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第十七話…奪回

 今日の空は納屋の天井。外の音から察するに今日は大雨だ。





──稲光が光る空の下、ブタは薄暗い納屋の中で銅貨を数えていた。

 なにしろ、こんど馬を届けに来てくれる行商人に払う銅貨は手数料と運搬代もふくめ、なんと六万枚。


 いろんなことに鈍くさい無能なブタには、銅貨数えの栄誉が賜れていたのだ!



「ブヒブヒブーブー」


 ぢゃらじゃら……



「銅貨が一枚…二枚…三枚っと」



──ドウッ!!

 

 突然にけたたましい音を立ててドアが開く!



「殿! 大変もぅぅぅううう!!」


 急ぎの知らせをもたらせてくれた牛だったが、銅貨を整然と並べた山までも勢いよく叩き崩した!



 Σ( ̄□ ̄|||) げぇ~あとちょっとだったでござるのに……。



 ……。



 (`・ω・´) 「許さん! 今日は絶対にビフテキでござる!」


 (´;ω;`) 「もぉぉぉおおお??」




―――


 そのころ……


 スメルズ男爵の先鋒であるトリスタン騎士爵率いる800の兵を蹴散らしたハイオーク族族長アガートラムは、スメルズ男爵が直接率いる本隊を探し求めて北上していた。



 彼らが求めるもの、それは誇りの奪回だった。


 ボロンフ辺境伯爵の進める街道工事のために、彼らモンスターは2か月そこら前まで深い森の奥へ押し込められていたのだ。

 しかも彼らの隠れ住む森でさえ、伐採の危機にさらされていたのだ。



 ブタという都合の良い兵站を手にし、彼らは人間たちへの復讐を追い求めたのだった。




 ……とある湿地帯にて、アガートラムたちはついにスメルズ男爵率いる本隊を捕捉した。


 水草にカモフラージュをして、沼地にに半身を隠し潜むホブゴブリン。

 彼は磨きあがられた銅鏡で味方へ合図を送った。



 ……。


「斥候より発行信号!」


「読め!」


「はっ!……敵2000余ト見ユ、柵ヲ施シタ陣地アリ。とのことです!」



 アガートラムは獲物を天高く掲げ、吠えた。


「ワシにつづけぇぇええ!!」


「ォォォオオオオオ!!」



 オークたちは訓練で決められた距離まで進み、大盾を持った者が前へ進む。

 そのすぐ後ろに、大きなオークが強弓で矢を放つ。



 甲高い空を裂くような音が人間たちの陣地に降り注ぐ。



 ……が、今度は勝手が違った。


 逃げ延びた先鋒部隊の兵士から情報を得ていたのだ。

 人間たちは木製の置き盾などを並べ、身を屈める。



「ッウ!!」


―――アガートラムは思わず歯噛みした。



「小癪な人間どもよ! 槍隊前へ!」


「ォウゥゥゥ!」


 盾を構えたオークたちが、槍襖をつくって前進する。その隊列はもはやモンスターのそれではない……。



「下賤な獣どもに神の鉄槌をくらわせろぉぉぉ!」


 人間側の将校が叫ぶ!

 柵の後ろに整然と並んだ弓兵たちは矢をつがえオークたちに次々に放つ。


 オークたちの前面には、前回の先鋒部隊800名より多い2000名以上が柵の中に陣取っていると思われた。

 当然人間側の弓兵も多く、今度は不意も突けてはいないのだ。



 それでもオークたちは木の枝をロープで束ねたものを、それぞれの頭上にかかげ矢を防ぎ、前へ前へと歩を進める。


 じりじりと人間側の陣地に近づき、さらには鍵縄で柵を引き倒した。



 ……いったいオークはいつの間に、これほどまでにいかに集団戦を理解したのか?

 人間側の将校は頭を悩ませたに違いはなかった。


 実は彼らのそれは、若き頃戦場を駆け回り勇躍を馳せた人間である老騎士の激しい訓練に耐えてきた成果だったのだ!

