第九十四話……野営する情景【三顧の礼・後編】
今日の天気は晴れ。
もうすぐ夏の熱気がやってくるみたい。
「もう一杯頂こうか」
「どうぞブヒ」
自称知恵者の軍師志望の小男グスタフ。彼はブタとニャッポ村の大衆向けパブで飲んでいた。
先日、グスタフは老騎士の設定した採用試験を受けるも落選した。
しかし、その後も釣りをするブタの下に、就職を求めて毎日やってきたのだ。
その姿がなんとも憎めなくなり、ブタは彼をお酒に誘ったのだった。
「ぷは~旨い!」
ぐびぐびと美味しそうに安い酒をあおるグスタフ。
「そもそも、君主たるものが釣りをする賢者に教えを乞うのが筋ですぞ! これでは全く逆ではありませぬか! けしからん」
「ごめんブヒ」
酔っぱらったグスタフの叱責を、ジュースをチビチビ飲みながらしばらく聞きに徹するブタ。
グスタフが三つ目のエールの盃を空けたころ。
「でもなんでそんなに軍師にこだわるブヒ?」
ブタは疑問に思ったことを聞いてみた。
「そりゃ三国一の軍師として名高いコウメイに若いころからあこがれてたのよ、むにゃむにゃ」
グスタフはお酒が好きな割には、お酒に強くなさそうな男だった。
「三国一って、どこの三国ブヒ?」
「なもの決まってますよ、ニホンとチュウゴクとインドですよ! 知らないんですか? だから最近の若い者は……むにゃむにゃ」
Σ( ̄皿 ̄|||) ぇ?
ブタは学校の歴史の時間で習ったことを必死に思い出していた。昔の地球上にチュウゴクとインドという古の大国があったのを習っていたからだ。
ブタは暫し逡巡するも意を決し、酔いつぶれかかったグスタフに聞いてみた。
「グスタフさんはどこで生まれたブヒ?」
「あはは……、信じないでしょうがね、ここよりはるか遠く文明の進んだ地球というとこでさぁ」
酔いが回り、焦点が定まらない目をするグスタフの胸元をブタはいきなりつかんだ。そして目を覚まさせるように揺すった。
「も、もっとお話を聞かせるブヒ!!」
興奮するブタに目を丸くするグスタフ。あまりのブタの豹変ぶりに、となりで寝かかっていたポコも目が覚めた。
「ブルー君、どうしたポコ?」
ブタにとっても長い夜がはじまったようだった。
――その少し前の夕方。
ハリコフ王国領最南端ハンスロルの地にて、ボルドーは馬上の人となっていた。彼の後ろには暮れかかる西日が穏やかに差し込んでいた。
「反徒ローレンスの野営地は、ここより一日半の地点でございました」
斥候の騎士がボルドーにそう告げた。ボルドーはそれを聞くなり、
「全軍停止!」
「ここで野営をする! 決戦は明日だ! 皆しっかり寝ておけよ」
と部下たちに命令し、野営の準備をはじめさせた。
――それから暫く後。ローレンス辺境伯爵の幕舎の中。
「ボルドーはここより一日半の地にて野営の由」
配下の伝令の報告に頷いたローレンスは、
「決戦は明日以降になろう、全軍の装備を解かせ休ませろ」
「あと明日までに出来るだけ味方を増やすよう各地に檄を飛ばせ」
ローレンスの指示を聞いた家臣たちはその実施に移っていった。この時点でローレンス辺境伯爵の軍勢は6000名。対するボルドー上級伯爵の軍勢は3000名に満たなかった。しかし時間が過ぎれば強大なハリコフ王国が立ち直り、ボルドー上級伯爵の方が優位になる日が来るかもしれなかった。
『明日か、明後日に撃破せなばな……』ローレンスはそう呟いた。彼は優位な状況での決戦を行いたかった。
それに備えローレンスは明かりを消し、彼自身も明日以降に英気を養うことにした。
――が、
「敵襲!」
「味方の裏切りだ!」
「誰が裏切った!?」
けたたましい悲鳴と、緊急事態を知らせる鐘の音が一帯に響いた。
ローレンス辺境伯爵は飛び起き、近くにあった外套を羽織り幕舎の外に出た。
彼の目の前に広がったのは、無残にも劫火に包まれる彼の陣地と、夜中故混乱の極みに達する彼の兵士たちだった。
「これはどうしたことか!?」
急ぎやってきた家臣に問うも、
「わかりませぬ。裏切りとも敵襲とも」
誰も状況を掴みかねていた。が、近習のものが馬を連れ、駆けよってきて、
「なにはともあれ、今はお逃げくだされ!」
「お、おう」
ローレンス辺境伯爵は危険を感じて馬に跨り逃走。それを見た兵士たちが我先にと武器を捨てて逃げ出した。
兵士たちは武装解除の命令を受けていたために、鎧をなげうち寝ていた。よって多くが裸に近い状態で逃げる羽目になった。
「よし、退け」
暗闇の中、ローレンス辺境伯爵の陣地を夜襲したボルドーは、麾下の者にそう指示をした。
「追い打ちし、ローレンスの首を確実に取りましょう」
「いや、要らぬ。今は捨ておけ」
ボルドーは彼の部下の進言をいれず、兵をまとめ陽が昇らぬうちに撤収した。
彼は何故距離の離れた地に夜襲できたのであろうか。
実は彼は野営をするとの命を出し、ローレンス辺境伯爵の偵察部隊に今日は動かないとの情景をわざと見せた。
しかしボルドーは秘密裏に全部隊より移動力に優れた騎乗騎士のみを抽出し、夜間の強行軍を行い、夜襲を決行したのだった。
ボルドーは武勇の人ではなかったが、情報処理に関してはとても優秀だった。彼はローレンスという人の性格を見抜き、そして情報を操り罠にはめたのだった。
また、ボルドー側の騎兵と言ってもせいぜい600名に届かず、そのような寡兵にて危険な奇襲を受けるとはローレンス以外であれ普通は思わなかった。
「ボルドー様、万歳!」
「上級伯爵さま、万歳!!」
ボルドー伯爵とその麾下の兵たちはハンスロルの居城に引き上げ、彼らの支持者の熱狂的な歓迎に包まれた。
戦勝ムードに包まれる情景。
城にそびえる塔の窓際で、コンスタンスはボルドーの無事な姿に安堵し、その小さな胸を撫でおろしたのだった。
みなさまの温かい【ご感想】が当ブタ作の栄養源になります (`・ω・´)ゞ ご感想感謝~♪
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【ブタ的な歴史SLG用語集】……旗本
古い日本の歴史SLGの多くが旗本部隊がやられると敗北である。
ちなみに旗本部隊は多くのゲームではあまり強くは設定されてはいない。
実際には、江戸時代以前は旗本はその仕える主の親戚からなる親衛隊であった。
よって忠誠心も高く、武装も優れたエリート部隊である。
作者も一度でいいから親衛隊と呼ばれるようなエリートになってみたいものである ( ˘ω˘)
当ブタコメディーは【にゃっぽり~と航空】様と【(非公式)アスキーアート同好会】様の提供でお送りしました。