俺と甲賀3
「私の能力、《隣扉横戸》と、十羽の《至高の拳銃》が揃えば、最初から無敵だったのよ!」
大隣 鄰と大隣 十羽の姉妹はなす術のない三人を見て高笑いする。
――《隣扉横戸》
突如空間が歪曲し、そこから火威、虎走、九頭竜の三名がいるのが見える。火威の予想通り、この能力は空間と空間を繋ぐどこで〇ドアの役割を果たす能力である。
一方の《至高の拳銃》は弾薬を一切必要としない拳銃で、自動装填で隙のない攻撃がくり出せる利点がある。
「がはッ!」
三発の銃弾が九頭竜の胸部にヒットする。その痛みに必死に耐えながらも、悲痛な呻き声を上げる九頭竜。
「九頭竜さん!」
無意識にまた攻撃を受けた人間の方に一瞬足を向けた両名だったが、今度は踏みとどまった。
「一瞬だが、銃弾が現れたところに穴が……」
俺はその一瞬を見逃さなかった。
「あの穴の中に敵がいるんだな……」
きっと次はこの中の誰かが確実に殺られる。そう確信する三人。
「俺が、囮になる。その間に二人で向こうの敵にブチかましてやるんだ……」
「でも、九頭竜さん、その体じゃ……」
九頭竜の体からは赤黒い血が絶え間なく流れ続けている。
――《双截龍》……
銃弾でできた穴を炎で焼いて、無理矢理塞ぐ九頭竜。
「こう言う命がけの旅ってのを俺はやってみたかった……こうして死闘を繰り広げてるのってよ……会社で毎日パソコン相手につまんねーことやってるよりよっぽど楽しいんだ……」
――大人になってみれば、それが分かるさ……
「次の攻撃で……決めます!」
俺は二人に、そして自分に言い聞かせるようにして宣言する。次の攻撃が来た時に全力の《獄炎の射手》をブチ当てる! そうするしか俺たちが生きる方法はない。
その覚悟から一体どれくらいの時間が経っただろうか。
こちらの緊張状態が少しでも解かれるのを待っているのか、九頭竜への攻撃からしばらく、一切の攻撃がなかった。
「俺、この戦いが終わったら婚活するんだ……」
「九頭竜さん、やめてくださいよそんな死亡フラグ。しかも結婚じゃない辺り、リアル感あって嫌なんですけど……」
九頭竜は面映ゆいと言う表情で語ってはいるが、聞いている二人はまだ遠い話だと思って軽く聞き流す程度の気持ちでいる。
「いつまでもアニメばかり見てたら、子ども部屋おじさんってのと大差ないからな。でも、俺分かってるんだよ、きっとこの思いを受け止めることができる人っていないんだってことが……」
「でも、今狙ってる人が美人の人とかだったらどうするッスか? 運命感じるッスか?」
そうだなあ、と九頭竜は一瞬下を向いて考えこむ仕草をして、
「それなら運命……感じちゃうよなあ……」
そんなことを話していた、ちょうどそんな時だった。
――バン!
空間が削り取られたように歪みだしたと思ったら、一瞬にして九頭竜の額に向かって一直線に銃弾が飛んできた。九頭竜は後ろ向きにあっという間になす術無く倒れ込んだ。
「九頭竜さん!!」
――《無尽蔵暴走二輪車》!
虎走は咄嗟にパワードスーツで歪曲した空間の隅を抑えて穴が閉じるのを防ぐ。
「兄貴ッ! ブチ込むッス! この中に全力の炎をッ!」
一方的に弄られていた分、鬱憤が溜まってるんだよ! どこの誰だか知らないが……
「俺が燃やし尽くして、灰1つ残らないように火葬してやる!」
――《獄炎の射手》!!!
俺は今期がアニメが退屈だっただけなのに、どうして命まで狙われているんだ、なんてことを考えながら全力の炎を塞ぎかけている穴に向けてぶつける。
「憎しみの炎だって、情熱の炎だって、おんなじ炎なんだッ! 俺は憎悪も嫌悪も邪悪も情愛も情動も情緒もなんだって入れ込んで混ぜ込んでやるよッ!」
穴は次第にふさがりはしたものの、向こうにいた能力者に対して効果があったのかどうかは分からなかった。
「きっと逃がしちまった……すまない……」
「兄貴が謝る必要ないッスよ! 自分たちが無事だっただけ、儲けものッス!」
――ほら、この通り、九頭竜さんも無事ッスし。
九頭竜は額をぶち抜かれる一瞬、《双截龍》を発動し、体を二つに分離させていた。どうしてそんなことをしたのかと言うと、
「穴の向こうに……美人が二人いたから……二人にならないとって思って……」
と言うことだった。本当かどうかは分からないが、この咄嗟の行動が功を奏し、最悪の事態を避けることができた。
「九頭竜さんが二人になったとしても、二人の美女と付き合うのは無理ッスからね……」
「それぐらい分かってるさ」
九頭竜さんの婚活が……今……始まる(かもしれない)。