 人間の真の敵は人間かも知れない。



「かかれぃぃいい」


 柵が引き倒されたのを見て、アガートラムは号令する。


「ゥゥゥオオオオ!!」


 オークたちは木の枝をロープで束ねたものを投げ捨て、我先へと人間たちの陣地の中へと殺到した。

 ついに、人間たちは我先にと武器を捨てて潰走した。



 ……はずだった。


 オークたちは人間たちのテントや幕舎を引き倒し、その後ろにある景色に目を疑った。



 目の前には再び新しい柵が並んでおり、その後ろに整然と並んだ人間の兵士たちがいたのだった。

 その後ろには指揮官たるスメルズ男爵も馬上の人となっている。



「謀られたわ!」


 アガートラムは怨念にも聞こえる声をひねり出した。


「さほど距離はない! 突っ込め!」


 オークたちはひた走って柵へと近づく!


 が……、信じられない数の矢が彼らを迎えた。

 弓とはかなり技量を伴わなければ使えない。が、人間たちが手にしていたのは弩だった。


 弩は高価であるが、農民上がりの非正規兵を簡単に一人前の弓兵に仕上げる。スメルズ男爵は弩の集中運用によって、麾下の兵を大量の弓兵に仕立てたのだった。


 ……暴風雨のような、矢が降り注ぐ。

 が、青き硬質の皮膚組織を持つハイオークたちに深手を負わすのは難しかった。



「!?」


 矢を受けたアガートラムがたじろぐ。【痺れる】のだ!!



「毒矢とは卑怯なり!!」


 ……確かに人間同士が戦うのに、のちのちの怨恨を考えると、毒矢を使うのは憚られたであろうが、今日の相手はモンスターであるオークたちなのだ!


 次々にオークたちは毒が回り、足を止め膝をついた。




【万事休す!】


 アガートラムは天を見上げた……。



「!?」


 ……昼なのに、空が暗かった。



―――ギャォォォオオオオ!!


 天をも裂くような声が響き渡る。

 大きな羽をはばたかせ降下してくる、そう、かの名はドラゴン。



 誰もが知りえる恐怖の対象にして最強の生物!



「なぜだっぁああ!?」


 八分方勝ちを収めつつあったスメルズ男爵がそう激高したのも無理はない、こんな人里近くに伝説に名高い生物が出てくるはずはなかったからだ。


 が、指揮官たちの思惑はともかくとして、オークも人間たちも命が惜しいため必死に自分たちの住処へ近い方向にひたすら走った。絶対に逃げないといけない相手は確かに存在するのだ!


 武器も食料も誇りもみんな放り投げてひたすら走って逃げた。

 泣き叫ぶものや、糞尿を垂れ流しながらも必死に生き物としての性として走った。




 ……人間もオークも逃げ出した後に、大きなクレーターができていた。


 実はドラゴンは墜落していたのだ。






―――クレーターの真ん中で、ちっちゃい子猫が気絶していた。


 そう彼女こそ伝説の【竜変身魔法使い】である虎の、コダイ・リューだった。





 ……モゥ? 銅貨を数える宿題を出されていた牛は今も丸太小屋の中で、石狩鍋をロバと一緒にたらふく食べてぐうぐう寝ていた~♪


【今日のブタトンテキな卓球用語】 … 『シュートドライブ』


一般的に【ドライブ(前進回転)】はラケットを振った方向に巻くように曲がるが、これを逆方向に曲げる球筋を言う。高等技術である。

ブタ的なレベルではどうなのか? そもそも「そんなことをしてる暇はないわ!」くらい返すので手一杯であるww


当ブタコメディーは【にゃっぽり~と航空】様と【(非公式)アスキーアート同好会】様の提供でお送りしました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほどなるほど、そう来ますか~、って感じでしたね。 ブタんとこ、とんでもねえ戦力になってきたなあ……ブタ以外。
[一言] メッチャハラハラして面白かったです!! 普通に戦記モノとしても楽しめますねこれ! そしてリューちゃん、グッジョブ!!w
[良い点] 戦闘描写が分かりやすくて、面白いです。 勉強させてもらいました。
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