のブタは、彼女の主しかいない。

 とても見つけやすかった。



「ザムエル殿とヴェロヴェマ殿は兵士の野営地を町はずれに造るから、先に政庁へ挨拶に行ってきてほしいとのことであります」


 大勢の見知らぬ人達の前なので、報告後に珍しくきちんとした敬礼をする緊張の面持ちのエーデルハイトに少しブタは困惑しながら、



「わかったブヒ」


 と短く答え、エーデルハイトも加わり、皆で楽しく食事を続けた。




「まいどあり!」


 出店の親父の言葉に笑顔で答えると、ブタ達は町はずれの丘の上にある政庁を目指した。


 政庁よりさらに一段高いところには防御用の城塞も見えた。隅部に張り出した石造りの四角い出隅がとても目立つ。


 ちなみに防御施設とは高ければ高い処にある方が有用である。

 視界としても上からは下が見下ろせるが、下からの逆はほぼない。

 現代兵器においてもミサイルは高い処から飛ばした方が射程は長くなるし、レーダーの有効範囲も一般的に広くなる。

 いわんや弓矢と投擲が主力の世界ならば、絶対的に有利と言ってもおかしくはなかった。


 ブタは趣味でもあるこの後の防塞造りに思いを馳せながら政庁まで登った。




「止まれ!! 怪しいやつ」


 政庁の門を見張る衛士の厳しい声が、政庁の敷地へ入ろうとしたブタ達を呼び止める。

 護衛のアーデルハイト以外は、ブタとウサギとタヌキと猫と幼女なのだ。


 とても『怪しくありません』とはいいがたい一行ではあった。

みなさまの温かい【ご感想】が当ブタ作の栄養源になります (`・ω・´)ゞ ご感想感謝~♪


【ブタ的なレトロ戦争ゲーム用語集】……砲


自走式でない大砲を概ね指す。自動車や馬などで牽引するタイプや、備え付けられた陣地砲台タイプがある。

港湾を守る要塞砲の威力は多くのプレーヤーの心をへし折る。インチキ臭い威力を誇る高射砲や対戦車砲も数多存在し、プレーヤーの戦車や戦闘機を多数叩き壊した悪役。


現実世界において、個人で扱う小銃よりはるか昔から実用化。さく裂弾はなくとも多く建造物を叩き壊した。

映画や絵画だとナポレオンが牽引式の砲の代名詞な気がする。あるカードゲームでも砲はナポレオンだった ( ˘ω˘) ←世界史を学校でとってない子なので詳しくは不明。


当ブタコメディーは【にゃっぽり~と航空】様と【(非公式)アスキーアート同好会】様の提供でお送りしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000
(バナー作:「砂礫零」様)

i000000
(バナー作:「秋の桜子」様)
― 新着の感想 ―
[良い点] モロゾフ将軍が、一体何を用意する気なのかがひっじょーに気になりますな……。 そして当然、新たな場所での物語も! [一言] ナポレオンは数学に明るく、大砲の弾道やら射程距離やらをキチンと…
[一言] それはもう88ミリ砲を水平撃ちして、マチルダⅡが次々に血祭りに・・・・・・のイメージが強いのもあるのでしょうね。
[一言] ブタくんお小遣い制なんだww ドヤ顔のウサ可愛いw >港湾を守る要塞砲の威力は多くのプレーヤーの心をへし折る。 シミュレーションゲームとかでも、要塞砲は大体厄介な存在ですよねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